藤川IP特許事務所メールマガジン 2022年12月号
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◇◆◇ 藤川IP特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
2022年12月
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
┃
┃ ☆知財講座☆
┃(11)特許庁への情報提供(刊行物提出)
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┃ ☆ニューストピックス☆
┃
┃ ■AI関連発明の特許出願状況を公表(特許庁)
┃ ■再生トナーカートリッジ訴訟、リコーの勝訴が確定(最高裁)
┃ ■「ファスト映画」投稿で5億円賠償命令(東京地裁)
┃ ■仮想空間での知財保護を協議(知的財産戦略本部)
┃ ■特許審査の質についてのユーザー評価調査報告(特許庁)
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近年、AI(人工知能)関連の特許出願件数が増加傾向にあることを受け、特許庁は、AI関連の技術について、国内外における特許出願状況の調査結果を発表しました。
今号では、AI関連発明の調査結果の概要について紹介します。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(11)特許庁への情報提供(刊行物提出)
【質 問】
特許調査でライバルメーカーが行っている特許出願を発見しました。
この特許出願で特許請求されている発明は当業界では従来から行っていたことの延長線上にあるものなので、特許は成立しないのではないかと思います。
ライバルメーカーの特許出願に特許成立することを阻止する目的で何かできることはありますか?
<刊行物提出>
特許出願で特許請求されている発明が、新規性、進歩性などの特許性を備えていないと思われる、等の事情について、特許庁に情報提供することができます(特許法施行規則第13条の2)。
一般的に、特許出願で特許請求されている発明の新規性や進歩性などを否定する根拠になると思われる先行技術文献を提出する手続で「刊行物提出」と呼ばれます。
特許庁によりますと、近年、刊行物提出件数は、年間7千件前後で推移し、刊行物提出を受けた案件の73%において、提出された文献等を拒絶理由通知中で引用文献等として利用しているとのことです。
<情報提供できる人>
何人も刊行物提出できます。
なお、特許庁へ提出する「刊行物提出書」における「提出者」の欄の「氏名又は名称」、「住所又は居所」に「省略」と記載することで、匿名で刊行物提出を行うことができます。
<情報提供の対象となる特許出願>
特許庁に係属している特許出願に対して刊行物提出できます。
特許庁の審査で拒絶査定が確定した等で特許庁に係属しなくなった特許出願に対しては刊行物提出できません。
なお、対象の特許出願に審査請求が行われているかどうかに関係なく刊行物提出を行うことができます。
刊行物提出は提出する刊行物を特許庁での審査に利用してもらう目的で行うものです。
そこで、J-Plat Patでの検索で、審査請求が行われているが審査請求後数カ月しか経過しておらず、まだ特許庁審査官が審査に着手していないと思われるような特許出願や、まだ審査請求が行われていない特許出願に対して刊行物提出を行うのが一般的です。
<提出することができる情報>
対象出願で特許請求している発明(=「特許請求の範囲」の請求項に記載されている発明)が、新規性、進歩性欠如により特許を受けることができない旨の情報(特許出願前に頒布されていた刊行物、インターネットを通じて公衆に利用可能となった情報、等)を提出できます。
特許出願の技術分野に関係している業界内で頒布されている雑誌などの刊行物は特許庁が収集している先行技術情報の中に含まれていないことがあります。
そこで、J-Plat Patの検索で発見した先行技術文献(特許出願公開公報、等)だけでなく、雑誌や、業界紙・誌、発行日を確定できる宣伝・広告物なども刊行物提出で提出することがあります。
<提供された情報の取扱い>
審査官は、提供された刊行物については、原則、その内容を確認し、審査において有効活用を図ることになっています。
なお、特許出願の審査は職権探知主義になっていて、審査を受けている発明が拒絶理由を有するものであるかどうかは職権で調査すべき事項になります。
そこで、刊行物提出が行われた場合に、提出された刊行物の記載によって審査している発明に対して新規性・進歩性欠如の拒絶理由があると認められた場合に審査官がその旨の拒絶理由を通知するのは当然ですが、刊行物提出が行われた場合であっても、審査している発明の新規性、進歩性を検討・判断するために必要な先行技術調査が通常の審査の場合と同様に行われます。
そこで、刊行物提出で提出された刊行物で新規性欠如・進歩性欠如の拒絶理由を構成できない場合であっても、審査官が独自に行った先行技術調査の結果に基づいて新規性欠如、進歩性欠如の拒絶理由が通知されることがあります。
<特許出願人への通知>
刊行物提出があった事実は特許出願人に通知されます。
刊行物提出で特許庁に提出された刊行物は、特許庁から閲覧に供せられ、誰でもが閲覧申請を行うことで内容を知ることができます。
特許出願人も刊行物提出があった旨の通知を特許庁から受けた後、閲覧申請を行って、提出された刊行物の内容を把握、確認できます。
特許出願人が審査請求を行う前に刊行物提出が行われ、特許出願人がその内容を把握、確認して、「これでは、審査を受けても新規性、進歩性欠如と判断されて特許取得を望むことができない」と判断した場合には、期限(出願日から3年)までに審査請求を行わず、特許出願が取り下げ擬制によって消滅することもあり得ます。
しかし、一般的には、提出された刊行物以外の情報についても調査、審査を行ってその結果が拒絶理由として特許庁から通知されるのを待つことになると思われます。
<情報提供者へのフィードバック>
刊行物提出で提出した刊行物の利用状況については、提出者が希望することで特許庁からフィードバックを受けることができます。
この場合は、刊行物等提出書にその旨を記載することになります。
なお、これは利用状況を確認できるだけのものです。提出した刊行物を審査官が新規性・進歩性欠如の拒絶理由に利用し、その旨の拒絶理由を通知したことに対して特許出願人が拒絶理由解消の目的で提出した意見書・補正書の内容に関して何らかの意見申し立てを行うことはできません。
あくまでも、審査に利用してもらう先行技術文献としての刊行物提出を行えるだけです。
現状では、J-Plat Patで「経過情報」を確認することで、提出した刊行物が拒絶理由に利用されたかどうかを簡単に確認できます。
<次号のご案内>
本号では特許出願中のものに対する情報提供を紹介しました。
次号では、特許成立済のものに対する情報提供に関するご質問に回答します。
■ニューストピックス■
・AI関連発明の出願状況を公表(特許庁)
近年、AI(Artificial Intelligence;人工知能)関連の特許出願件数が増加傾向にあることを受け、特許庁は、AI関連技術について、国内外における特許出願状況の調査結果を発表しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
AI関連発明の国内特許出願件数は、第三次AIブームの影響で2014年以降、毎年増加しており、2014年には1,084件でしたが、その6年後である2020年には5,745件となりました。
調査結果によると、AI関連発明に用いられる主要技術は機械学習で、中でも深層学習(ディープラーニング)に言及する出願が急増。
「ディープラーニング」とは、大量のデータがもつ特徴を自動的に学習・抽出し、データの相互関係や法則性を導き出すもので、AI関連発明のうち、約半分の出願書類(要約、請求項、明細書)に「ディープラーニング(深層学習)」等の用語が使用されています。
AIの適用分野としては、画像処理、情報検索・推薦、ビジネス関連、医学診断分野などの出願が多いことがわかりました。
また、企業別のAI関連発明の国内出願件数(2014年以降に出願されて2022年6月までに公開されたもの)をみると、1位は富士通(970件)、これに続いて上位10社は、NTT(831件)、日立製作所(693件)、キヤノン(663件)、トヨタ自動車(547件)、東芝(402件)、ファナック(394件)、KDDI(301件)、NEC(284件)、三菱電機(281件)となりました。
AIに関する出願は各国で増加傾向にあり、特に、米国と中国の出願件数が突出しています。
両国が世界における主要な出願先となっており、日本においても今後、AIを活用したイノベーションの創出が期待されています。
・再生トナーカートリッジ訴訟、リコーの勝訴が確定(最高裁)
電子部品が取り替えられたトナーカートリッジの再生品に対する特許権行使の可否が争われた訴訟で、リコーは、最高裁判所がリサイクルトナーのディエスジャパンの上告を不受理とする決定を下し、知的財産高等裁判所によるリコーの勝訴判決(令和2年(ネ)第10057号 特許権侵害差止等請求控訴事件(令和4年3月29日判決言渡))が確定したと発表しました。
発表によると、ディエスジャパンは、リコーが製造及び販売するプリンタに対応する使用済みのトナーカートリッジ製品から電子部品を取り外し、ディエスジャパン社の電子部品に取り替えた上で、トナーを再充填して製造した各トナーカートリッジ製品を販売していました。
リコーは、ディエスジャパンの行為について、各特許権の侵害に当たる旨を主張し、特許法100条1項及び2項に基づき製品の販売等の差止めと廃棄並びに電子部品の廃棄を求め、各特許権侵害の不法行為に基づき損害賠償請求の連帯支払を求めていました。
知財高裁は、独占禁止法の抵触を理由に電子部品に関する特許権の行使が権利濫用に当たるとしてリコーの請求を棄却した一審判決を覆し、権利濫用を否定して、リコーの請求を一部認容しました。
判決では、特許権に基づく差止請求権及び損害賠償請求権を行使することは、競争者に対する取引妨害として独占禁止法(独占禁止法19条、2条9項6号、一般指定14項)に抵触するものではなく、特許法の目的である「産業の発達」を阻害し又は、特許制度の趣旨を逸脱するものではなく、権利の濫用に当たらないと判断しました。
・「ファスト映画」投稿で5億円賠償命令(東京地裁)
映画を無断で短く編集した違法な動画「ファスト映画」をネット上に公開したとして、著作権法違反の罪で有罪が確定した投稿者に大手映画会社などが損害賠償を求めた裁判で、東京地方裁判所は請求通り、総額5億円の賠償を命じる判決を言い渡しました。
「ファスト映画」とは、映画の映像を許可なく使って字幕やナレーションをつけて10分程度に編集してストーリーを明かす違法な動画です。
投稿者は、「ファスト映画」をネット上に公開して広告収入を得ていたとして、去年、著作権法違反の罪で有罪が確定しました。
地裁判決では、投稿者が実際に得た700万円程度の広告収入を大幅に上回る額を原告の映像大手13社の損害として認定。
損害額については、「1再生当たり200円とするのが相当」という考え方を示し、そのうえで、作品ごとに再生数をかけあわせると、損害額は20億円以上にのぼると指摘し、総額5億円の賠償を命じました。
「ファスト映画」による損害額について司法判断が示されたのは初めてです。
・仮想空間での知財保護を協議(知的財産戦略本部)
政府の知的財産戦略本部は、インターネット上の仮想空間「メタバース」をめぐる知的財産権保護に向けた法整備を協議するため、官民連携会議を立ち上げました。
仮想空間では利用者が自分の分身である「アバター」で遊んだり、他者とコミュニケーションすることができ、ゲームやビジネスの分野で活用が広がっていますが、現行法では仮想空間における商標権や意匠権などの扱いが曖昧です。
仮想空間内の商品やサービスであっても、利用者が現実世界で受け止める会社や商品のイメージに影響します。
このため、官民連携会議では、仮想空間内における商標権や意匠権の適用範囲やアバターに関する肖像権の扱いなどをついて協議する方針です。
・特許審査の質についてのユーザー評価調査報告書(特許庁)
特許庁は、特許審査に対するユーザー(出願人や権利を行使される第三者等)のニーズや期待を把握するため、「特許審査の質についてのユーザー評価調査」を毎年実施しています。
このほど、令和4年度の調査報告書が公表されましたので、主な概要を紹介します。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
報告書によると、国内出願における特許審査全般の質に対する「普通」以上の評価の割合は95.7%(前年度比0.6ポイント増)、上位評価割合は61.3%(前年度比1.7ポイント減)でした。
PCT出願における国際調査等全般の質に対する「普通」以上の評価の割合は97.5%(前年度比0.1ポイント増)、上位評価割合は59.0%(前年度比3.7ポイント減)。
分析の結果、「判断の均質性」、「第29条第2項(進歩性)の判断の均質性」、「国際段階と国内段階との間での判断の一貫性」の項目が、国内出願における特許審査及びPCT出願における国際調査等の全般の質の評価への影響が大きく、かつ相対的な評価が低いことが分かりました。
調査は令和3年度の「特許審査・国際調査等全般の質」について、「満足」「比較的満足」「普通」「比較的不満」「不満」の5段階評価でユーザーが回答しています。
<編集後記>
・AI関連発明については、中国では企業だけでなく大学からの出願も多く、産学で研究が盛んであることがうかがえます。
・早いもので年内最後のメルマガとなりました。師走のお忙しい中、最後までお読み頂いた皆様には感謝申し上げます。来年もどうぞ宜しくお願い致します。
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