藤川IP特許事務所メールマガジン 2023年4月号
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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
2023年4月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
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┃ ☆知財講座☆
┃(15)過去の自社の特許出願が拒絶理由に引用される?
┃
┃ ☆ニューストピックス☆
┃
┃ ■営業秘密侵害事件が過去最多に(警察庁)
┃ ◆「営業秘密の保護」と企業の対策◆
┃ ■知的財産侵害品、個人向けの輸入差止が増加(財務省)
┃ ■権利者不明の著作物の二次利用を促進(著作権法改正案)
┃ ■商標のファストトラック審査は3月末で休止(特許庁)
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昨年1年間に全国の警察が不正競争防止法違反で検挙した営業秘密侵害事件が過去最多となったことが、警察庁のまとめで分かりました。人材の流動化に伴い、勤務していた会社から転職する際に営業などに関する秘密情報を不正に持ち出すケースが増加しているようです。
今号では、「秘密情報の保護」と企業の対策について取り上げます。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(15)過去の自社の特許出願が拒絶理由に引用される?
【質問】
特許出願を行って特許庁の審査を受けたところ、その昔に自分が発明し、自分の会社で特許出願していたものが拒絶理由の先行技術に引用されました。自分が過去に行った発明、過去の自社の特許出願の存在を根拠にして「特許を与えることができない」とされるのは納得できません。
【回答】
自社がその昔に行っていた特許出願の特許出願公開公報が拒絶理由に引用されることはあり得ます。なぜそのようになるのか説明します。
<特許出願・特許出願公開の効果>
特許出願を行いますと、その日より後に同一の発明について特許出願が行われた場合、後からの出願には特許が与えられないという先願の地位(特許法第39条)を確保できます。そこで、自社で実施する技術内容について特許出願を行っておけば、その後に他社が同一発明について特許出願を行ったとしても、その後からの他社の特許出願に基づいて、他社が、「御社が実施されている技術は当社の特許権を侵害するものです」と指摘してくる危険を少なくすることができます。
更に、特許出願日から1年6カ月が経過して特許庁が出願内容を特許出願公開公報(以下「公開公報」といいます)によって社会に公表してからは、公開公報に記載されている事項に基づいて簡単・容易に発明できるものをだれかが特許出願してもそれは「進歩性欠如」として拒絶されるようになります。
そこで、自社が実施している技術の周辺技術について、公開公報発行後に他社が特許出願を行って特許権取得する可能性を少なくさせることができます。
<新規性・進歩性が欠如していて特許付与されない発明>
どのような発明が新規性を喪失していて特許付与が認められないものであるか特許法第29条第1項第1号~第3号で次のように規定されています。
特許法第29条第1項
1号 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
2号 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
3号 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
また、特許法第29条第1項第1号~第3号の規定に該当せず、新規性を備えていると認められる発明であっても、次のような場合には進歩性欠如で特許を認めることができないと特許法第29条第2項に規定されています。
特許法第29条第2項
特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識をする者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
<特許法第29条第1項第3号の「頒布された刊行物」>
特許法第29条第1項第3号の「頒布された刊行物」には、特許庁が特許出願を受け付けてその後1年6カ月にわたって秘密状態を守り、出願日から1年6カ月経過した後にすべての特許出願の内容を社会に公表するべく発行する公開公報が含まれます。
そして、特許法第29条第1項第3号には、「ただし、当該刊行物記載の発明者が審査を受けている特許出願の発明者と同一である場合を除く」というような文言は存在していません。
そこで、公開公報発行後の特許出願の発明者、出願人が、公開公報に係る特許出願の発明者、出願人と同一であっても、公開公報発行後の特許出願に対して、発行済の公開公報が、特許性(新規性、進歩性)を否定する先行技術文献になり得ます。
<特許出願された発明は社会の共有財産>
特許庁で審査を受けて新規性、進歩性などの特許要件を具備していると認められた発明には特許が成立し、特許権を維持するための毎年の特許料を特許庁に納付することで原則として出願日から20年を越えない期間、特許出願人=特許権者に独占排他権たる特許権が付与されます。
しかし、発明の保護と利用のバランスを図って産業の発達を目指すとする特許制度の下では、前記のように特許権を付与して保護を図る一方で、特許出願された発明、すなわち、出願日から1年6カ月経過して特許庁から公開公報が発行された発明は、社会共有の財産として取り扱うことにしています。
公開公報に記載されている内容は、文献的利用に供され、世の中の人々、企業は、だれでもが公開公報に記載されている内容を参考にして研究・技術開発を行うことが許されています。
また、ジェネリック医薬と呼ばれるように、特許権存続期間の満了、特許維持年金の納付中止などによって特許権が消滅した後は、だれでもが消滅した特許権に係る発明を実施することが許されています。
公開公報に記載されている内容はこのように社会の共有財産として利用されるものですから、自社がその昔に行っていた特許出願であって、発明者、特許出願人が、審査を受けている特許出願の発明者、特許出願人と同一という公開公報であっても、例外扱いされず、審査を受けている発明の新規性・進歩性を否定する先行技術文献として利用されることになります。
<自社の特許出願・技術開発の歴史の把握・管理>
自社がその昔に行っていた特許出願の公開公報が新規性・進歩性欠如の拒絶理由に引用されてしまった、という事態は、特許出願の経験が多くなく、自社の特許出願内容の管理が十分ではなかったというような企業だけでなく、特許部・知財部を備えて適切な管理を行うようにしている企業でも起こることがあります。
例えば、自社が過去に行った特許出願の内容について複数の発明者の間で情報の共有が不足しているときなどに起こることがあります。
そこで、自社の特許出願・技術開発の歴史・沿革を把握・管理し、継承しておくことが大切になります。
<次号の予定>
特許出願では特許取得を希望している発明を誰でもが再現・実施できる程度に明確、十分に記載する必要があります。このため、「特許出願を行うと1年6カ月後にその内容が公開公報の発行によって同業他社に知られてしまうから」として特許出願を躊躇されることがあります。
このようなご心配について次号で紹介させていただきます。
■ニューストピックス■
・営業秘密侵害事件の摘発が過去最多に(警察庁)
勤務していた企業から営業秘密を不正に取得したとして、昨年1年間に全国の警察が不正競争防止法違反で検挙した営業秘密侵害事件は29件で過去最多となったことが、警察庁のまとめで分かりました。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
警察庁が発表した「令和4年における生活経済事犯の検挙状況」によりますと、勤務していた会社から転職したり、独立した際に、営業などに関する秘密情報を不正に持ち出したとして全国の警察が摘発した件数は、前年より6件増加し、統計を取り始めた2013年以降で最多となりました。
逮捕・書類送検されたのは45人で、うち逮捕者は17人。書類送検された法人は1社。被害企業などからの相談件数は59件。警察庁は、営業秘密侵害事件の増加の背景に、転職が一般的になり、人材の流動化が進んだことや、営業秘密に関する企業の管理意識が高まり、不正が発覚しやすくなったことがあるとみています。
◆営業秘密の保護と企業の対策◆
営業秘密には、顧客名簿、仕入先リスト、対応マニュアル、事業計画、売上データなどの営業上の情報をはじめ、製造方法、ノウハウ、設計図、物質情報、実験結果、研究データなどの技術情報があります。
そして、不正競争防止法における「営業秘密」とは、
①秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の
②事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって
③公然と知られていないもの、とされています。
「営業秘密」として法的な保護を受けるためには、以下に紹介する①秘密管理性、②有用性、③非公知性が必要になります。
この3要件が満たされていなければ、不正競争防止法における秘密情報として保護されないことになりますので、注意が必要です。
①秘密管理性(秘密として管理されていること)
その情報に合法的かつ現実に接触することができる従業員等からみて、その情報が会社にとって秘密としたい情報であることが分かる程度に、アクセス制限や「マル秘」表示といった秘密管理措置がなされていることとされています。
秘密管理性の法的保護レベルとしては、特定の情報を秘密として管理しようとする営業秘密保有企業の秘密管理意思が、秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性、すなわち、当該情報にアクセスした者が「秘密である」と認識できることが確保される必要があります。
営業秘密保有企業が秘密として管理しようと考えている「情報」に接する従業員等にとって、当該「情報」が秘密だとわかる程度の措置(秘密管理措置)が採られている必要があります。
例えば、紙・電子記録媒体への「マル秘」「社外秘」表示、営業秘密が化体している物(例えば、金型など)のリスト化、アクセス制限、秘密保持契約等による対象者の特定などが秘密管理措置になります。
②有用性(有用な技術上又は営業上の情報であること)
脱税情報や有害物質の垂れ流し情報などの公序良俗に反する内容の情報を、法律上の保護の範囲から除外することに主眼を置いた要件で、これら以外の情報であれば有用性が認められることが多いとされています。
③非公知性(公然と知られていないこと)
合理的な努力の範囲内で入手可能な刊行物には記載されていないなど、保有者の管理下以外では一般に入手できないこととされています。
例えば、プレスリリースや企業のホームページで公開されていたり、誰でも見られるような情報はこれに該当しないとされています。
経済産業省は、情報漏えい対策や漏えい時に推奨される包括的対策等を紹介した「秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上に向けて~」(平成28年2月 最終改訂:令和4年5月)を発行しています。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
自社が保有する情報の中から秘密として保持すべき情報を決定する際の考え方、秘密情報の漏えい対策の効果的な選び方、社内体制の在り方、他社の秘密情報にかかる紛争に巻きこまれないための対策、漏えいしてしまった場合の対応策、各種規程・契約等のひな型、窓口など、様々な対策が網羅的に紹介されています。
営業秘密が外部に漏えいしたり、不正に使用されたりすると、経営に甚大な影響を与えかねません。今一度、営業秘密の管理がされているか、管理状況が適切かを確認されてはいかがでしょうか。
・知的財産侵害品、個人向けの輸入差止が増加(財務省関税局)
財務省関税局は、全国の税関が昨年、輸入を差し止めた偽ブランド品などの知的財産侵害物品は、前年比7.7%増の約88万点に上ったと発表しました。2年連続で前年を上回り、特に個人向けの小口輸入の差止件数が増加しています。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
財務省の発表によると、令和4年の税関における知的財産侵害物品の輸入差止件数は2万6942件で、前年比では4.7%減少したものの、3年連続で2万6千件を超え、高水準で推移しています。
これまでは、個人使用が目的であれば、海外の事業者から偽ブランド品を郵送で輸入しても、差止対象になりませんでしたが、昨年10月の改正商標法、改正意匠法、改正関税法の施行により、個人使用の目的でも、海外の事業者が郵送等により日本国内に持ち込む模倣品などは、税関での没収が可能となりました。
改正法が施行された令和4年10月から12月の間において、個人使用を目的にした模倣品の輸入差止件数は、8,102件で前年比20.1%増加しています。
・権利者不明の著作物の二次利用を促進(著作権法改正案)
政府は、権利者が不明の著作物や個人が創作してインターネット上で掲載したデジタルコンテンツの二次利用を促すための著作権法改正案を今国会に提出しました。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
一般的に他人の著作物を利用する場合、契約により許諾を得る必要がありますが、個人がインターネットに投稿したデジタルコンテンツや権利者が不明な著作物などは、実際に許諾を得ることは困難で、ネット配信や二次利用の妨げになっていると指摘されていました。
このため、改正案では、権利者が分からない場合や許諾の意思表示が確認できない著作物について、文化庁長官による登録を受けた「窓口組織」に、利用料相当額の補償金を支払えば、権利者の許諾を得なくても一時的な利用が可能となる新制度を盛り込みました。
例えば、個人が創作したデジタル作品で利用を申請する手段がなかったり、1つの作品に複数の著作権者がいるコンテンツなどが想定されます。
一方、著作権者が自身の著作物が利用されていると分かった場合は、申し出れば、補償金を受け取り、改めて利用について交渉できるようにしたり、利用を停止させることも可能とします。
・商標のファストトラック審査は3月末で休止(特許庁)
特許庁は、商標の「ファストトラック審査」について、令和4年度末(令和5年3月31日)をもって休止すると発表しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
ファストトラック審査は、早期審査の一種で、所定の要件を満たす商標登録出願について、早期(出願から約6か月)に最初の審査結果通知を得られる制度です。
近年、特許庁の商標登録出願の審査スピードが上がっており、通常審査であっても「出願から6か月以内」に審査結果が出されるケースが多くなっています。このため、ファストトラック審査のメリットが少なくなり、制度を休止することになったようです。再開時期は未定です。
令和5年4月1日以降に出願される商標登録出願については、ファストトラック審査の対象となりません。
なお、「ファストトラック審査サポートツール」については、「商品・役務サポートツール」としてリニューアルされ、商標法第6条(指定商品が不明確等)の拒絶理由を回避するための商品等の調査・確認を支援するツールとして引き続き利用できます。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
<編集後記>
【今月の一冊】漫画「閃きの番人」(作画:ヒロカネプロダクション、監修:日本弁理士会)
下記URLからネット上で読めます。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
「弁理士・西屋ジョージと新人弁理士・桐生眞理がクライアントからの依頼を解決していく知的エンタテイメント漫画です。」(日本弁理士会HPより引用)
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