藤川IP特許事務所メールマガジン 2023年11月号
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◇◆◇ 藤川IP特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
2023年11月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
┃
┃ ☆知財講座☆
┃(22)進歩性欠如を指摘する拒絶理由への対応
┃
┃ ☆ニューストピックス☆
┃
┃ ■生成AIによる発明など議論(内閣府)
┃ ■意匠の新規性喪失の例外規定の適用手続の要件緩和(特許庁)
┃ ■小説の主人公の名称、著作権認めず(東京地裁)
┃ ■知的財産侵害物品の認定手続が簡素化(財務省関税局)
┃ ■PCTに基づく国際出願手続のテキストを公表(特許庁)
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特許庁は、「特許協力条約(PCT)に基づく国際出願の手続」の令和5年版のテキストを公表しました。
特許協力条約(PCT)に基づく国際出願の制度の仕組みと手続などが詳しく紹介されています。外国での特許取得のため、PCT国際出願制度の利用を検討する際の参考になると思われます。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(22)進歩性欠如を指摘する拒絶理由への対応
【質問】
特許出願について特許庁で審査を受けたところ、拒絶理由に引用された文献(先行技術文献)に記載されている発明に基づいて容易に発明できるものであるから特許を認めることができないという拒絶理由を受けました。
反論して審査官に再考を求めることができるということなのですが、どのように反論を準備すればよいでしょうか?
【回答】
進歩性が欠如しているという拒絶理由を受けた場合に、審査官に再考を求めるべく提出する意見書、手続補正書の内容をどのように準備するか、一般的な例を紹介します。
<進歩性欠如を指摘する拒絶理由の一般的な形式>
進歩性欠如の拒絶理由通知は、一般的に、次のような構成になります。
審査を受けている本件特許出願(以下「本願」といいます)の特許請求の範囲の各請求項に記載されている発明(以下「本願発明」といいます)と対比する発明(引用発明)が記載されている先行技術文献(第一引用例)の指摘。
第一引用例記載の発明(引用発明)と本願発明との間に存在していると審査官が認定する一致点と相違点の指摘。
上述した相違点が記載されていると審査官が認定する他の先行技術文献(第二引用例)の指摘。
本願発明の技術分野では第一引用例に第二引用例を組み合わせることが容易であるとの指摘。
第一引用例記載の発明に第二引用例記載の発明を組み合わせると前述した相違点が解消されて本願発明に容易に想到することができ、本願発明は進歩性が欠如している、という指摘。
<特許請求している発明の確認>
拒絶理由通知書を受けたときには、もう一度、本願の明細書、図面を読み直して、本願発明の内容を確認することをお勧めします。
いきなり第一引用例、第二引用例を検討し、本願発明と相違している点はどこであるかを探したり、第一引用例、第二引用例に記載されている発明内容を前提とした上で、第一引用例、第二引用例記載の発明と異なるように本願発明の内容を考えるのは望ましくありません。
あくまでも特許取得を目指すのは本願で審査を受けている本願発明です。
これがどのようなものであるか、本願の明細書、図面の記載内容に立ち返った上で拒絶理由の指摘を検討するとよいです。
<引用文献記載の発明の確認>
第一引用例の内容を検討します。本願発明と一致しているところはどのような内容であるかという観点から検討します。
本願発明と対比して第一引用例にどのような発明(引用発明)が記載されているか、本願発明との間の一致点として拒絶理由通知書で指摘されているのが一般的です。
しかし、拒絶理由通知書の指摘が正しいとは限りません。
本願発明と相違しているところはどこか?という観点から、第一引用例の内容を検討するのではなく、第一引用例に記載されている発明であって、本願発明と一致しているところはどのようなところであるか、という観点から検討します。
あくまでも特許取得を目指すのは本願で審査を受けている本願発明ですから、本願発明から見て、第一引用例には本願発明のどの部分と一致している発明が記載されているか、という観点で、本願発明と第一引用例記載の発明との間の一致点を確認します。
<相違点の確認>
上述した観点で本願発明と第一引用例記載の発明との間の一致点を確認した後、再度、本願の明細書、図面に立ち返り、第一引用例に記載されている発明であって本願発明と一致している部分以外のところ、すなわち、本願発明が、第一引用例記載の発明と相違している点を確認します。
あくまでも特許取得を目指すのは本願で審査を受けている本願発明です。
上述した観点で確認した本願発明と第一引用例記載の発明との間の一致点以外のところ、すなわち、本願発明が第一引用例記載の発明と相違している点を、本願の明細書、図面に立ち返って、確認します。
この際、相違点が明確になるように本願発明の記載内容を、出願時の明細書・図面の記載内容に基づいて補正する必要も検討します。
補正することで、第一引用例に記載されている発明との相違点を明確にすることができれば、「進歩性欠如」という拒絶理由の指摘を解消できる可能性が高まります。
<第二引用例の発明内容の確認>
第二引用例に記載されている発明内容を確認します。拒絶理由通知書では、審査官が認定した本願発明と第一引用例記載の発明との間の相違点に対応する発明が第二引用例に記載されていると指摘されるのが一般的です。
しかし、上述した観点で本願発明と第一引用例記載の発明との間の一致点を確認した後、こうして確認できた本願発明と第一引用例記載の発明との間の一致点以外のところ、すなわち、本願発明が第一引用例記載の発明と相違している点を本願の明細書、図面の記載に基づいて確認しています。
そこで、この検討で確認した、本願発明と第一引用例記載の発明との間の相違点が第二引用例に記載されているかどうか検討します。
本願発明と第一引用例記載の発明との間の相違点が第二引用例に記載されていないならば、拒絶理由通知書で指摘されたように、たとえ、第一引用例記載の発明に、第二引用例記載の発明内容を組み合わせることができても、本願発明には、容易に想到できないことになります。
この点を意見書で主張できます。
<第二引用例を第一引用例に組み合わせる論理付け>
本願発明と第一引用例記載の発明との間の相違点が第二引用例に記載されていると認められる場合であっても、以下のような事情などがある場合には、進歩性欠如という拒絶理由通知書の指摘(第一引用例記載の発明に第二引用例記載の発明を組み合わせることで本願発明に容易に想到できる)は妥当でないとして意見書で主張することができます。
第一引用例記載の発明が解決しようとしている課題と、第二引用例記載の発明が解決しようとしている課題とが相違している。⇒第一引用例記載の発明が目指している方向と、第二引用例記載の発明が目指している方向とが相違しているので、第二引用例を第一引用例に組み合わせる契機、起因が存在しない。
第一引用例の記載の中に、第二引用例記載の発明を第一引用例記載の発明に組み合わせるきっかけになるような記載が存在していない。
第二引用例の記載の中に、第二引用例記載の発明を第一引用例記載の発明に組み合わせるきっかけになるような記載が存在していない。
⇒両者を組み合わせる契機、起因となる記載が第一引用例、
第二引用例の中に無いので、第二引引用例を第一引用例に組み合わせる契機、起因が存在しない。
第二引用例記載の発明を第一引用例記載の発明に組み合わせると、第一引用例記載の発明の目的が達成できなくなる等の事情がある。
⇒第二引用例記載の発明を第一引用例記載の発明に組み合わせることを阻害する事情が存在している。
<相違点の存在による本願発明特有の効果の確認>
上述したようにして本願発明と第一引用例記載の発明との間の相違点を確認しています。
この相違点が存在することによって発揮される本願発明特有の機能・作用・効果を本願の明細書、図面の記載の中から把握します。
相違点が存在することによって発揮される本願発明特有の機能・作用・効果が存在するならば、本願発明に進歩性が存在する、すなわち、第一引用例、第二引用例の組み合わせによって本願発明に容易に想到することができたとする論理付けは成立しない、という主張の根拠になります。
相違点の存在によって発揮される本願発明特有の効果が第一引用例、第二引用例記載の発明によって発揮される効果とは異質の効果である、あるいは同質の効果であるが際立って優れた効果である場合には、そのような事情を説明して「第一引用例、第二引用例の組み合わせによって本願発明に容易に想到することができたとする論理付けは成立せず、本願発明は第一引用例、第二引用例記載の発明に対して進歩性を有する」と意見書で主張することができます。
<面接審査の検討>
上述した検討を行って、審査官に再考を求める意見書・手続補正書を準備し、特許庁へ提出する前に、拒絶理由を通知してきた特許庁審査官に面接審査を申し込むこともできます。
特許庁では特許出願人の代理人(弁理士)等からの申込みがあれば、原則、一回は面接を受諾する取扱いにしています。
拒絶理由通知書も、これに対応して提出する意見書・手続補正書も書面です。
書面化された文章だけでは十分に説明することのできなかった事項を口頭で説明できる面接審査は、審査官が指摘したいと考えている拒絶理由の内容をより正しく理解し、また、本願発明をより正確に審査官に把握してもらうよい機会です。
そこで、必要があれば、代理人(弁理士)に依頼して担当審査官との面接を行うよう調整してもらうのはよい方法と思われます。
<次号の予定>
発明は「物」の発明、「物を製造する方法」の発明、「方法」の発明に区分されます。
このような発明の区分に応じてどのような違いがあるのか紹介します。
■ニューストピックス■
●生成AIによる発明など議論(内閣府検討会)
内閣府は、生成AI(人工知能)がもたらす知的財産権上の問題などについて議論する「AI時代の知的財産権検討会」を新たに設置しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
文章や画像などを自動で作る生成AIをめぐっては、オリジナルの作品に似たものが生み出され、著作権侵害が懸念されています。
こうした課題については、現在、文化庁の審議会などで検討が進められていますが、内閣府の検討会では、AIと特許関連についても議論しています。
生成AIによる発明が特許で認められるかどうかや、特許取得の条件などが議題となっています。
また、生成AIの学習のために登録意匠や登録商標を学習用データとして使用することが、意匠権や商標権を侵害しないかどうかも課題として挙げています。
このほか、AIによる商品形態の模倣が不正競争防止法の規制対象になるかどうかなど、ほかの法律の観点からも検討します。
●意匠の新規性喪失の例外規定の適用手続の要件緩和へ(特許庁)
令和5年6月14日に公布された「不正競争防止法等の一部を改正する法律」により、意匠の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続が緩和されます。
これを受け、特許庁は「意匠の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続について(出願前にデザインを公開した場合の手続について)」を公表しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
意匠登録を受けるためには、「新規性」の要件を満たすことが必要であり、出願前に自ら公開している場合も新規性を喪失したとして拒絶理由となります。
この例外として、一定の要件を満たす場合に「意匠の新規性喪失の例外」が認められています。具体的には、出願と同時に例外の適用を受ける旨の書面(例外適用書面)を提出し、出願から30日以内に自ら公開したことを証明する証明書(例外適用証明書)を、自己が公開した全ての意匠について網羅的に提出する必要があり、特にスタートアップ・中小企業にとっては大きな負担となっていました。
このため、改正意匠法の施行日以後は、意匠登録を受ける権利を有する者(権利の承継人も含む)の行為に起因して公開された意匠について、最先の公開の日のいずれかの公開行為について証明することで、その日以後に公開した同一又は類似の意匠についても新規性喪失の例外規定の適用が受けられるようになります。
今回の意匠の新規性喪失の例外規定の適用手続の要件緩和により、新規性喪失の例外規定の適用が容易になりますが、例外規定は、あくまでも意匠登録出願より前に公開された意匠は意匠登録を受けることができないという原則に対する例外規定である点には注意が必要です。
このため、まずは意匠の公開前に意匠登録出願をすることを原則的な対応とし、万が一の場合、例外規定を活用するといった対応が望ましいと考えられます。
●小説の主人公名、著作権認めず(東京地裁)
人気ゲーム「ドラゴンクエストⅤ(ドラクエ5)」を原案にした小説の著者が主人公の名前を映画で無断使用されたとして、制作したスクウェア・エニックスや東宝に損害賠償などを求めた訴訟で、東京地裁は、「人物の名称は著作物ではない」として請求を棄却しました。
「小説ドラゴンクエストⅤ」で著者が創作した主人公のキャラクター「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」(通称「リュカ」)の名称について、スクエニなどが19年に公開したドラクエ5を原案とする映画「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」では主人公に類似した名前「リュカ・エル・ケル・グランバニア」が使用されていました。
判決では「人物の名称は、思想または感情を創作的に表現し、文芸や美術などに属するとは言えない」などと、小説の主人公名は著作物ではないと判断し、原告の請求を棄却しました。
●知的財産侵害物品の認定手続が簡素化(財務省関税局)
財務省関税局は、令和5年10月から知的財産侵害物品の認定手続において、新たに特許権、実用新案権、意匠権及び保護対象営業秘密に関する輸入差止申立てに係る貨物が簡素化手続の対象となったと発表しました。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
この簡素化手続の適用により、輸入者(名宛人)から争う旨の書面の提出がなければ、権利者は証拠・意見の提出は不要となります。
これにより、該否認定のスピードアップが図られます。
被疑物品が侵害物品に該当するか否かを争う場合には、認定手続の開始の通知が届いてから10日以内に、その旨を書面で提出しなければならなくなります。
対象となるのは、輸入差止申立てに係る貨物のみです。
関税局では、税関において知的財産侵害物品を的確に差し止めるためにも、輸入差止申立てを行うこと、申立対象貨物を増やすことが重要だとしています。
●特許協力条約(PCT)に基づく国際出願手続のテキストを公表(特許庁)
特許庁は、「特許協力条約(PCT)に基づく国際出願の手続」の令和5年版のテキストを公表しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
海外で事業展開をする際、事業展開先の国でも特許権の取得が必要な場合もあります。
展開先の国が複数ある場合は、それぞれの国で特許権を取得する必要が出てきますが、国ごとに必要書類の様式や言語などが異なり、手続が煩雑になるなどのデメリットがあります。
一方、特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)に基づいた出願、いわゆる「PCT出願」では、条約で統一された所定の書式による出願を1件するだけで、条約加盟国のすべての国に同時に出願したことと同じ効果を得ることができます。
ただし、権利取得を目指す国の数が少ない場合にはコストが割高になるというデメリットもあります。
テキストでは、特許協力条約(PCT)に基づく国際出願の制度の仕組みと手続などが詳しく紹介されています。外国での特許取得のため、PCT国際出願制度の利用を検討する際の参考になると思われます。
<編集後記>
【今月の一冊】『「ルンバ」を作った男 コリン・アングル「共創力」(大谷和利著、小学館)』米国・アイロボット社のCEOコリン・アングル氏の半生を知ることができる一冊です。
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発行元 藤川IP特許事務所
弁理士 藤川敬知
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