藤川IP特許事務所メールマガジン 2024年6月号

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◇◆◇ 藤川IP特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
                       2024年6月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
┃ 
┃ ☆知財講座☆
┃(29)実用新案登録に基づく特許出願(1)

┃ ☆ニューストピックス☆

┃ ■AIを発明者とした出願を認めず(東京地裁)
┃ ■全固体電池分野、日本が強み(特許出願技術動向調査)
┃ ■音楽著作権料の徴収額が過去最高(JASRAC)
┃ ■「知財・無形資産の投資・活用ガイドブック」発行(特許庁)
┃ ■2023年度知的財産権制度説明会(実務者向け)を動画配信
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特許庁は知財・無形資産の投資・活用、および適切な情報開示に向けて取り組むべき事項をまとめたガイドブック「知財経営への招待~知財・無形資産の投資・活用ガイドブック~」を公開しました。

このガイドブックは、知財・無形資産の投資・活用などについて、企業が抱える等身大の悩みや課題に対する実践的な取組方法を紹介しています。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(29)実用新案登録に基づく特許出願(1)
~実用新案登録に基づく特許出願の検討~

【質問】
特許ではなく実用新案登録で十分と考えて実用新案登録を受けたのですが、「実用新案権では権利行使が難しい」といわれました。
この実用新案登録を特許に変更できないでしょうか?

【回答】
実用新案登録出願の状態から特許出願へ変更することは従来から認められています。
現状では、実用新案登録に基づいて特許出願を行うことが可能になっています。

今回は、実用新案登録に基づく特許出願を検討するようになる事情がなぜ発生するのか説明し、次号で、実用新案登録に基づいて特許出願を行う際の注意点を説明します。

<実用新案で保護される考案は発明として特許でも保護される>
特許法では、保護する対象を「発明」とし、「発明とは自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義しています(特許法第2条第1項)。
実用新案法では、保護する対象を「考案」とし、「考案とは自然法則を利用した技術的思想の創作」と定義しています(実用新案法第2条第1項)。

なお、実用新案では、「考案」の中でも「物品の形状、構造又は組み合わせに係る考案」しか保護されないことになっています(実用新案法第1条)。
このため、「材」、「剤」などの「物質」や、「方法」などは実用新案では保護されません。

上述したように、「発明」の定義に「高度のもの」という文言が含まれ、「物品の形状、構造又は組み合わせに係る考案」しか実用新案登録の対象にならない理由は、特許制度、実用新案登録制度が創設された明治時代に遡る歴史的経緯によります。

「自然法則を利用した技術的思想の創作」を保護することで産業の発達を図るべく、明治時代に、特許制度を創設した際、「物品に関する技術的な特徴などちょっとした工夫が産業上役立つことも多く、また、日常生活の便宜を増大することから、いわゆる小発明(考案)を保護するために」、特許制度と共に設けられたのが実用新案制度です(2023年度知的財産権制度入門テキスト 実用新案制度の概要)。

なお、特許要件、登録要件としての進歩性(出願前に知られていた事項に基づいて当業者が簡単・容易に発明・考案できたものではない)のレベルに関しては、現状では、「発明」と「考案」との間に相違を設けない取り組みになっています。
日本のように技術が進んでいる国で「自然法則を利用した技術的思想の創作」を保護する際に、「容易に創作できた」あるいは、「きわめて容易に創作できた」と二重の基準(ダブルスタンダード)で臨むことは好ましくないと考えられているからです。

上述したように、「自然法則を利用した技術的思想の創作」という点で、特許で保護される「発明」と、実用新案で保護される「考案」とは同じです。特許では保護される「物質」や「方法」などが実用新案では保護されないというだけなので、実用新案で保護の対象になる「考案」は、必ず、特許で保護される対象の「発明」になります。

<実用新案制度と特許制度との違い>
上述したように保護する対象に共通性がありますが、いわゆる小発明を簡易に保護するという実用新案制度の趣旨から、「物質」や「方法」などが実用新案では保護されないというだけでなく、両制度の間に大きな相違があります。

実用新案は小発明を簡易に保護するという観点から、権利存続期間が出願日から10年を越えないところ、特許権では、原則として、出願日から20年を越えない期間にわたって保護を受け得る等の相違が特許制度と実用新案制度との間に存在しています。

この他に、両制度の間には、以下に説明する大きな相違が存在しています。

<無審査登録制度(実用新案法第14条)>
特許では特許出願人などから提出された審査請求により、特許庁審査官が審査を行って、新規性、進歩性、等の登録要件を満たしていると認められたものに対してのみ特許権が付与されます。

これに対して、実用新案では新規性、進歩性などの登録要件を審査せずに実用新案権を付与する無審査登録制度が採用されています。

<実用新案技術評価制度(実用新案法第12条)>
実用新案権は、特許権と同じく、権利侵害者に対して差止請求(実用新案法第27条)や、損害賠償請求(民法第709条、実用新案法第29条)することのできる独占排他権です(実用新案法第16条)。

上述したように、新規性、進歩性、等の登録要件についての審査を受けることなしに付与されている実用新案権にこのような強い効力が認められていることから、実用新案権者には、権利行使にあたって、より高度な注意義務が課されます。実用新案技術評価書が作成される実用新案技術評価制度はこの目的で創設されています。

特許庁へ提出された請求に基づいて、審査官が、実用新案登録に係る考案の有効性(新規性、進歩性などの登録要件を具備しているものであるかどうか)について評価を行って作成し、請求人へ届けるものが実用新案技術評価書です。

特許庁の審査官が作成している実用新案技術評価書は、実用新案権の有効性に関する客観的な判断材料になります。

実用新案権者が「実用新案権侵害を行っている」と認める者に対して実用新案権侵害差止請求訴訟を提起する等の権利行使する場合には、無審査で付与されている実用新案権の濫用を防止し、第三者に不測の不利益を与えることを回避するという観点から、実用新案技術評価書を提示して警告した後でなければなりません。

「この規定に反し、実用新案技術評価書を提示せずに行った警告は、有効なものとは認められず、その状態で侵害訴訟を提起しても、直ちに訴えが却下されるわけではないが、評価書が提示されない状態のままでは、権利者の差止請求、損害賠償請求等は認容されないものと解される」とされています(工業所有権法逐条解説)。

<無過失賠償責任(実用新案法第29条の3)>
実用新案権者が権利行使(例えば「警告書」送付)した場合であって、権利行使を受けた側などが実用新案登録無効審判を請求し、特許庁の審理で実用新案登録が無効にされ、その審決が確定した場合には、実用新案権者は、権利行使を受けた側が被った損害を賠償しなければなりません(実用新案法第29条の3)。
いわゆる、無過失賠償責任を負わなければならないという規定です。

なお、実用新案権者が、「実用新案技術評価書」の評価(登録性を否定する旨の評価を除く。)に基づき権利を行使したときや、その他相当の注意をもって権利を行使したときは上述の無過失賠償責任を免れると考えられています。

特許庁審査官が審査を行った上で付与されている特許権に基づいて警告書送付、特許権侵害差止請求訴訟の提起などを特許権者が行う場合、このような無過失賠償責任を負う必要はありません。

<実用新案登録から特許出願への変更を希望することになる事情>
実用新案と特許との間では保護対象が共通していることから、従来から、いったん実用新案登録出願したものを、その出願が特許庁に係属している間に特許出願へ変更することが認められています。

しかし、無審査登録の実用新案では、実用新案登録出願については、出願料や1~3年分の登録料が納付されている等の方式的事項や、実用新案登録請求の範囲に記載されていて保護が求められている「考案」が、そもそも、実用新案登録の対象にしている「物品の形状、構造又は組み合わせに係る考案」であるか等の基礎的な事項についてのみ審査され、これらが満たされている実用新案登録出願に対しては、直ちに、登録が認められます。

このため、実用新案登録出願後2カ月程度で登録になって実用新案権が成立することが一般的です。

そこで、従来から認められている実用新案登録出願から特許出願への変更は、実用新案登録出願後2カ月程度の間しか認められないことになってしまいます。

無審査登録による簡易な保護で十分であると考えて実用新案登録出願し、登録を受けている場合であっても、実用新案登録後の技術動向の変化や、事業計画の変更に伴って、審査を経た安定性の高い権利を取得したいとなることがあり得ます。

特に、実用新案技術評価書は、特許出願の審査で審査官から通知される拒絶理由通知書のように、進歩性欠如、等の否定的な評価を受けた際に意見書・補正書提出によって反論し、再考を求めることで、拒絶理由解消=特許査定という肯定的評価に変えることができるものではありません。

警告書を送付する際に添付することが義務付けられている実用新案技術評価書が否定的な評価になるならば、実用新案権者は警告書送付すら躊躇せざるを得なくなります。

そこで、審査を経た安定性の高い権利を取得したいとなることがあります。このような場合が、実用新案登録を特許出願に変更したいという要望が上がるときになると思われます。

■ニューストピックス■
●AIを発明者とした出願を認めず(東京地裁)
人工知能(AI)を発明者とする新技術が特許として認められるかどうかが争点となった訴訟で、東京地裁は、「発明者は人間に限られる」として、米国籍の出願者の請求を棄却する判決を言い渡しました。

一方で、現行法の制定時にAIの発達が想定されていなかったとして、国民的議論で新たな制度設計をすることが相当だと言及しました。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)

出願者はAIが自律的に発明した装置について、発明者の氏名を「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載して2020年に特許出願。
特許庁は、「発明者は人間に限られる」として、自然人の氏名を記載するよう補正を命じましたが、補正に応じなかったため、出願を却下しました。
原告はこの処分の取り消しを求めて訴えを起こしていました。

地裁判決では「発明は人間の創造的活動により生み出されるものと定義される」と指摘、「特許庁の出願の却下処分は適法であり、AIを発明者とする出願は現行法上認められない」としました。

一方、現行法の解釈では「AIがもたらす社会経済構造の変化を踏まえた的確な結論を導き得ない」と指摘したうえで、「立法論として検討を行い、できるだけ速やかに結論を得ることが期待されている」として、国会での議論を促しました。

●全固体電池分野、日本が強み(令和5年度特許出願技術動向調査)
特許庁は、令和5年度分野別特許出願技術動向調査の結果を発表しました。
同調査は、今後、市場創出・拡大が見込まれる最先端の技術テーマを毎年選定しているもので、今回は「全固体電池」「量子計算機関連技術」「パッシブZEH・ZEB」「ドローン」「ヘルスケアインフォマティクス」の技術動向について調査しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

このうち、全固体電池についてみると、2013年から2021年までの国際展開発明件数(複数の国・地域へ出願された発明、欧州特許庁へ出願された発明又は特許協力条約に基づく国際出願(PCT出願)された発明数の比率)は、日本国籍が48.6%で首位となっており、次いで韓国籍が17.6%、米国籍が12.9%、欧州籍が11.9%、中国籍が5.8%、台湾籍が1.2%、カナダ籍が1.0%と続いていることがわかりました。

また、出願人別の国際展開発明件数ランキングでは、1位のパナソニック、2位のトヨタ自動車をはじめ、上位20者中14者が日本国籍出願人であり、全体として日本が強みを有していることが分かりました。

技術区分別にみると、「固体電解質材料の主な材料」における「硫化物系」の出願件数は、日本からの出願が最も多く、日本に優位性があるといえます。
この技術区分は近年、中国をはじめとする各国・地域の出願が増加しています。全固体電池における日本の優位性を保つためには、全固体電池の主力用途であるEV向けの「硫化物系」について今後も持続的な研究開発が必要であると考えられると報告されています。

●音楽著作権料の徴収額が過去最高(JASRAC)
作詞・作曲家に代わって音楽著作権料を徴収する日本音楽著作権協会(JASRAC)は、2023年度の音楽使用料の徴収額と分配額がいずれも過去最高になったと発表しました。

徴収額は約1371億6729万円(前年度比106.3%)、分配額は約1351億2644万円(前年度比107.5%)でした。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)

徴収額は2022年度から約81億4000万円増加。「インタラクティブ配信」(音楽のサブスクリプションなど)が約487億円(前年度比9.1%増)、演奏等(ライブ・コンサートなど)が約237億円(前年度比13.8%増)と好調でした。

音楽の違法利用に対する法的措置をみると、刑事1件(告訴1件)、民事1310件(仮処分3件、民事調停1282件、支払督促13件、その他12件)で、2022年度よりも計58件増加しました。

●「知財経営への招待~知財・無形資産の投資・活用ガイドブック」を公開(特許庁)
特許庁は、知財・無形資産の投資・活用及びその情報開示について、企業が抱える等身大の悩みや課題に対する実践的な取組方法をまとめた「知財経営への招待~知財・無形資産の投資・活用ガイドブック~」を公開しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

知財・無形資産の投資・活用を実践するにあたっては、自社の強みについて社内メンバー間で共通認識化することが必要不可欠ですが、そもそも自社の強みを把握できていないか、把握できていたとしても認識が異なる点がボトルネックになっているケースがあります。

ガイドブックでは、このようなボトルネックを解消し、知財・無形資産の投資・活用を推進するためのポイント、それを機能させるための知財部門の役割及び知財・無形資産の投資・活用に係る情報開示の重要性や方法論について、具体的な事例とともに紹介しています。

また、ガイドブックでは、知財・無形資産の投資・活用における課題を解決し、機能させるためのポイントとして、「知財・無形資産の投資・活用3ステップ」(①強みの掘り下げ・把握、②将来像と強みのひも付け、③知財・無形資産の投資・活用戦略の検討・実践)を提示しています。

また、知財・無形資産の投資・活用を推進するにあたって、自社の現状を把握するためのチェックリストなども掲載しています。

●2023年度知的財産権制度説明会(実務者向け)を動画配信
特許庁は、知的財産権の業務に携わっている実務者の方を対象に、「2023年度知的財産権制度説明会(実務者向け)」を動画配信します。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

説明会では、特許・意匠・商標の審査基準やその運用、審判制度の運用、国際出願の手続等、専門性の高い内容について、講義をeラーニングでわかりやすく解説します。
独立行政法人工業所有権情報・研修館「INPIT」の知的財産e-ラーニングサイト「IP ePlat」にて、動画を視聴できます。(動画視聴する際には「ポップアップブロックの解除」が必要です)

<編集後記>
【今月の一冊】「留目弁理士奮闘記!2『雪花の逆襲』(黒川正弘 三和書籍)」
前作以上にダイナミックなストーリー展開を楽しめます。
知財コンプレックス、パテントポートフォリオ、PCT出願・・・など、知財関連用語も数多く登場します。

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発行元 藤川IP特許事務所
弁理士 藤川敬知
〒468-0026 名古屋市天白区土原4-157
TEL:052-888-1635 FAX:052-805-9480
E-mail:fujikawa@fujikawa-ip.com

<名駅サテライトオフィス>
〒451-0045 名古屋市西区名駅1-1-17
名駅ダイヤメイテツビル11階エキスパートオフィス名古屋内
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