藤川IP特許事務所メールマガジン 2024年7月号

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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
                       2024年7月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
┃ 
┃ ☆知財講座☆
┃(30)実用新案登録に基づく特許出願(2)

┃ ☆ニューストピックス☆

┃ ■国際標準化めぐり新国家戦略(知的財産推進計画2024)
┃ ■AI技術の国際競争が激化(令和6年版科学技術白書)
┃ ■iPS特許の使用めぐり研究者と理研が和解
┃ ■知財エコシステムで活躍する女性人材の事例集(特許庁)
┃ ◆助成金情報 令和6年度「中小企業等海外侵害対策支援事業」
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特許庁は、日本貿易振興機構(ジェトロ)を通じて、海外展開に際して模倣品被害や自社商標の抜け駆け出願など、産業財産権の係争を抱える中小企業に向けた支援事業(模倣品対策支援、冒認商標無効・取消係争支援、防衛型侵害対策支援)を実施しています。

今号では、令和6年度「中小企業等海外侵害対策支援事業」の概要を紹介します。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(30)実用新案登録に基づく特許出願(2)
~実用新案登録に基づく特許出願の注意点~

【質問】
特許ではなく実用新案登録で十分と考えて実用新案登録を受けたのですが、「実用新案権では権利行使が難しい」といわれました。この実用新案登録を特許に変更できないでしょうか?

【回答】
実用新案登録出願の状態から特許出願へ変更することは従来から認められています。
現状では、実用新案登録に基づいて特許出願を行うことが可能になっています。

前回は、実用新案登録に基づく特許出願を検討するようになる事情がなぜ発生するのか説明しました。

今回は、実用新案登録に基づいて特許出願を行う際の注意点を説明します。

<実用新案登録に基づく特許出願の出願時は遡及する>
登録になる前の実用新案登録出願の状態から特許出願へ変更しますと、変更後の特許出願は実用新案登録出願の出願時にいたものとみなされる遡及効が発揮されます。

これと同様に、実用新案登録に基づく特許出願も、その実用新案登録に係る実用新案登録出願時に行われていたものとみなされることになります。
この出願時遡及の効果は、実用新案登録出願の願書に最初に添付した明細書、実用新案登録請求の範囲、図面に記載した事項に対して与えられます。

なお、実用新案登録になった後に実用新案登録の訂正があった後は、訂正後の明細書、実用新案登録請求の範囲、図面が実用新案登録の願書に最初に添付した明細書等になります。

そこで、実用新案登録になった後に実用新案登録の訂正を行い、その後に、実用新案登録に基づく特許出願を行う場合には、訂正後の明細書、実用新案登録請求の範囲、図面に記載した事項に対して出願時遡及の効果が与えられます。

実用新案登録出願における明細書等の補正及び、実用新案登録における訂正では新規事項の追加が禁止されています。

そこで、不適法な補正又は訂正がされない限り、実用新案登録の願書に添付した明細書等に記載した事項は、実用新案登録に係る実用新案登録出願の願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内となり、出願時遡及の効果が認められます。

なお、もしも、不適法な補正又は訂正が行われたことで実用新案登録の願書に添付した明細書等に記載した事項が実用新案登録に係る実用新案登録出願の願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲外である場合は、出願時が遡及しません。

そこで、このような場合、実用新案登録に基づく特許出願について審査請求して特許庁の審査を受けると、基礎とした実用新案登録の実用新案掲載公報の記載内容に基づいて、新規性・進歩性が欠如しているという理由で拒絶されることになると思われます。

実用新案登録出願は出願から2カ月程度で登録になり、その後2週間程度で実用新案掲載公報が発行されることから、実用新案登録に基づく特許出願が行われるときには、既に、実用新案掲載公報が発行されているのが一般的だからです。

<特許出願の基となる実用新案権は放棄しなければならない>
自己の実用新案登録に基づいて特許出願を行う場合、実用新案登録に基づく特許出願と、基礎とした実用新案権の放棄(登録の抹消)とを一体的に行う必要があります。

実用新案登録に基づく特許出願と、基礎とした実用新案権とが併存することを許す場合の第三者の監視負担及び二重の審査(同一の技術について特許審査及び実用新案技術評価書の作成)による特許審査の遅延に配慮したものです。

なお、この場合の実用新案権の放棄(登録の抹消)は、実用新案登録請求の範囲に記載されている請求項ごとに行うことはできず、実用新案権の全体を放棄することになります。

一つの実用新案登録からは一つの実用新案登録に基づく特許出願のみを行うことができ、一つの実用新案登録から実用新案登録に基づく複数の特許出願を行うことはできません。

一つの実用新案登録に単一性の要件を満たさない複数の発明が記載されている等の理由により、一つの実用新案登録から実用新案登録に基づく複数の特許出願を実質的に行いたい場合は、一つの実用新案登録に基づく特許出願を行った後に、特許法第44条の規定に基づいてその特許出願を分割する必要があります。

<実用新案登録出願から3年以内のみ行うことができる>
特許出願では出願日から3年以内に限って出願審査請求を行うことができるとされていて、この期間内に出願審査請求されなかった特許出願は出願日から3年経過した時点で取り下げたものと見なされることになっています。

そこで、時期的制限なしに何時でも実用新案登録に基づく特許出願を行うことができるとすると、実用新案登録に基づく特許出願には、上述したように、出願時遡及の効果が認められていることから、審査請求期間の実質的な延長を認めてしまうことになります。

このため、実用新案登録に基づく特許出願は、実用新案登録出願の日から3年以内に限って行えることになっています。

なお、特許出願では出願審査請求を行わなければ、出願日から3年経過した時点で特許出願は取り下げたものとみなされ、消滅します。
実用新案登録に基づく特許出願を行った場合も、実用新案登録に係る実用新案登録出願の日(=実用新案登録に基づく特許出願の日)から3年以内に出願審査請求を行う必要があります。

<実用新案技術評価の請求が行われた場合の時期的制限>
実用新案は、新規性、進歩性等の実体的要件についての特許庁審査官による審査を受けることなしに登録になります。
このため、登録になっている実用新案が実体的要件を満たしているか否かは、原則として、当事者間の判断に委ねられます。

しかし、権利の有効性を巡る判断には、技術性、専門性が要求され、当事者間の判断が困難な場合も想定されます。

そこで、当事者間に権利の有効性に関する客観的な判断材料を提示するという観点から、実用新案登録出願が行われた後は、実用新案登録出願人、実用新案権者だけでなく、第三者も、特許庁に対して、いつでも、実用新案技術評価の請求を行うことができます。

実用新案技術評価は、文献等公知(実用新案法第3条1項3号)、公知文献から見た進歩性(同法第3条2項)、拡大先願(同法第3条の2)、先願(同法第7条)の要件、すなわち先行技術文献及びその先行技術文献からみた考案の有効性などに関する評価を特許庁審査官が行うものです。

この意味で、実用新案技術評価の請求に基づく実用新案技術評価書の作成は、特許出願において審査請求があった後に行われる審査と同等です。

そこで、実用新案技術評価書が作成された後に実用新案登録に基づく特許出願を行うことができるとすると、同一の技術について、実用新案技術評価書の作成と、特許審査という二重の審査が行われることになってしまいます。

このため、実用新案技術評価の請求が行われた場合の時期的制限が設けられています。

なお、実用新案技術評価の請求は何人も行うことができるため、出願人又は実用新案権者が評価請求を行った場合と、他人(第三者)が評価請求を行った場合とに分けて時期的制限が設けられています。

<出願人、権利者による評価請求後:実用新案登録に基づく特許出願は不可>
出願人又は実用新案権者による実用新案技術評価請求の後は、その評価請求された実用新案登録に基づく特許出願をすることができません。
同一の技術について、実用新案技術評価書の作成と、特許審査という二重の審査が行われることを防止するためです。

なお、実用新案技術評価の請求は、実用新案登録請求の範囲に記載されている請求項ごとに行うことができます。そこで、一部の請求項についてのみ評価請求されることや、すべての請求項について評価請求されることが考えられますが、どちらの場合であっても、出願人又は実用新案権者による評価請求の後は、その評価請求された実用新案登録に基づく特許出願をすることができません。

<他人からの評価請求後:特許庁から最初の通知を受領した日から30日以内>
他人による実用新案技術評価請求があった場合には、実用新案登録出願人(実用新案登録後は実用新案権者)に対して、その旨が特許庁から通知されます。
他人による評価請求があった旨の最初の通知を受け取った日から30日を経過するまでは、その評価請求された実用新案登録に基づく特許出願を行うことができます。

他人による評価請求は、出願人又は権利者自身で評価請求したものではないため、評価請求後直ちに実用新案登録に基づく特許出願をすることができなくなることは、出願人又は権利者にとって酷であることからこのようにされています。

なお、他人からの実用新案技術評価の請求が一部の請求項についてのみ行われている場合、すべての請求項について行われている場合のいずれであってもこの取り扱いは同じです。

<実用新案登録無効審判請求を受けた場合の時期的制限>
実用新案登録に対して無効審判の請求があり、請求を受けた実用新案権の有効性の判断が可能なところまで審理が進んだ段階で、同一の技術について新たな特許出願が行われると、審理を進めてきた請求人の負担が無に帰す可能性があります。

また、審理が進んだ段階で実用新案登録に基づく特許出願が行われ、その特許権が設定された場合に、当該特許権について無効審判請求がなされると、同一の技術について、審理が二重に行われることになります。

そこで、実用新案登録に対する無効審判請求があった場合、最初に指定された答弁書提出可能期間経過後は、その実用新案登録に基づく特許出願を行うことができないことになっています。
「最初に指定された」とは、複数の無効審判請求それぞれの最初の指定という意味ではなく、複数の無効審判のすべてを通じて最初の指定であることを意味しています。

なお、実用新案登録無効審判の請求は、実用新案登録請求の範囲に記載されている請求項ごとに行うことができます。

そこで、一部の請求項についてのみ無効審判請求されることや、すべての請求項について無効審判されることが考えられますが、どちらの場合であっても、最初に指定された答弁書提出可能期間経過後は、その実用新案登録に基づく特許出願を行うことはできません。

<出願形式については弁理士によく相談してください>
2回に分けて説明してきたように、実用新案登録になってからでも実用新案登録に基づく特許出願を行うことが可能ですが、新しく開発した技術について、特許出願あるいは実用新案登録出願を行う前に、どちらの形式で保護を受けようとすることが望ましいのか専門家である弁理士によくご相談されることをお勧めします。

■ニューストピックス■
●国際標準化めぐり新国家戦略(知的財産推進計画2024)
政府の知的財産戦略本部は、「知的財産推進計画2024」を決定しました。
同計画では、国際標準化のルール形成に日本として積極的に関与するため、総合的な国家戦略を2025年春をめどに整備する方針を明記しました。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)

国際標準化に関する戦略の改定は19年ぶりです。
本部長の岸田首相は「経済安全保障や環境など重要性が高まっている領域において、産学官連携で戦略的に国際標準化を推進し、それを支える人材の育成や支援機関の強化を進める」と述べています。

国際規格は、国際標準化機構(ISO)などの国際機関が、品質管理や互換性確保を目的に製品や部品の標準仕様を定めています。日本企業にとって自社の技術に適合する国際規格が採用されれば、国際競争力の向上につながります。

米国、中国、欧州連合(EU)は、すでに国家戦略を策定しています。
日本は知財戦略本部が2006年に「国際標準総合戦略」を策定しましたが、最新の国際情勢を踏まえ、官民連携で取り組む新たな国家戦略が必要と判断しました。

●AI技術の国際競争が激化(令和6年版科学技術白書)
文部科学省は、「令和6年版科学技術・イノベーション白書」を公表しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

今年の白書では、人工知能(AI)の研究開発を巡る国内外の動向やAIを活用した科学研究の取り組みなどを特集しています。
白書によると、AIに関する論文数は、世界で2010年以降3倍以上になり、高度化するAI技術の国際競争も激化しています。
米国や国家主導で戦略的な投資を行う中国がAIの研究開発を加速させている一方、日本は人材育成や研究資金の確保などの課題が山積していると分析しています。

こうした中、日本では、強みである自動車やロボット工学の分野でAIを活用した研究開発が進められています。
具体的な事例として生成AIを活用した自動車のデザインなどが紹介されています。

また、科学研究にAIを活用する動きも始まっています。白書では、大量の顕微鏡画像から生成AIを使ってたんぱく質の構造変化を予測し、創薬につなげる研究なども紹介されています。

●iPS特許の使用めぐり、研究者と理研が和解
iPS細胞(人工多能性幹細胞)から網膜の組織を作る技術の特許をめぐり、技術を開発した研究者が、特許権を保有する企業に対して特許技術を利用できるよう経済産業相に裁定を求めていた問題で、研究者側は、企業との間で和解が成立し、一部の治療について特許が利用できるようになったと発表しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

理化学研究所の元研究者の高橋政代氏は、視界がゆがんだり、視力が低下する目の難病「加齢黄斑変性」の治療を目指して、iPS細胞から網膜の組織を作る技術を開発し、2014年に世界で初めて患者に移植する手術を行いました。

高橋氏が開発した技術の特許権は、理化学研究所や東京のベンチャー企業などが持っていますが、当初の予定どおり治験が始まらなかったため、独自に治験を進めようと、自らベンチャー企業を立ち上げて特許の利用を認めるよう求めたものの、企業側との交渉が進まなかったということです。

高橋氏は発明者ではありますが、特許権を持っていないため、2021年、「公共の利益」を理由に、自らが代表を務めるベンチャー企業「ビジョンケア」(神戸市)も特許が使えるよう、国に裁定を請求しました。
裁定とは、特許法に基づき、本来は国が保護すべき財産権である特許を、特許権者とは別の第三者が使うことを国が認める制度です。

今回の和解合意を受け、高橋氏は「公共性の高い特許発明は、よりよく活用できる者による実施が認められなければならないという主張の正当性が実を結んだ」などとコメントしています。

●知財エコシステムで活躍する女性人材の事例集(特許庁)
特許庁は、知財エコシステムで活躍する女性人材の事例とマネジメント層の考えなどに関する情報を取りまとめた「Diversity&Innovation~知財エコシステム活性化のカギとなる女性活躍事例~」を作成しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

事例集は、持続可能な経済成長の実現のため女性の活躍をはじめとしたダイバーシティ(多様性)の推進が求められることを背景に、組織のマネジメント層に、組織でのダイバーシティを高めるきっかけとして提示したものです。

日本においては、女性研究者の割合は増加しているものの、依然として国際的には低い水準にとどまっています。ジェンダーダイバーシティがイノベーションや企業業績に与える影響についての研究によると、男女が協力して発明した特許の方が経済的価値が高く、ジェンダーダイバーシティが高い企業の財務指標が優れていることが示されています。

女性が活躍できる環境を整えるには、制度だけでなく、組織の文化や周囲のサポートも重要です。

そこで、事例集では、知財エコシステムで活躍する女性研究者などを取り上げ、その成功事例をもとに、組織におけるダイバーシティの意義や効果を詳しく説明しています。

◆助成金情報 令和6年度「中小企業等海外侵害対策支援事業」
特許庁は、海外で取得した特許・商標等の侵害を受けている中小企業に対し、日本貿易振興機構(ジェトロ)を通じて対策費用の一部を助成する「令和6年度中小企業等海外出願・侵害対策支援事業費補助金(中小企業等海外侵害対策支援事業)」を開始しました。

同事業は、海外展開に際して模倣品被害や自社商標の抜け駆け出願、産業財産権に係る係争などの課題を抱える中小企業に向けた支援(模倣品対策、冒認商標無効・取消係争、防衛型侵害対策)を実施するものです。申し込み締め切りは10月31日(予算がなくなり次第終了)。

模倣品対策支援は、海外での模倣品流通状況の調査や模倣品業者への対抗措置に要する経費の3分の2(上限額400万円)を助成。

冒認商標無効・取消係争支援は、現地企業などに不当に出願・権利化された商標を取り消すために要する費用について、3分の2(上限額500万円)を助成。

防衛型侵害対策支援は、悪意ある外国企業から冒認出願で取得された権利等に基づいて権利侵害として訴えられた場合の対抗措置に要する費用について、3分の2(上限額500万円)を助成。

支援対象や要件等の詳細は、特許庁HPをご参照ください。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

<編集後記>
【今月の一冊】「経営戦略の三位一体を実現するための特許情報分析とパテントマップ作成入門 第3版(野崎篤志著 発明推進協会)」IPランドスケープを実行するための各種手法が解説されています。

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発行元 藤川IP特許事務所
弁理士 藤川敬知
〒468-0026 名古屋市天白区土原4-157
TEL:052-888-1635 FAX:052-805-9480
E-mail:fujikawa@fujikawa
URL:https://fujikawa-ip.com/

<名駅サテライトオフィス>
〒451-0045 名古屋市西区名駅1-1-17
名駅ダイヤメイテツビル11階エキスパートオフィス名古屋内
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