藤川IP特許事務所メールマガジン 2025年1月号
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◇◆◇ 藤川IP特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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2025年1月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
┃
┃ ☆知財講座☆
┃ (36)最後の拒絶理由通知
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┃ ☆ニューストピックス☆
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┃■特許庁と中小企業庁が知財経営支援で連携
┃ ■「ひこにゃん」、中国で商標登録へ(滋賀県彦根市)
┃ ■「海賊版サイト」をAIで検知する新システム構築(文化庁)
┃ ■「G-SHOCK」の類似品、不正競争で中国企業に勝訴(カシオ)
┃ ■国際出願関係手数料が1月より改定(特許庁)
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新年明けましておめでとうございます。
昨年は格別のご高配を賜り心より御礼申し上げます。
本年も皆様にご満足いただける知財サービスの向上を心がける所存でございます。
昨年同様のご愛顧を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(36)最後の拒絶理由通知
【質問】
特許庁での特許出願についての審査の結果で受領した「拒絶理由通知書」に「最後」という表示がされていました。「最初」と表示された「拒絶理由通知書」は受け取ったことがありません。この「最後」というのは何か意味があるのでしょうか?
【回答】
特許出願で審査を受けて特許庁審査官から受け取る拒絶理由通知には「最初の拒絶理由通知(特許法第17 条の2 第1 項第1号)」と「最後の拒絶理由通知(同法同条同項第3 号)」があります。どうしてこのようになっているのかを説明します。
「最後の拒絶理由通知」を受けて特許請求の範囲を補正する場合には、「最初の拒絶理由通知」に対応するときと同じく、新規事項を追加する補正を行ってはならない(同法同条第3項)、発明の内容を大きく変更するシフト補正を行ってはならない(同法同条第4項)ことに加えて、既になされた審査結果を有効に活用することができる範囲内の補正に限らなければならない(同法同条第5項)という制限が追加されます。
<拒絶理由通知が発せられることなく最終処分の拒絶査定を受けることはない>
特許出願に対して審査請求が行われたことで特許庁審査官が審査を開始し、新規性欠如、進歩性欠如、等の拒絶理由を審査で発見しない場合には「特許を認める」という特許査定(特許法第51条)が下され、特許査定謄本送達後30日以内に1~3年分の特許料を納付することで特許権が成立します。
一方、新規性欠如、進歩性欠如、等の「特許を認めることができない」とする理由(拒絶理由)を発見した場合には、審査官は、必ず、特許出願人に対し拒絶理由通知をし、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならないことになっています(特許法第50条)。
「審査官が、拒絶理由があるとの心証を得た場合においても、何らの弁明の機会を与えずに直ちに拒絶査定をすることは出願人にとって酷である。また、審査官が過誤を犯すおそれがないわけではない。このような理由から、出願人に、意見を述べる機会や、明細書等について補正をして拒絶理由を解消する機会を与え、同時に、意見書等を資料として審査官に再考するきっかけを与えることで、特許出願手続の適正かつ妥当な運用を図るために、この規定は設けられている。」と特許審査基準に説明されています。
<最初の拒絶理由通知>
「最初の拒絶理由通知」とは、一回目の審査において通知すべき拒絶理由を通知する拒絶理由通知のことです。
「最後の拒絶理由通知」の場合は、拒絶理由通知書の中に「最後」である旨とその理由が記載されるのが原則になっています。
これに対して、一回目の拒絶理由通知は、必ず「最初の拒絶理由通知」になりますから、「最初の拒絶理由通知」の場合、「最初」である旨とその理由が拒絶理由通知書の中に記載されることはありません。
一回目の拒絶理由通知である「最初の拒絶理由通知」では、審査官は、新規事項追加の補正禁止(特許法第17 条の2 第3 項)、先後願(特許法第39条、同法29条の2)、新規性・進歩性(特許法第29条第1項、第2項)、明細書・特許請求の範囲の記載要件(特許法第36条)等の総ての特許要件について審査し、原則として、発見された拒絶理由の総てを通知することになっています(特許審査基準)。
<最後の拒絶理由通知>
「最後の拒絶理由通知」とは、原則として、「最初の拒絶理由通知」に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶理由のみを通知する拒絶理由通知のことをいいます。したがって、一回目の「拒絶理由通知」が「最後の拒絶理由通知」になることはありません。
なお、「最初の拒絶理由通知」に対して特許出願人が意見書、手続補正書を提出し、拒絶理由通知の内容に反論して審査官に再考を求めても、通知されていた拒絶理由が解消されていないと審査官が判断した場合には、審査官の最終判断としての拒絶査定(特許法第49条)が下されます。これに対して不服であって、特許成立に向けて更なる審査・審理を求めたい特許出願人は、その後3カ月以内に拒絶査定不服審判を請求することができます。
2回目の拒絶理由通知である「最後の拒絶理由通知」に対して特許出願人が意見書、手続補正書を提出し、拒絶理由通知の内容に反論して審査官に再考を求めても、通知されていた拒絶理由が解消されていないと審査官が判断した場合には、審査官の最終判断としての拒絶査定(特許法第49条)が下されます。
なお、特定の場合には「補正却下の決定」(特許法第53条)が下されます。この場合は、補正がなかったことになるので、「最後の拒絶理由通知」で指摘された拒絶理由は解消されていないことになり、同時に「拒絶査定」が下されるのが一般的です。
このように、特許庁は、拒絶理由通知を、原則二回を限度(「最初の拒絶理由通知」及び「最後の拒絶理由通知」各一回)として通知し、手続全体の効率性に配慮しながら審査を進めることになっています(特許審査基準)。
<「最後の拒絶理由通知」とされる場合>
上述したように、「最初の拒絶理由通知」に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶理由のみを通知する拒絶理由通知が「最後の拒絶理由通知」とされます。
「明細書、等について、『最初の拒絶理由通知』に対する応答時に出願人が補正をしたことによって通知することが必要になった拒絶理由のみを通知する拒絶理由通知」の類型として特許審査基準に例示されているものをいくつか紹介すると次のようなものがあります。
・「最初の拒絶理由通知」に対して提出された手続補正書での補正により、明細書の記載が明瞭でなくなった場合、又は、明細書の記載に新規事項が追加された場合であって、その旨のみを通知する拒絶理由通知
・「最初の拒絶理由通知」に対して提出された手続補正書により、「最初の拒絶理由通知」の際に審査していた請求項に新しい技術的事項を付加する補正、又は、請求項の技術的事項を削除若しくは限定する補正が行われたことで、新たに新規性、進歩性等についての拒絶理由を通知しなければならない場合であって、その旨のみを通知する拒絶理由通知
・「最初の拒絶理由通知」に対して提出された手続補正書により請求項を追加する補正が行われ、これにより、新たに新規性、進歩性等についての拒絶理由を通知しなければならない場合であって、その旨のみを通知する拒絶理由通知
・「最初の拒絶理由通知」に対して提出された手続補正書により請求項に新規事項を追加する補正又は記載不備を生じるような補正がされた場合であって、その旨のみを通知する拒絶理由通知
なお、「最初の拒絶理由通知」に対して提出された手続補正書により「最初の拒絶理由通知」で指摘していた拒絶理由は解消されたが、「最初の拒絶理由通知」では引用していなかった、新たな先行技術文献等に基づく拒絶理由を発見した場合に通知する拒絶理由通知は「最後の拒絶理由通知」とすることができるとされています(特許審査基準)。
<2回目以降であっても「最初の拒絶理由通知」となる場合>
2回目以降の拒絶理由通知であっても、1回目の拒絶理由通知において審査官が指摘しなければならなかった拒絶理由が通知される場合、その拒絶理由は補正によって生じたものではありません。そこで、このような場合の「拒絶理由通知」は2回目ですが「最初の拒絶理由通知」になります。
「1回目の拒絶理由通知で新規性及び進歩性欠如の拒絶理由を通知したときには、明細書等の記載不備、発明の単一性の欠如等の拒絶理由を見落としており、その後、その拒絶理由を発見した場合」、「1回目の拒絶理由通知では拒絶理由を発見しない旨を明記した請求項について、補正がされなかったにもかかわらず、後に拒絶理由を発見した場合」等、1回目の拒絶理由通知をするときに審査官が指摘しなければならないものであったが、その時点では発見しなかった拒絶理由を2回目以降に通知する場合などが、2回目以降であっても「最初の拒絶理由通知」となるとして、特許審査基準に例示されています。
なお、1回目の拒絶理由通知をするときに審査官が指摘しなければならないものであったがその時点では発見しなかった拒絶理由と、1回目の拒絶理由通知に対して提出された補正書で行われた補正によって通知することが必要となった拒絶理由とを同時に通知する場合、審査官は、「最初の拒絶理由通知」を通知することになっています(特許審査基準)。
そこで、上述したように、特許庁は、拒絶理由通知を、原則二回を限度(「最初の拒絶理由通知」及び「最後の拒絶理由通知」各一回)とすることになっていますが、3回目、4回目の拒絶理由が通知されて、いずれも「最後」とはされずに「最初の拒絶理由通知」とされることが、稀にですが、あります。
■ニューストピックス■
●特許庁と中小企業庁が知財経営支援で連携
経済産業省は、中小企業・スタートアップの知財経営支援のため、特許庁、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)、日本弁理士会、日本商工会議所が連携した「知財経営支援ネットワーク」に中小企業庁を加え、支援体制を強化したと発表しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
中小企業庁の参加により中小企業庁の「知財Gメン」との情報共有を促進し、大企業と中小企業の知財取引の実態把握を強化します。
また「よろず支援拠点」とINPIT知財総合支援窓口、日本弁理士会の各地域会、商工会議所の経営指導員などが共に協力し、中小企業が抱えるさまざまな経営課題の解決に向けて、知財面も含めたシームレスで質の高い支援を提供するとしています。
●「ひこにゃん」、中国で商標登録へ(滋賀県彦根市)
滋賀県彦根市は、同市の人気キャラクター「ひこにゃん」を中国で商標登録すると発表しました。関連商品の中国での展開に向けて、模造品対策などのために権利化する必要があると判断しました。「ひこにゃん」の海外での登録は初めてです。
市エンタテインメント課によると、中国・上海で今年開業予定の百貨店内で、日系企業が「ひこにゃん」のキャラクター商品を販売することが決定。これを受け、模倣品などの知財トラブル回避のため、中国で商標登録することを決め、登録に必要な委託料42万9000円の予算案を市議会に提出しました。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
「おもちゃ・ぬいぐるみ」「広告・オンラインショップ」「旅行用品」「衣服」「菓子」の5分野で登録する予定ですが、中国名は商標の「先取り」を防ぐため、登録されるまで非公開としています。
熊本県は、「くまモン」を中国、韓国など17の国・地域で商標登録しています。日本語、英語、中国語、韓国語の名前があり、中国名は「熊本熊」です。
●「海賊版サイト」をAIで検知する新システム構築(文化庁)
文化庁は、日本の漫画やアニメを無断でネット上に掲載する「海賊版サイト」の被害を防ぐため、サイトに掲載された画像などをAIを使って検知する新たなシステムの構築を目指す方針です。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
海賊版サイトによる被害額は推定で年間2兆円に上ると推計され、深刻な事態となっています。そのため、文化庁では、より実効性の高い対策を進めるため、AIを使った検知システムを構築することを決めました。関連の事業費として今年度の補正予算案に約3億円を計上しました。
具体的には、海賊版サイトのレイアウトや広告、出版社から提供を受けたコンテンツの画像などの情報をAIに学習させ、自動的にサイトを検知するシステムの開発を進めるほか、検知されたコンテンツについて権利者が削除申請の手続をスムーズに行える仕組みの構築を目指すとしています。
●「G-SHOCK」の類似品、不正競争で中国企業に勝訴(
カシオ計算機は「G-SHOCK」の類似品を作った中国の企業2社に対し、不正競争を争う裁判で勝訴したと発表しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
同社によると、広東省最高裁判所は、中国企業2社が「G-SHOCK」の類似デザインを許可なく使って消費者を混同させたと判断。不正競争行為に当たるとして、損害賠償金300万元(約6500万円、1元21円で換算)の支払いを中国の企業に命じました。
問題となったのは、「G-SHOCK」の「GA-110」シリーズの商品デザインです。「GA-110」は、中国内では2010年に発売し、16~20年の間、中国の「G-SHOCK」全体の売り上げのなかで1位でした。
一方、意匠権が19年に満了したことを受け、同社は「GA-110」の類似品をめぐり、意匠権ではなく不正競争防止の観点から中国企業2を提訴。裁判では、「GA-110」のデザインが「一定の影響力を持つ商品の装飾」と認められました。
●国際出願関係手数料が1月より改定(特許庁)
2025年1月1日より国際出願関係手数料が改定されます。
2025年1月以降に本手数料の納付をする場合は、手数料の額及び適用関係に注意が必要です。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
<国際出願関係手数料に係る軽減・支援措置の申請手続>
特許庁では、中小企業等を対象とした国際出願に係る手数料(送付手数料、調査手数料、予備審査手数料)の軽減措置を講じています。
2024年1月1日以降になされる国際出願又は国際予備審査請求からは中小企業等を対象とした国際出願に係る手数料のうち、国際出願手数料、取扱手数料についても、中小企業等を対象とした支援措置が講じられています。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
<編集後記>
【今月の一冊】『シルバーブレット メディカルドクター・黒崎恭司と弁理士・大鳳未来』(南原詠著、宝島社発行)難病特効薬の特許権をめぐるベンチャーと大手とのバトルを描いたミステリー小説。
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発行元 藤川IP特許事務所
弁理士 藤川敬知
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TEL:052-888-1635 FAX:052-805-9480
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<名駅サテライトオフィス>
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