藤川IP特許事務所メールマガジン 2025年2月号

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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
                     2025年2月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
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┃ ☆知財講座☆
┃ (37)シフト補正

┃ ☆ニューストピックス☆

┃ ■AI開発者も共同発明者として認める方向で検討(政府)
┃ ■標準必須特許の使用料めぐり中国をWTOに提訴(EU)
┃ ■リヤド意匠法条約が採択
┃ ■改正意匠法に基づく関連意匠の出願状況(特許庁)
┃ ■特許証・登録証の再交付請求の要件を緩和(特許庁)
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政府は、人工知能(AI)を使った発明について、AI開発者も共同発明者として認める方向で検討しています。AI開発者が特許の付与を受ける発明者として認められるか否かはこれまで明確になっていませんでした。具体的な内容は、2025年6月までに策定予定の「知的財産推進計画」で示される見通しです。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(37)シフト補正
【質問】
特許出願で審査を受けて特許請求の範囲を補正する際に「シフト補正は禁止されています」というアドバイスを受けました。シフト補正というのはどのようなものなのでしょうか?

【回答】
特許出願の審査で拒絶理由を受けた後に行う特許請求の範囲の補正で、特許請求する(=審査を受ける)発明の内容を大きく変更する補正が、いわゆるシフト補正と呼ばれているものになります。複数の発明を一件の特許出願の中に盛り込んで特許請求して審査を受けることができるように、一件の特許出願の中に含めることのできる発明の範囲が「発明の単一性」として特許法第37条に規定されています。シフト補正の禁止は、特許法第37条の「発明の単一性」の規定と関係しています。

そこで今回は、シフト補正が禁止されている趣旨などについて説明し、次回で、特許法第37条の「発明の単一性」の内容について解説します。

<シフト補正が禁止されている趣旨>
いわゆる「シフト補正の禁止」は、特許法第17条の2第4項に規定されています。拒絶理由を受けて特許請求の範囲を補正するときは「その補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明と、その補正後の特許請求の範囲に記載される事項により特定される発明とが、特許法第第37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものとなるようにしなければならない。」という規定です。

特許出願の審査で拒絶理由通知を受けた後に特許請求する(=審査を受ける)発明の内容が補正によって大きく変更されると、審査官は、それまでの審査で行っていた先行技術調査、審査の結果を、補正後の発明についての審査に活用できなくなることがあります。

このようになると、審査官は、先行技術調査、審査をやり直すことになります。

そこで、特許出願の審査で拒絶理由通知を受けた後に特許請求する(=審査を受ける)発明の内容を大きく変更する補正を許容することは、迅速、的確な特許権付与という観点からは望ましくありません。

また、特許請求する(=審査を受ける)発明の内容が、審査を受けた後に大きく変更される補正が行われる特許出願と、そのような補正が行われない特許出願との間で取り扱いの公平性を確保するという観点からも特許出願の審査で拒絶理由通知を受けた後に特許請求する(=審査を受ける)発明の内容を大きく変更する補正を許容することは望ましくありません。

そこで、上述したシフト補正の禁止という補正の制限が導入されています。

<審査を受ける前に行う補正には課されない>
特許出願の際に特許庁へ提出した明細書・図面、等の記載内容を補充・訂正する補正は、特許出願後であればいつでも行うことができます。ただし、審査請求して特許庁審査官から拒絶理由の通知を受けた後は、拒絶理由通知書で指定された期間などの所定の期間、時期にしか補正を行うことができません。

上述したシフト補正禁止の制限は、「拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明」と規定されています。そこで、拒絶理由通知書を受けて行う際の補正に課される制限になり、審査を受ける前に行う補正では新規事項追加禁止の制限を受けますが、シフト補正禁止という制限は受けません。

なお、特許出願では、特許庁におけるいわば第一審としての一人の審査官による審査で「拒絶理由通知書で指摘した拒絶理由が解消しないので特許を受けることができない」として「拒絶査定」を受け、その後3カ月以内に、特許成立を目指して拒絶査定不服審判を請求し、3人あるいは5人の審判官による合議での慎重な審理を求めることがあります。

この拒絶査定不服審判を請求した後に審判官合議体などから拒絶理由通知を受けることがあります。上述したシフト補正禁止の制限は拒絶査定不服審判請求後に拒絶理由を受けて補正する際にも課されます。

<シフト補正禁止の規定に違反した場合>
特許法第17条の2第4項に規定されているシフト補正の制限に違反した場合は、拒絶理由を受けます(特許法第49条第1号)。また、いわゆる「最後の拒絶理由通知」に対する応答としてされた補正がシフト補正禁止の制限に違反している場合には補正却下の理由になります(特許法第53条第1項)。

審査官が「シフト補正禁止の制限に違反している」と判断して拒絶理由を通知する場合であって、「シフト補正禁止の制限に違反している」という拒絶理由のみを通知しなければならないならば、その拒絶理由は、「最初の拒絶理由通知に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶理由のみを通知する拒絶理由通知」になりますから、いわゆる「最後の拒絶理由」になります。

また、補正却下された場合(特許法第53条第1項)は補正する前の状態に戻り、最後の拒絶理由で指摘されていた拒絶理由が解消されていないとして「拒絶査定」を受けることが一般的です。

「最後の拒絶理由」を受けてから行う特許請求の範囲の補正や、拒絶査定不服審判請求する際に行う特許請求の範囲の補正には、請求項の削除、特許請求の範囲の限定的減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものでなければならない(特許法第17条の2第5項)という制限が課せられます。

そこで、拒絶理由通知を受けてから行う補正には、シフト補正と判断されることがないような内容で行うことが求められます。

なお、シフト補正にあたると認定される補正後の発明は、その特許出願の出願時の明細書、図面に記載されていた発明であるならば、その特許出願から適式に分割出願(特許法第44条)を行って審査を受けることができます。この分割出願の審査で新規性、進歩性などの特許要件を具備していると判断されれば、特許権が成立します。

このように、シフト補正がなされたとしても、シフト補正にあたると認定された補正後の発明については、その特許出願から適式な分割出願(特許法第44条)を行って審査を受けるべきところをそのようにしなかったという、いわば手続上の不備が存在していたものでしかありません。

そこで、シフト補正がなされた特許出願が、そのことに起因する拒絶理由などを受けることなく、そのまま特許査定されたとしても直接的に第三者の利益を著しく害することにはならないと考えられます。

このため、上述したように、シフト補正禁止の制限に違反した場合は拒絶理由を受けることなどになりますが、シフト補正禁止の制限に違反していたことは、特許権成立後に申立や請求が行われる特許異議申立て、特許無効審判請求での理由にはなっていません。

<シフト補正禁止の判断を受ける対象>
シフト補正禁止の制限は「拒絶理由通知を受けて補正した後の特許請求の範囲に記載されている発明」が、「補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明」との間で、特許法第第37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当しているかどうかということで判断されます。

「拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明」とは、新規性(特許法第 29 条第 1項)、進歩性(同法第 29 条第2 項)、拡大先願(同法第 29 条の 2)、先願(同法第 39 条)についての審査がなされた発明のことです。

シフト補正が禁止されている趣旨は、上述したように、補正前になされた先行技術調査、審査を有効に活用することにありますから、審査官は、補正前の審査を受けた発明の中で、先行技術調査を要する上述した条文の要件についての審査がなされた発明に基づいて、補正後の発明がシフト補正に該当するかどうかを判断することになっています。

なお、審査がなされた結果、新規性、進歩性、拡大先願、先願についての拒絶理由が発見されていなかった発明も「拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明」にあたるとされています。

<シフト補正であると判断される場合>
「拒絶理由通知を受けて補正した後の特許請求の範囲に記載されている発明」が、「補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明」との間で、特許法第第37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当していない場合に、シフト補正にあたると判断されることになります(特許法第17条の2第4項)。

一の特許出願の特許請求の範囲に記載されている2個の請求項に記載されている発明を対比した時に、両者の間に、同一の又は対応する特別な技術的特徴が存在しているときに、「特許法第第37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明」ということになります。

特許法第37条の発明の単一性の要件は、審査を受けている特許出願の特許請求の範囲に記載されている二以上の請求項記載の発明の間で検討・判断されます。シフト補正禁止の規定(特許法第17条の2第4項)は、この単一性の要件を、補正前の特許請求の範囲に記載された発明と、補正後の特許請求の範囲に記載された発明との間に拡張したものであるといえます。

特許出願の手続を専門家である弁理士に依頼している場合には、シフト補正禁止の制限に違反する補正が弁理士から提案されることはあまりありません。また、違反する可能性がある場合には「この補正の内容ではシフト補正禁止の規定に違反するという拒絶理由を受けることになるかもしれません」という説明を事前に受けるのが一般的であると思われます。

「審査を受けている発明には新規性、進歩性を認めることができない」という拒絶理由を受け、指摘された拒絶理由を覆すべく、特許請求する発明の内容を大きく変更しようとすると「シフト補正禁止の制限に違反している」という拒絶理由や、補正却下の決定を受けることがあります。そこで、専門家である弁理士によく相談することをお勧めします。

■ニューストピックス■
●AI開発者も共同発明者として認める方向で検討(政府)
城内実・内閣府特命(知的財産戦略、科学技術政策)担当大臣は、人工知能(AI)を使った発明について、AI開発者も共同発明者として認める方向で検討するとの意向を表明しました。AI開発者が特許の付与を受ける発明者として認められるか否かはこれまで明確になっていませんでした。具体的な内容は、2025年6月までに策定予定の「知的財産推進計画」で示される見通しです。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

現在の特許法では、「発明者は自然人に限る」として、AIそのものは発明者として認めていません。AIが特許法で規定された「発明者」に該当するかどうかが争点となった「ダバス事件」では、日本を含む多くの国で、発明者を自然人に限定するという判決が下されています。

この事件を契機に現在、各国でAI発明の法的取り扱いが議論されています。

米国特許商標庁(USPTO)では、昨年2月、「AI支援発明に関する発明者ガイダンス」を策定。同ガイダンスでは AIの支援を受けた発明であったとしても、発明着想に貢献した自然人は発明者になり得ることを明確にしています。
▷詳細はこら(別サイトが開きます)

特許庁によると、現時点では、AIが自律的に発明を創作する事例は確認されていませんが、今後、技術の進展により、この状況が変わる可能性があります。そのため、発明過程でAIを活用した場合の進歩性の判断や発明者の認定基準といった課題について、現在、特許庁の有識者会議で検討を進めています。

現行制度では、人が課題設定やアイデアを出して、AIが化学式などを組み合わせて創作した発明の場合、真の発明者の認定(発明者適格性)などは明確になっていません。特許権が付与される発明は、創作過程に人が関与したものに限られるため、有識者会議では、AIを使った発明の特許取得には人の関与がどの程度必要になるかなどについて検討する方針です。

今後、AIを用いた発明がより広範囲において出願されることが予想される中、政府は、国際的な知財制度の動向を注視しつつ、特許法の解釈の変更も含めた対応を検討しています。

●標準必須特許の使用料めぐり中国をWTOに提訴(EU)
欧州連合(EU)の欧州委員会は、中国政府がEUの標準必須特許(SEP:standard essential patent)をめぐり、特許使用料を不当に引き下げているとして、世界貿易機関(WTO)に提訴したと発表しました。
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欧州委員会によると、中国企業は、通信技術などのハイテク分野で不当に低い標準必須特許使用料で欧州企業の技術を利用しており、WTO協定違反に当たるとしています。

「標準必須特許」とは、標準規格に準拠した製品の製造やサービスの提供を行う際に必ず実施することとなる特許権です。通信分野では高速大容量規格の「5G」技術などが該当します。

欧州にはエリクソン(スウェーデン)やノキア(フィンランド)といった世界的な通信機器メーカーが「5G」に関連する特許を多く保有していますが、中国政府は、特許権者の承諾を得ないまま特許使用料を低く設定しているとしています。

●リヤド意匠法条約が採択
サウジアラビア・リヤドでこのほど開催された外交会議で、「リヤド意匠法条約」が採択されました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

この国際条約は、各国で異なる意匠登録、出願手続を調和・簡素化することにより、出願人の負担を軽減することを目的としています。特許法条約(PLT)と商標法に関するシンガポール条約(STLT)に次ぎ、リヤド意匠法条約(DLT:Design Law Treaty)が採択されたことにより、産業財産権の主要3法に関する国際条約がすべて確立されたことになります。

条約には、グレースピリオド(新規性喪失等の例外)や出願・登録意匠の非公表の維持(秘密意匠制度)、手続期間を徒過した場合や権利を喪失した場合等に一定の条件下で提供される救済措置などが盛り込まれています。

【条約の主な内容】
① 出願及び申請時に官庁が課すことができる要件
② グレースピリオド(新規性喪失等の例外)
③ 出願・登録意匠の非公表の維持(秘密意匠制度)
④ 手続救済措置
(a) 官庁が指定する手続期間の延長
(b) 意匠出願又は登録に関する権利回復
(c) 優先権主張の訂正・追加
(d) 優先権回復

本条約は、15の国又は政府機関が批准書又は加入書を寄託した後3か月で効力を生じることになっており、日本で批准する際には意匠法の改正が行われる予定です。

●改正意匠法に基づく関連意匠の出願状況(特許庁)
特許庁は、改正意匠法に基づく関連意匠の出願状況を公表しました。それによると、本年1月6日時点において、19,697件(本意匠の公報発行前の出願が15,816件、本意匠の公報発行後の出願が3,881件)の関連意匠が出願されました。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)

関連意匠は、デザイン開発において一つのコンセプトから多くのバリエーションの意匠が継続的に創作されるという実情に基づき、同一出願人による一群のデザインを同等の価値を有するものとして保護することを目的としたものです。

本意匠の意匠公報発行後(基礎意匠の出願から10年を経過する日前まで)も関連意匠の出願が可能です。この制度を利用することで、当初製品投入後に追加的にバリエーションを開発し、一群のデザインとして包括的に意匠権を取得することもできます。

●特許証・登録証の再交付請求の要件を緩和(特許庁)
特許庁は、特許証や登録証の再交付請求について、令和7年1月1日以降は理由を問わず請求することができるよう要件を緩和しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

これまで特許(登録)証の再交付にあたっては、「特許(登録)証再交付請求書」に「汚損・破損・紛失」のいずれかの理由を明示する必要がありました。また、汚損・破損の場合には、特許(登録)証を提出(返却)することが求められていました。

本年1月からは理由を問わずに再交付請求をすることが可能になるとともに、汚損・破損の際に求められていた特許(登録)証の提出も不要となりました。

書面手続のデジタル化の推進により、特許(登録)証は受領者の選択によりオンラインで受領することも可能となりましたが、オンラインで受領した者から、紙での再交付を請求したいという問い合せが度々寄せられていることや、オンラインで受領した特許(登録)証は受領者の判断で制限なく紙で印刷できる状況であることなどから、再交付請求にあたっての要件(汚損、破損、紛失)が撤廃されました。特許(登録)証の再交付請求に係る提出書類及び料金については特許庁HPでご確認ください。

<編集後記>
【今月の一冊】『そこが知りたい著作権Q&A100 -CRIC著作権相談室から-(第2版) 』(早稲田裕美子著、著作権情報センター発行)著作権に関する疑問にQ&A形式で答える読みやすい本です。

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