藤川IP特許事務所メールマガジン 2025年10月号
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◇◆◇ 藤川IP特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
2025年10月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
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┃ ☆知財講座☆
┃(45)発明の新規性喪失の例外
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┃ ☆ニューストピックス☆
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┃ ■中小企業の知的財産侵害の実態調査を開始(公取委など)
┃ ■国産のAI開発支援など「AI基本計画」策定へ(政府)
┃ ■税関の輸入差し止め件数、過去2番目の多さ(財務省)
┃ ■企業の営業秘密の漏えいが大幅に増加(情報処理推進機構)
┃ ■解説動画「特許出願の手続2025」を公開(INPIT)
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独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、「企業における営業秘密管理に関する実態調査2024」の報告書を発表しました。
報告書によると、近年、企業における営業秘密の漏えい事例が大幅に増加しています。
そこで今号では、報告書の概要と不正競争防止法における「営業秘密の要件」について取り上げます。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(45)発明の新規性喪失の例外
【質問】
当社で新しく開発した技術が実装されている発明品を製造し、7カ月前から販売開始しました。非常に評判が良いのですが、お客様に販売する前に特許出願していませんでした。
お客様に販売した発明品を分解すれば当社の新規開発技術の内容を把握可能です。
今からでも特許出願して特許取得することは可能でしょうか?
【回答】
新規開発技術については市場に提供する前に特許出願を行うことが原則です。
今回の場合、秘密を守る義務を有していないお客様に発明品が購入された時点で新規開発技術は公(おおやけ)に知られた=新規性を喪失したことになっていて、これから特許出願しても、特許庁の審査で「新規性を欠如している発明である」として拒絶され、特許権は成立しないのが原則です。
ただし、新規性喪失行為から1年経過していない間に、新規性喪失行為について「新規性喪失の例外を適用してほしい」という申請を付帯した特許出願を行うことで上述した拒絶理由を受けないで特許取得できることがあります。
今回は、この新規性喪失の例外(特許法第30条)について説明します。
<発明品を市場に公開する前に特許出願を行うことが原則>
特許法は新規発明公開の代償として特許権を付与することにより産業の発達に寄与しようとするものです。このため、特許出願前に販売が行われる等して公(おおやけ)に知られることになった技術については、その後に特許出願が行われても、そのような発明は特許法第 29 条第1項各号に規定されている「既に新規性を喪失している発明である」として拒絶され特許成立しないのが原則です。
そこで、新しく開発した技術が実装されている発明品を製造し、販売する場合には、その発明の内容が公(おおやけ)に知られてしまう前、例えば、秘密を守る義務を有していないお客様に発明品を販売する前に、特許出願しておくことが原則になります。
<所定の条件を満たす場合、発明の新規性喪失の例外が認められる>
発明者や、発明者から当該発明についての特許を受ける権利を取得した者(以下「特許を受ける権利を有する者」といいます。)が、自ら、その発明を刊行物に公表する、自社のウェブサイトにアップする、その発明が実装されている製品を販売する等の公開行為=新規性喪失行為を行った後、当該発明について特許出願しても一切特許を受けることができないとすると、発明者にとって酷になることがあります。
また、このように一律に特許を受けることができないとすることは、産業の発達への寄与という特許法の趣旨にもそぐわないと考えられます。
そこで、上述したような発明公開行為=新規性喪失行為が、特許を受ける権利を有する者によって行われた後、その者によって特許出願が行われた場合には、上述したような発明公開行為=新規性喪失行為によっては、当該発明の新規性は喪失していなかったものとして取り扱う規定、いわゆる、発明の新規性喪失の例外規定(第 30条)が特許法に設けられています。
<新規性喪失の例外が認められる発明公開行為>
発明の新規性喪失の例外規定の適用対象となる「公開された発明」は、以下の発明であって、上述したような発明公開行為=新規性喪失行為から特許出願が行われるまでの期間が1年以内のものとされています(特許法第30条)。
(i) 特許を受ける権利を有する者の意に反して公開された発明(特許法第30条第1項)
(ii) 特許を受ける権利を有する者の行為に起因して公開された発明(特許法第30条第2項)
上述の特許法第30条第2項では「特許を受ける権利を有する者の行為に起因して公開された発明」について新規性喪失の例外を受けることが可能です。
発明が、特許を受ける権利を有する者の行為によって、特許法第29条第1項各号のいずれかに該当することとなった場合が、包括的に、新規性喪失の例外適用を受け得る対象になっているのです。
すなわち、発明が実装されている製品を販売した、新聞・雑誌・カタログ等の刊行物に掲載した、インターネット等の電気通信回線を通じて発表した、テレビ放送された、公開で試験を行った、学術団体等の研究集会等において発表した、博覧会に出品した等、特許を受ける権利を有する者の行為によって発明が公に知られることになって発明が新規性を喪失した総てのケースについて、新規性喪失の例外適用を受けることが可能になっています。
なお、現状では、世界のどこの特許庁でも、特許出願を受け付けると受け付けた特許出願の内容を、特許出願から18カ月経過した時点で世界中に向けて公表する特許出願公開を行います。特許を受ける権利を有する者による内外国特許庁への出願行為に起因して前述の特許出願公開が行われて発明が新規性を喪失した場合については、新規性喪失の例外適用を受けることができないとされています(特許法第30条第2項カッコ書き)。
<新規性喪失の例外適用を受けるために必要な手続>
新規性喪失行為から1年以内に特許出願を行う
発明の新規性を喪失する行為が、特許を受ける権利を有する者の行為に起因しているものであっても(特許法第30条第2項)、「スパイ行為」などによる、特許を受ける権利を有する者の意に反したものであっても(特許法第30条第1項)、新規性喪失行為から1年以内に特許出願されなくてはなりません。
特許出願と同時に適用申請を行う
発明の新規性を喪失する行為が特許を受ける権利を有する者の行為に起因しているものである場合(特許法第30条第2項)、特許出願の際に、新規性喪失の例外適用を申請する旨の意思表示を行う必要があります。
なお、発明の新規性を喪失する行為が特許を受ける権利を有する者の意に反したものである場合は、その事情を知らないで特許出願が行われることが一般的ですので、特許出願の際に適用申請を行う必要はなく、特許出願について審査を受けて「新規性欠如」の拒絶理由を受けた際に、「特許を受ける権利を有する者の意に反したものである」ことを主張し、立証することになります。
新規性喪失行為を証明する書面の提出
上述したような発明公開行為=新規性喪失行為によって「公開された発明」が、特許法第30条第2項の規定の適用を受けて「新規性喪失の例外」とされるものであることを証明する書面(以下「証明する書面」といいます。)を、特許出願後30日以内に、特許庁ヘ提出します。
<発明の内容が記載されたパンフレットを複数の取引先に配布した場合>
パンフレットは刊行物(公衆に対して頒布により公開することを目的として複製された文書、図面その他これに類する情報伝達媒体)に該当すると考えられます。そこで、発明の内容が記載されたパンフレットを複数の取引先に配布した場合は、新聞・雑誌・論文集などのような刊行物に発明を掲載した場合と同様に、パンフレットの発行日などが記載されている「証明する書面」を準備すれば、パンフレット配布先である複数の取引先名の総てを「証明する書面」に記載する必要はありません。
ただし、一般的には、パンフレットそのものを補充資料として「証明する書面」に添付しますが、パンフレットには発行日が印刷されていないことがあります。このような場合には、パンフレットを印刷・作製してくれた会社にパンフレットの作製・納品の事実を立証する書面を作成していただく、あるいは、1社でもよいですが、パンフレットの配布を受けた企業に、パンフレット受領の日付を証明する書面を作成していただいて「証明する書面」とともに特許庁へ提出する、等の配慮をすることが望ましいといえます。
<特許を受ける権利を有する者によるSNS への投稿により発明を公開したところ、その投稿が他者に再び投稿(いわゆる、旧Twitterでいうリツイート)された場合>
特許を受ける権利を有する者によるSNS への投稿により発明を公開した事実を「証明する書面」に記載して新規性喪失の例外適用を受けるようにしておけば、その後の、他者の投稿によって公開された発明については「証明する書面」の提出を省略できます。
<発明が実装されている商品を複数の取引先に販売した場合>
発明が実装されている商品であって、分解する、等によって発明内容を把握可能な商品(以下「発明品」といいます。)を、特許を受ける権利を有する者が、取引先X社に販売した後、取引先X社とは異なる取引先Y社にも販売した場合。
この場合は、X社への販売の事実だけでなく、Y社への販売の事実も「証明する書面」に記載する必要があります。
「証明する書面」にX社への販売だけしか記載していなければY社への販売に関しては新規性喪失の例外適用を受けることができず、「証明する書面」にY社への販売だけしか記載していなければX社への販売に関しては新規性喪失の例外適用を受けることができません。
<複数の店舗に発明品を納品した場合>
特許を受ける権利を有する者が、複数の店舗に、発明品を納品した行為について新規性喪失の例外適用を受ける場合には、「証明する書面」に全ての店舗を記載する必要があります。
「証明する書面」に一部の店舗のみが記載されている場合には、記載のなかった店舗への納品によって公開された発明については新規性喪失の例外適用を受けることができません。
店舗が多数存在し、その全てを「証明する書面」に記載できない場合、「証明する書面」には「別紙参照」と記載し、店舗の一覧表などを「証明する書面」に添付することができます。
<弁理士によく相談することをお勧めします>
新規性喪失行為を行ってからでも1年以内であれば特許出願可能であり、「証明する書面」を特許出願人のみで準備できるようになっていますが、あくまでも、新規性喪失の例外は、公開する前に特許出願を行うべきという原則に対する例外です。慎重、かつ適切に対応しませんと新規性喪失の例外適用を受けられないことがあります。また、外国への特許出願を行う場合、日本特許庁では「新規性喪失の例外」と認めてもらえる発明公開行為が、外国の特許庁では認めてもらえないことがあります。
そこで、このような事情を熟知している弁理士に事前に十分に相談することをお勧めします。
■ニューストピックス■
●中小の知的財産侵害の実態調査を開始(公取委など)
公正取引委員会と中小企業庁、特許庁は合同で、中小企業の知的財産侵害に関する実態調査を開始しました。
公取委・中小企業庁・特許庁という三機関の連携によって全業種を網羅的に調べ、中小企業の権利保護に向け、監視を強化する方針です。
これまでは製造業とスタートアップ企業が対象だった調査を全業種へと広げ、特許などの知的財産権や権利化されていないノウハウなどが適正に取り扱われているか取引実態を調べます。
また、中小企業の中には自社が持つデータの価値に気付かず、取引先に不当に利用されるおそれがあるとして、生産設備などのデータも新たに調査対象としました。
調査は、業種の偏りを避けるため、無作為に抽出した企業にアンケート調査票を送付する第1段階と、今秋以降に当事者へのヒアリング(聞き取り)を行い、取引実態を詳しく掘り下げる第2段階から構成されます。
公取委は、調査で収集した事例を分析した上で、2026年度以降の独禁法のガイドラインに違反事例を反映させるほか、下請法の運用基準を見直す方針です。
●国産のAI開発支援など「AI基本計画」策定へ(政府)
AI開発や活用などAI政策を検討している政府の「AI戦略本部」は、国産AIの開発支援や規制の見直しなどを盛り込んだ「AI基本計画」の骨子を提示しました。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
基本計画は、本年6月に施行された「AI推進法」(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)に基づく国家戦略。米中両国に後れを取っているAI活用や研究開発で巻き返しを図るため、国産のAI開発を担う民間企業や研究機関の取り組みを政府として積極的に支援します。政府は、年内にも基本計画を取りまとめる方針です。
骨子では「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」を目指すと明記しました。①活用の推進、②開発強化、③ガバナンスの主導、④AI社会に向けた継続的変革―の4つを基本的な方針として掲げました。
具体的な取り組みとして、政府機関や地方自治体でのAI活用の徹底や、医療・介護など人手不足が深刻な分野へAIを積極的に導入します。日本の強みである「質の高いデータ」を生かした開発力の強化なども明記。AI半導体や光ネットワークなど基盤技術の開発支援も盛り込みました。
制度面では、AI使用時の民事責任の検討や知的財産の保護も言及。技術革新とリスク対応の両立について、今後、有識者会議で検討を進める方針です。
●税関の輸入差し止め件数、過去2番目の多さ(財務省)
財務省は、全国の税関が2025年上半期(1~6月)に偽ブランドなど知的財産権侵害を理由に輸入を差し止めた件数は前年同期比5.6%減の1万7249件だったと発表しました。
過去最多の24年上半期よりは減少しましたが、3年連続で1万5千件を超す高水準となり、過去2番目の多さとなっています。
22年から個人が使う目的で輸入した模造品も没収対象になり、件数が高止まりする一因となっています。
品目別では、衣類が2.5%増の6825件で最多。次いでバッグ類が1.0%増の4225件。一方、靴類は19.5%減の1867件、携帯電話や付属品は4.9%減の908件でした。発送元は中国が84%と最も多く、次いでベトナムの9%。
●企業の営業秘密の漏えいが大幅に増加(情報処理推進機構)
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、「企業における営業秘密管理に関する実態調査2024」の報告書を発表しました。
報告書によると、営業秘密の漏えい事例や事象を認識している割合は、前回調査(2020年)の5.2%から35.5%と大幅に増加しました。
営業秘密の漏えいルートで最も多かったのは、「外部に起因するサイバー攻撃による漏えい」の36.6%でした。
このほかのルートでは内部に起因するものが多いことが分かりました。「現職従業員などのルール不徹底(ルールを知らなかったなど)による漏えい」(32.6%)、「現職従業員などによる金銭目的などの具体的な動機を持った漏えい」(31.5%)、「誤操作・誤認などによる漏えい」(25.4%)、「外部者(退職者を除く)の立ち入りに起因する漏えい」(20.2%)など。
一方で、「中途退職者(役員・正規社員)による漏えい」は前回調査の36.3%から今回調査では17.8%に低下しました。
●営業秘密とは●
不正競争防止法において「営業秘密」とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法、その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義されています。
具体的には、①秘密管理性、②有用性、③非公知性という3要件が全て満たされていることが必要です。
したがって、たとえ社内で「秘密」とされている情報であっても、この3要件が満たされていなければ、不正競争防止法においては「営業秘密」として保護されないことになります。
【①秘密管理性(秘密として管理されていること)】
秘密管理性が認められるためには、主観的に秘密として管理しているだけではなく、客観的にみて秘密として管理されていると認識できる状態にあることが必要とされています。
例えば、書類に「部外秘」「マル秘」と記載されているなど、それが明らかに秘密情報であることを認識できるようにしていること、特定の社員以外の者はアクセスできないような管理措置がとられていることなどがあります。
【②有用性(有用な営業上又は技術上の情報であること)】
有用性が認められるためには、その情報自体が客観的に活用されることによって、商品開発の効率化、経営の改善等に役立つものであることが必要となります。
例えば、製造ノウハウ、仕入れ価格などは有用性が認められる情報です。
【③非公知性(公然と知られていないこと)】
非公知性が認められるためには、その情報が保有者の管理下以外では、一般に入手できないことが必要です。
例えば、刊行物などに記載されていたり、学会発表等で公開されたりしている情報については、非公知性は認められません。特許を取得して公開されている情報には非公知性が認められません。
●解説動画「特許出願の手続2025」を公開(INPIT)
INPIT(工業所有権情報・研修館)は、無料で学べる動画「特許出願の手続2025」を公開しました。
本動画は、特許出願における出願手続の流れや特許願の作成方法、出願と同時にしておくべき手続など、特許出願をされている方、検討中の方向けに公開していた解説動画を今年度版の内容に改訂したものです。
特許出願の手続を行う際に生じた疑問・不明点を動画で気軽に確認することができます。
なお、特許出願手続に関する詳細については、特許庁のサイト(出願に関する情報、手数料に関する情報等)でも紹介しています。
<編集後記>
【今月の一冊】『AIの作品は誰のもの?弁理士と考えるAI×著作権』(竹居信利、橘祐史著、(株)技術評論社発行)。弁理士の視点から、知的財産の中身やAIのしくみ、AI周辺の権利問題の要点を解説した本です。
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発行元 藤川IP特許事務所
弁理士 藤川敬知
〒468-0026 名古屋市天白区土原4-157
TEL:052-888-1635 FAX:052-805-9480
E-mail:fujikawa@fujikawa-ip.com
<名駅サテライトオフィス>
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