藤川IP特許事務所メールマガジン 2023年2月号
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◇◆◇ 藤川IP特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
2023年2月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
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┃ ☆知財講座☆
┃(13)特許無効審判
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┃ ☆ニューストピックス☆
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┃ ■スタートアップをめぐる取引の実態調査の結果公表(公取委)
┃ ■商標の「コンセント制度」を導入へ(特許庁)
┃ ■改正意匠法に基づく新たな保護対象の意匠登録の出願動向
┃ ■特許庁関係手続における主な法令改正 早わかり一覧
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公正取引委員会は、スタートアップを巡る取引に関する実態調査の結果を公表しました。
報告書では、秘密保持契約を締結しないまま営業秘密の開示を求められるなど、独占禁止法上問題となる事例が多数報告されました。
こうした事例は、スタートアップが関係する取引でなくても生じる可能性があるため、他の取引においても実務上参考になると思われます。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(13)特許無効審判
【質 問】
特許庁のJ-Plat Patでライバルメーカーの会社名を特許出願人の検索キーワードにして検索したところ現存している特許権を発見しました。この発明は、当業界では従来から知られていた技術で特許が成立しているのが間違いではないかと思います。
当社ではこの技術を採用した製品を市場に出したいと考えています。この特許にどのように対応すればよいでしょうか?
【回 答】
新製品が特許権を侵害するおそれが無いものになるように設計変更することが難しく、特許権者に交渉して実施許諾を受けることも難しいのであれば特許無効審判請求を特許庁に提出することが考えられます。
<特許無効審判(特許法第123条)>
特許無効審判は、そもそも、新規性が欠如している、進歩性が欠如している、等の理由で成立すべきでなかった特許に対して、特許は初めから成立すべきでなかったという特許庁の判断を求めて特許庁に提出できるものです。
特許庁での審理の結果「特許は初めから成立すべきでなかったという」効果が発揮されるものとして特許異議申立(特許法第113条)があります。
特許異議申立は、特許庁が行った特許付与について、特許庁自身が見直しを行う契機を広く社会に求めるものです。
一方、特許無効審判は、特許権者から「特許権侵害である」として追及を受けるおそれのある者などと、特許権者との間、すなわち当事者間における具体的な紛争の解決を主たる目的にしています。このため、両制度の間には以下のような相違があります。
【特許異議申立制度と無効審判制度との比較】
特許異議申立 | 特許無効審判 | |
制度趣旨 | 特許の早期安定化を図る | 特許の有効性に関する当事者間の紛争解決を図る |
手続 | 特許庁と特許権者との間で進められる査定系手続 原則として書面審理 | 請求人と被請求人(特許権者)との間で進められる当事者系手続 原則として、特許庁の審判廷に出廷して、口頭審理 |
特許異議申立人・無効審判請求人になれる者 | 何人も異議申立可能ただし、匿名での申立は不可 | 利害関係人のみが無効審判を請求できる(利害関係人:特許発明と同種の製品を製造する者、実際に特許権侵害で訴えられている者、類似の特許を有する者、等)。 |
申立て・請求の時期 | 特許掲載公報発行の日から6月以内に限って申立可能 | 設定登録後いつでも無効審判請求可能(権利の消滅後でも無効審判請求可能) |
異議申立の理由、無効審判請求の理由 | 公益的理由(新規性・進歩性欠如、明細書の記載不備、等) | 公益的理由(新規性・進歩性欠如、明細書の記載不備、等)、権利帰属に関する理由(冒認出願、共同出願違反)、特許後の後発的理由(外国人の権利享有規定に対する後発的な違反、後発的な条約違反) |
特許庁での審理の結論 | 特許維持決定あるいは、特許取消決定 | 棄却審決(無効審判請求を棄却する)あるいは、無効審決(無効審判請求を認める) |
不服申立 | 特許維持決定に対しては不服申立不可(異議申立人は同一の証拠、同一の理由で特許無効審判請求が可能)、特許取消決定に対して特許権者は知財高裁に決定取消訴訟の提起可能(被告は特許庁長官) | 棄却審決に対しては無効審判請求人、無効審決に対しては特許権者がそれぞれ知財高裁に審決取消訴訟の提起可能(前者の場合は特許権者が被告、後者の場合は無効審判請求人が被告) |
特許庁での審理の結論が確定したときの効果 | 特許維持決定:特許権は維持される 特許取消決定:特許権は最初から成立しなかったものとして取り扱われる | 棄却審決:特許権は維持される。棄却審決確定を受けた無効審判請求人は同一の無効理由で再度の特許無効審判を請求できない(一事不再理効) 無効審決:特許権は最初から成立しなかったものとして取り扱われる。後発的無効理由の場合は後発的無効理由に該当した時から消滅 |
特許庁が公表しているデータによれば、毎年約18万件程度の特許権が成立し、特許掲載公報発行後の6カ月間に限って提出が認められている特許異議申立の件数は年間1000件を超えています。
特許無効審判は特許成立後何年経過してからでも請求可能なことを考えますと、特許無効審判請求件数は決して多くありません。
いたずらに紛争を発生させるのは望ましくありませんから、他社の特許権を発見した場合、特許権侵害にならないように技術的に回避する道を探る、技術的に回避できないならば実施許諾を申し込む等の対応を採るのが望ましいとされています。
特許権者から特許権侵害訴訟の提起を受けた際に、その侵害訴訟における対抗策の一つとして裁判所において「無効の抗弁」(特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから、原告である特許権者は、被告に対して権利行使することができない。
特許法第104条の3)を行い、その一方で、特許庁において特許無効審判を請求するというのが一般的です。
特許無効審判請求は、このように、特許権者との間における具体的な紛争の場面で活用されることが多いものですので慎重な対応が必要で専門家である弁理士によく相談されるようお勧めします。
<次号のご案内>
次号では、特許出願の審査において、特許請求している発明の中の一部について拒絶理由を受け、残りの部分について「拒絶の理由を発見しない」という指摘を受けた場合に分割出願を行って対応する事例について紹介します。
■ニューストピックス■
・スタートアップをめぐる取引の実態調査の結果公表(公取委)
公正取引委員会は、スタートアップを巡る取引に関する実態調査の結果を公表しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
未上場のスタートアップ及び事業連携企業、出資企業を対象に行った調査の結果、スタートアップに対する営業秘密の開示要請や知財ライセンスの無償提供など、独占禁止法上問題となる不利益行為の事例が多数報告されました。
調査結果によると、秘密保持契約(NDA)を結ばずに営業秘密の開示を要請していた事例、共同研究の成果にもかかわらず、スタートアップの知的財産を一方的に自社のものにした事例、契約で定めていないのに無償での作業を要請していた事例などが報告されました。
また、「秘密保持契約に反して営業秘密を盗まれ、競合商品・サービスを販売された」「PoC(技術検証)の成果ややり直しに対する報酬が払われなかった」などの事例も報告されました。
公取委は取引実態に関する情報収集を進め、スタートアップとの取引で独占禁止法違反に該当する事案については厳正に対処する方針です。
・商標の「コンセント制度」を導入へ(特許庁)
特許庁は、商標の「コンセント制度」の導入に向けて検討を進めています。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
「コンセント(Consent:同意)制度」とは、他人の登録商標と同一又は類似の商標が出願された場合であっても、その登録商標の権利者による同意があれば、その出願された商標を登録し、同一又は類似の商標の併存登録を認める制度です。
米国や欧州など多くの国・地域で導入されていますが、日本では、当事者間で合意がされただけでは、併存する商標について需要者が商品又は役務の出所について誤認・混同するおそれが排除できないとして、導入されていません。
このため、特許庁では、「コンセント制度」の導入に際しては、先行登録商標の権利者の同意があってもなお出所混同のおそれがある場合には登録を認めない「留保型コンセント」を想定しています。
具体的には、登録時の審査で先行登録商標の権利者による同意及び出所の混同が生じないことを説明する資料に基づき、出所混同のおそれの有無を実質的に審査して登録の可否を判断するとしています。
また、登録後は、一方の権利者による使用の結果、他方の権利者の業務上の利益が害されるおそれがある場合、混同防止表示の請求を可能にして、当事者のいずれかが不正競争目的で使用し、現実に出所混同が生じている場合には、取消審判の請求を可能とする規定を設ける方針です。
・改正意匠法に基づく新たな保護対象の意匠登録の出願動向
特許庁は、2020年4月1日に新たに保護対象となった意匠の出願・登録状況について、令和元年意匠法改正特設サイトで公表しました。
<新たに保護対象となった意匠の出願・登録状況>
・出願件数(2023年1月4日時点で取得可能なもののみ)画像3,702件、建築物970件、内装716件。
・登録件数(2023年1月4日時点で取得可能なもののみ)画像1,989件、建築物594件、内装375件。
詳細は特許庁HP
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
・特許庁関係手続における主な法令改正 早わかり一覧
特許庁はパンフレット「特許庁関係手続における主な法令改正 早わかり一覧」を公表しています。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
このパンフレットは、コロナ禍によって近年、特許庁の手続の多くが改正されたり、料金(印紙代等)が変更されましたので、それらの主な改正点をまとめたものです。
最新の法令改正(押印見直し、登記事項証明書の添付省略、料金改定等)についてわかりやすく紹介しています。国内出願における主要な問い合わせ先一覧も掲載していますので、チェックしてみてください。
<編集後記>
経済産業調査会発行「特許ニュース」1月10日号の「日本弁理士会著作権委員会研究レポート」というコーナーに、当職執筆の記事が掲載されました。ビジネスソフトの表示画面の著作物性等が争われた事例を紹介しています。
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発行元 藤川IP特許事務所
弁理士 藤川敬知
〒468-0026 名古屋市天白区土原4-157
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