藤川IP特許事務所メールマガジン 2024年8月号
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◇◆◇ 藤川IP特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
2024年8月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
┃
┃ ☆知財講座☆
┃(31)発明に利用されている自然法則とは
┃
┃ ☆ニューストピックス☆
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┃■J-PlatPatにおける特許文献アクセス状況(INPIT)
┃ ■生成AI関連の特許出願件数、中国が1位(WIPO)
┃ ■研究開発費を増額した企業は49.2%(文部科学省調査)
┃ ■「ひこにゃん」の商標使用を無償化(滋賀県彦根市)
┃ ■「令和6年度著作権テキスト」を公開(文化庁)
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工業所有権情報・研修館(INPIT)は、令和5年度の特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)における特許文献へのアクセス状況を取りまとめました。
J-PlatPatのアクセス状況を公表することはINPITにとって初の取組みということです。
「注目される特許や技術のトレンドの把握に活用されるとともに、知財が身近でない方の産業財産権情報への関心の拡大を図ること」が公表の狙いの一つにあるとされています。
今号では、INPITが公表したJ-PlatPatにおける特許文献へのアクセス状況を取り上げます。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(31)発明に利用されている自然法則とは
【質問】
特許取得を希望する発明がどのようなメカニズム・機序によって発明の目的を達成できているのかを解明してからでないと特許出願を行うことができないのでしょうか?
【回答】
特許法において発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの」と定義されています(特許法第2条第1項)。
そこで、完成させた発明がどのようなメカニズム・機序によって発明の目的を達成できているのかという、発明に利用されている自然法則を解明、認識するまで特許出願することはできないのではないか?というご質問になったものと思います。
回答は、「自然法則を解明、認識していなくても特許出願はできます。」です。
今回は、この点について説明します。
<特許法上の「発明」の定義における「自然法則」>
特許法第2条第1項の発明の定義における「自然法則」とは、自然界において経験によって見出された法則であるとされています。
例えば、水は高い所から低い所へ流れる、丸太は水に浮かぶ、というようなものです。
ニュートンの運動の法則、等、自然科学上、○○法則といわれているものは、当然、発明の定義における「自然法則」にあたります。
このようなものに限られず、自然界において、経験上、所定の原因によって、所定の結果が生じると認識されている上述したような経験則も、発明の定義における「自然法則」に含まれます。
<特許法上の「発明」の定義における「自然法則の利用」>
特許法では、発明を「自然法則を利用した・・・」と定義していることから自然法則そのものは特許法上の発明ではなく、自然法則を利用したものが初めて特許法上の発明になります。
例えば、水車は、「水は高い所から低い所へ流れる」という自然法則を利用した発明になります。また、丸太を結束して構成した筏(イカダ)は、「丸太は水に浮かぶ」という自然法則を利用した発明になります。
<「自然法則の利用」がなぜ要求されるのか?>
「この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする。」(特許法第1条)という法目的から、特許法で保護する発明には、実施可能性があり、常に、ある程度の確実性をもって同一の結果が反復され、発明者・特許出願人以外の第三者であっても、同じように、実現・再現できるものであることが要求されます。
これらの要請に応えることができなければ、産業の発達という法目的を達成できません。
この点、自然法則が利用されているならば、原因と結果との間には必ず因果関係が存在していますから、実施可能で、常に、ある程度の確実性をもって同一の結果が反復され、発明者・特許出願人以外の第三者であっても、同じように、実現・再現することができます。
<どの程度の再現確実性が要求されるか>
「自然法則の利用」という観点から、「常に、ある程度の確実性をもって同一の結果が反復され」ることが要求される、といっても、100%の確実性が、常に、要求されるわけではありません。
発明が開拓的、基本的なものである場合には、確実性、成功率は低いのが一般的であると考えられています。例えば、世界的発明とされている御木本幸吉氏の真珠養殖法の発明(特許第2670号(明治27年))では、当初、その成功率は1~2%程度(300個のうち数個のみ)であったといわれています。
確実性、成功率が低くても、特定の手段を採用することで、必ず、目的としている効果を現実に達成することができるならば、このような因果関係をもたらす自然法則の利用がなされているわけですから、特許法上の発明になります。
<自然法則を解明、認識してからでなければ特許出願できないか?>
研究活動において発明の根本になっている自然法則を解明し、認識することは非常に重要です。
しかし、特許の世界では、自然法則を利用しているがゆえに、実施可能で、常に、ある程度の確実性をもって同一の結果が反復され、発明者・特許出願人以外の第三者であっても、同じように、実現・再現できるものであれば十分です。
そこで、完成した発明に利用されている自然法則を解明、認識することまでは要求されません。特定の手段を採用することで、必ず、目的としている効果を現実に達成することができる、と、発明者が経験上認識できたもので十分です。
どのような理論によってこれが実現されているのかを発明者が解明、認識することなしに特許出願することが可能なのです。
<特定手段の採用で目的達成できる実施例が必要>
完成した発明に利用されている自然法則を解明、認識することまでは要求されませんが、実施可能で、常に、ある程度の確実性をもって同一の結果が反復され、発明者・特許出願人以外の第三者であっても、同じように、実現・再現できるためには、特許出願の際に発明を説明するべく提出する明細書に、特定の手段を採用することで発明の目的を達成できることを示す実施例を記載する必要があります。
特許請求している発明の実施可能性、実現可能性を立証する責任は発明者・特許出願人にあります。
そこで、明細書に実施例、等を記載していない、等の事情により、特許請求されている発明に採用されている手段によって発明の目的を達成できるのか不明の場合には、特許請求している発明が自然法則を利用したものであるかどうか等についての検討・判断を受けることなく、拒絶され、特許成立しないことがあり得ます。
例えば、実施可能要件違反(特許法第36条第4項第1号 明細書は経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていなければならない。)、サポート要件違反(特許法第36条第6項第1号 特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明細書に記載したものでなければならない。)等、明細書の記載要件が具備されていないとして拒絶されることがあります。
<特許出願後であっても自然法則の解明を目指すことが望ましい>
発明がどのような機序・メカニズムによって成り立っているのかを解明、認識することなしに特許出願することは可能です。
この場合、特定の手段を採用することで、必ず、目的としている効果を現実に達成することができる、という発明者の認識が完全でなくても発明は成立し、特許出願して特許取得することが可能ということになります。
ところが、利用している自然法則についての発明者の認識が完全でない場合、特許請求すべき発明の範囲を正確に認識できていない状態で特許出願することが起こります。
例えば、目的とする技術的課題を解決するためには「構成要件Aと、構成要件Bと、構成要件Cとを備えていることが必須だ」と発明者が認識した場合、「構成要件Aと、構成要件Bと、構成要件Cとを備えている発明X。」として特許出願し、特許取得することになります。
ところが、目的とする技術的課題を解決するためには「構成要件Aと構成要件B」だけが備わっていれば十分で、「構成要件C」は付属的で、無くてもよいものであった、ということが、発明の機序・メカニズムを把握せずに特許出願していた場合には起こり得ます。
このような場合、たとえ特許成立しても、第三者が、「構成要件C」を採用せずに「構成要件Aと構成要件B」だけで実施していれば特許権侵害になりません。
また、上述したように、実施例が必要だということで、実験を行い、実験で確認できた、例えば、「120℃~150℃の温度範囲で加熱する」ことを必須の構成にして特許出願し、特許権取得したが、その後、「150℃~170℃の温度範囲で加熱」しても同一の目的を達成できることが判明することがあります。
このような場合、「160℃~170℃の温度範囲で加熱」して同一の目的を達成している第三者を特許権侵害であるとして排除することはできません。
そこで、上述したように、発明がどのような機序・メカニズムによって成り立っているのかを解明、認識することなしに特許出願することは可能ですが、そのような場合には、自然法則の解明を目指す研究、検討を特許出願後も続けることが望ましいです。
特許出願後も継続していた研究、検討によって、最初の特許出願から一年以内に、より適切な発明の技術的範囲を把握できたならば、新たに特許出願を行う、あるいは、最初の特許出願に基づく優先権を主張した特許出願を行う、等により、より適切な技術的範囲での特許取得が可能になることがあります。
詳しくは、専門家である弁理士にご相談ください。
■ニューストピックス■
●「J-PlatPat」における特許文献アクセス状況を公表(INPIT)
工業所有権情報・研修館(INPIT)は、令和5年度の特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)における特許文献へのアクセス状況を取りまとめました。
J-PlatPat のアクセス状況の公表は初の取り組みで、注目される特許や技術のトレンドの把握に活用することができるとされています。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
J-PlatPatにおける特許文献へのアクセス数は、特許文献に記載されている技術自体やビジネス上の注目度等、社会的な関心を示唆する一つの指標と言えます。
今回、INPITでは、特許文献へのアクセス状況について、「登録特許アクセスランキング」「出願年分布」「テーマコード上位10テーマ」「FI(サブクラス)上位10分類」「FI(メイングループ)上位10分類」の観点でまとめました。
令和5年度分のアクセス状況の登録特許ランキングによると、1位となったのは、コナミデジタルエンタテインメントの「ゲーム管理装置及びプログラム」(特許5814300)。
2位はコクヨの「消しゴム」(特許4304926)。
このほか、デジタルスポーツで使われる「スポーツ交戦装置」(特許6062592)、切り餅の特許権をめぐって裁判で争われた越後製菓の「餅」(特許4111382)などが上位に入っています。
<登録特許アクセスランキング>
1位 ゲーム管理装置及びプログラム 株式会社コナミデジタルエンタテインメント
2位 消しゴム コクヨ株式会社
3位 スポーツ交戦装置 本村 隆昌
4位 音と光を同時に発する無電源型発光装置 独立行政法人産業 技術総合研究所
5位 車両用タイヤのトレッド部 山田 みゆき
6位 抗ウイルス及び他の効果を有するウエアラブル光線治療器 ソールエトルーナ ホールディングス,インコーポレーテッド
7位 ジエステル及び油剤、並びに化粧料及び皮膚外用剤 日本精化株式会社
8位 餅 越後製菓株式会社
9位 冷菓及びその製造方法 株式会社ロッテ
10位 履物 岸原工業株式会社
●生成AI関連の特許出願、中国が1位(WIPO)
世界知的所有権機関(WIPO)は、「生成AI(人工知能)に関する特許動向報告書」を発表しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
それによると、2014-23年の10年間の世界の生成AI関連の特許出願件数は5万4000件に達しています。
国別の特許出願件数をみると、中国が3万8210件で1位、2位は米国の6276件、3位は韓国の4155件、4位は日本の3409件でした。5位はインドの1350件で、対前年比56%増と高い伸び率を記録しました。
中国の出願件数は、米国の約6倍に上り、世界全体の約7割を占めています。
生成AIに関する特許は急増しており、2014年の出願件数は733件でしたが、23年には1万4000件超となり、この1年だけで全体(2014-23年)の25%以上を占めています。
企業別では、IT大手の騰訊控股(テンセント)、保険大手の中国平安保険集団、インターネット検索大手の百度(バイドゥ)と中国系がトップ3を独占しました。
米国のIBMが5位、韓国のサムスン電子が7位、日本はNTTが13位、ソニーグループが20位でした。
●研究開発費を増額した企業は 49.2%(文部科学省調査)
文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、「民間企業の研究活動に関する調査」の2023年度調査結果を取りまとめました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
2022 年度及び 2023 年度における研究開発費の増減(いずれも前年度と比較した増減)をみると、社内研究開発費を前年度より増額したと回答した割合が 49.2%と最も多く、減額した割合(33.7%)や前年度と同額とした割合(17.2%)を上回っています。
また、2023年度の予定や方針についても、前年度よりも増額すると回答した割合(34.1%)が最も高いことが分かりました。
また、新卒の研究開発者を採用した企業の割合は2022年度に42.0%であり、2年連続で減少。新卒の博士課程修了者の採用は4年連続で減少していましたが、2022年度は増加に転じました。採用時に修士号取得者を優遇する企業の割合は58.8%、博士号取得者を優遇する企業の割合は37.7%でした。
また、研究開発者としての就業体験に関するインターンシップを実施する企業の割合は、大学学部等、大学院修士課程、博士課程のうち、大学学部等の 32.3%が最多でした。
●「ひこにゃん」の商標使用を10月から無償化(滋賀県彦根市)
滋賀県彦根市は、人気キャラクター「ひこにゃん」の商標使用を本年10月1日から無償化すると発表しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
(商標登録第5104692号)
彦根市は「ひこにゃん」について、これまでイラストや写真を商品などに使用する場合、販売業者から使用許諾料として売り上げ見込み額の3%を徴収していましたが、さらなる商標使用の拡大と新規商品の発掘を図るため、商標使用料の無償化を図る実証実験を行いました。
その結果、有償を継続した場合と比較して、新規契約件数が326件(1.41倍)、販売予定総額が4億1741万円(1.52倍)増加したとの報告が得られ、彦根市および「ひこにゃん」のブランディングの観点からも、商標使用を無償化した方が新たな商品開発の拡大や、地域経済への波及効果が期待できると判断しました。
使用できるデザインは全部で45種類で、無償化の場合も使用には手続きが必要となります。
●「令和6年度著作権テキスト」を公開(文化庁)
文化庁は「令和6年度著作権テキスト」を公開しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
同テキストは、著作権の基本的な情報のほか、著作物を創作した場合の注意点、他人の著作物を利用したい場合、相談窓口一覧など、著作権に関する情報が網羅的に掲載されています。
また、近年の著作権法改正についても、わかりやすく解説しています。
<令和5年改正>
・著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設(未管理著作物裁定制度)
・行政手続等に係る権利制限規定の整備
・損害賠償額算定方法の見直し
<令和4年改正>
・裁判手続に係る権利制限規定の整備
<令和3年改正>
・図書館関係の権利制限規定の見直し
・放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化
<編集後記>
連日の猛暑の折、くれぐれもご自愛のほどお祈り申し上げます。
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