藤川IP特許事務所メールマガジン 2024年9月号
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◇◆◇ 藤川IP特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
2024年9月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
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┃ ☆知財講座☆
┃ (32)「数値限定発明」は強い特許といえるか?
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┃ ☆ニューストピックス☆
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┃ ■中小企業の特許出願件数が増加(特許行政年次報告書2024年版)
┃ ■知財取引ガイドラインを改正へ(中小企業庁)
┃ ■9月1日からPCT国際出願関係手数料が改定
┃ ◆PCT国際出願料金の支援制度
┃ ■東宝とバンダイナムコがキャラクターなど共同開発
┃ ■知財活動に取り組む中小企業の事例集を公開(特許庁)
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特許庁は、知的財産をめぐる国内外の動向などを取りまとめた「特許行政年次報告書2024年版」を公表しました。
報告書によると、中小企業の特許出願が、2009年の統計以降、初の年間4万件を超えました。これは中小経営においても知的財産戦略が重視されている状況を示すものといえます。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(32)「数値限定発明」は強い特許といえるか?
【質問】
特許請求している発明は、実施例で行った実験で確認できた数値に基づいて範囲を特定しているものです。
このような数値範囲で限定されている発明が、いわゆる『強い特許』だと考えてよいのでしょうか?
【回答】
研究論文などでは実験データ等の数値を具体的に示すことが信頼を得る上で必要です。
ところが、特許権で保護される発明は技術的思想の創作ですから、抽象的で概念的なものです。
そこで、数値で裏付けられている発明が必ずしも「強い特許」と評価されるわけではありません。
<発明は技術的思想の創作>
学会などで発表される研究論文などでは、研究成果を裏付ける数値(例えば、大きさ、温度、濃度、圧力などについての数値データ)を具体的に示すことが評価を高め、信頼を得る上で重要です。
特許出願でも実験によって得られた数値による裏付けは、特許請求している発明に特許が認められるための条件を構成する実施可能要件(特許請求されている発明が当業者によって再現できる程度に十分に明細書に記載されていなければならない)や、サポート要件(特許請求している発明は明細書の記載に支えられていなければならない)を充足する上で重要です。
しかし、数値によって発明を特定すること、すなわち、特許請求する発明を数値限定によって特定することで、特許権の効力が及ぶ範囲が狭くなることがありますので、これを理解しておく必要があります。
例えば、「加熱温度60℃~70℃で加熱する」等の記載によって特許発明が特定されている場合、第三者が特許発明に係る技術を55℃での加熱によって実施しているならば特許権侵害になりません。特許法で保護される発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作」です。“技術的思想”は、所定の目的を達成するための自然法則を利用した具体的な手段である点で“技術”と一致しています。
しかし、“技術”は産業上実際にそのまま利用することができる具体的手段そのものであるのに対して、“技術的思想”は、そのような段階にまで達していない、より抽象的、概念的な、思想(すなわち、抽象的な観念(idea)又は概念(concept))としての手段である点で“技術”と相違しています。
この“技術的思想”に関して特許法概説(第13版)(吉藤幸朔著、熊谷健一補訂(株)有斐閣)では、「発明の本質はその形体の内に存在する無形の観念である。」、「底辺を共通にし一定の高さを有する三角形を思想であると仮定すれば、この思想のもとで形状を異にする多くの三角形を画くことができるが、これらは、思想の形体であるということができる。(竹内賀久治 特許法〔昭13 巌松堂〕)」という説明が行われています。
特許出願では、試験・実験などの検討によって得られた多数のデータに基づいて、普遍的な技術的思想を発明として導き出し、それを特許請求することで、より効力範囲が広い特許権取得を目指します。同業他社の実施行為を特許権侵害であるとして排除できる特許権の効力がより広い範囲で特許取得することが求められますので、数値で裏付けられている発明が必ずしも「強い特許」と評価されるわけではありません。
<実験データに基づいて特許請求する場合の注意>
発明は技術的思想の創作ですから、具体的データに基づいて普遍的な技術的思想を導き出して、より上位の発明概念で特許請求することが望ましいですが、より上位の発明概念で審査を受けるほど先行技術文献の存在を指摘されて進歩性欠如の拒絶理由を受ける可能性が大きくなります。
そこで、「特許請求の範囲」に記載されている請求項で特許請求する発明を、実験例、実施例などで確認できた数値を用いる数値限定で特定したり、請求項1では数値を用いていないより上位の発明概念で特許請求し、請求項1を引用している請求項2などの下位概念の発明を数値限定で特定することがよくあります。例えば、「加熱温度60℃~70℃で加熱する」等の数値限定によって発明を特定することです。
このような場合、数値限定の臨界的意義※が、明細書に記載されている実験例、実施例によって十分に立証されているならば、この数値限定があることによって、拒絶理由に引用された先行技術文献記載の発明との差異を明確にして新規性・進歩性の存在を主張する上で有利になります。※上述の例でいえば、「加熱温度60℃~70℃」の範囲内での複数の実験例・実施例と、この範囲以外での比較例とによって、「60℃~70℃」の範囲での加熱と、この範囲以外の60℃未満や70℃を越える範囲での加熱とでは発明の目的達成に有意の差が生じることを立証することで「60℃~70℃」という数値限定の範囲に臨界的意義があることを立証できます。
特許請求する発明を数値限定で特定する場合には、その数値限定に臨界的意義が存在することを立証できるための実験・検討、データ取りが重要になります。
<数値限定を用いて発明が特定されている場合の審査>
数値限定を用いて発明が特定されている場合の新規性・進歩性の判断に関して、特許庁が公表している特許審査基準では「特定の表現を有する請求項等についての取扱い」の項で以下の説明がされています。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
「数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合」
請求項に係る発明の認定
請求項に数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合も、通常の場合と同様に請求項に係る発明を認定する(「第 3 節新規性・進歩性の審査の進め方」の 2.参照)。
進歩性の判断
請求項に数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合において、主引用発明との相違点がその数値限定のみにあるときは、通常、その請求項に係る発明は進歩性を有していない。実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは、通常、当業者の通常の創作能力の発揮といえるからである。
しかし、請求項に係る発明の引用発明と比較した効果が以下の(i)から(iii)までの全てを満たす場合は、審査官は、そのような数値限定の発明が進歩性を有していると判断する。
(i)その効果が限定された数値の範囲内において奏され、引用発明の示された証拠に開示されていない有利なものであること。
(ii)その効果が引用発明が有する効果とは異質なもの、又は同質であるが際だって優れたものであること(すなわち、有利な効果が顕著性を有していること。)。
(iii) その効果が出願時の技術水準から当業者が予測できたものでないこと。なお、有利な効果が顕著性を有しているといえるためには、数値範囲内の全ての部分で顕著性があるといえなければならない。
また、請求項に係る発明と主引用発明との相違が数値限定の有無のみで、課題が共通する場合は、いわゆる数値限定の臨界的意義として、有利な効果の顕著性が認められるためには、その数値限定の内と外のそれぞれの効果について、量的に顕著な差異がなければならない。
他方、両者の相違が数値限定の有無のみで、課題が異なり、有利な効果が異質である場合には、数値限定に臨界的意義があることは求められない。
■ニューストピックス■
●中小企業の特許出願件数が増加(特許行政年次報告書2024年版)
特許庁は、知的財産をめぐる国内外の動向などを取りまとめた「特許行政年次報告書2024年版」を公表しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
報告書によると、日本国特許庁への特許出願件数は、2020年以降、横ばい傾向でしたが、2023年は前年比3.6%増の300,133件となりました。意匠登録出願件数は31,747件、商標登録出願件数は164,061件でした。日本国特許庁を受理官庁とした特許協力条約に基づく国際出願(PCT国際出願)の件数は、2023年は47,372件となり、依然として高い水準を維持しています。
また、国内中小企業の特許出願件数をみると、2023年は前年比約1.4%増の40,221件となり、09年の統計以降、初めて年間4万件を超えました。これは、特許などの知的財産を経営戦略上の重要な経営資源として位置づけ、積極的に活用している中小企業が増えている状況を示すものといえます。
一方、全体の特許出願件数のうち、大企業と中小企業の割合は、大企業が82.4%、中小企業が17.6%となっています。中小企業庁発行の「中小企業白書2024」によると、2021年の日本の全企業数約338万社における大企業と中小企業の割合は、99.7%は中小企業で、大企業はわずかに0.3%です。企業数0.3%の大企業が、8割以上の特許を出願しているのが現状です。
●「知財取引ガイドライン」を改正へ(中小企業庁)
中小企業庁は、大企業が知的財産権上の責任を、中小企業に一方的に転嫁する行為(責任転嫁行為)を防止するため、「知的財産取引に関するガイドライン」を改正する方針です。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
中小企業庁では、「知的財産取引に関するガイドライン」を策定するとともに、知財Gメンによるヒアリング調査を実施していますが、このほど、知財Gメンによる調査の中で、発注者への納品物について、第三者との間に知財権上の紛争が発生した場合に、発注者が例外なく受注側の中小企業にその責任を転嫁できる可能性のある契約が締結されている事案を確認しました。
中小企業庁は、対象となる発注者に対し、契約条項の見直し等を要請したうえで、他の事業者間においても類似の契約が発生し得ることを踏まえ、現行のガイドライン及び契約書ひな形を改正する方針です。中小企業庁は、第三者の知財を侵害した場合、発注者から中小企業への「指示」は、口頭での指示や情報提供のような正式な書面によらない形式でも、発注側の責任を問えるよう、ガイドラインを改正する方針です。
●9月1日からPCT国際出願関係手数料が改定
2024年9月1日から、国際出願関係手数料が改定されます。2024年9月以降に本手数料の納付をする場合は、手数料の額及び適用関係に注意する必要があります。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
<PCT国際出願料金の支援制度>
2024年1月1日以降にされたPCT国際出願・国際予備審査請求から、中小企業については、手数料が一括して軽減されるようになっています。2023年12月31日まで実施されていた料金支援制度の手続が簡素化されました。支援措置を受けるための要件及び料金負担割合には変更ありません。
2023年12月31日以前の日本語の国際出願に係る国際出願手数料、国際予備審査請求に係る取扱手数料については、中小企業は、国際出願促進交付金制度が利用できました。2024年1月1日以降は、同制度が廃止され、同日以降に行う国際出願、国際予備審査請求については、従来の国際出願促進交付金申請手続を行うことなしに、手続時に国際出願手数料又は取扱手数料の金額の1/2,1/3又は1/4に相当する金額を納付することでよくなっています。制度の詳細は特許庁HPをご参照ください。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
●東宝とバンダイナムコが新キャラクターなど共同開発
東宝は、バンダイナムコホールディングス(HD)と資本業務提携したと発表しました。両社で新たなキャラクターやコンテンツといった知的財産(IP)を共同開発し、国内外で展開する方針です。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
東宝は映画「ゴジラ」をはじめとした世界的なIPを保有し、映像作品の制作に強みがあります。一方、バンダイナムコHDは玩具やゲームなどを通じ、フィギュアやゲームなど、IPを活用した商品やサービスの展開を得意とし、国内外に販売拠点を持っています。
両社は互いの強みを生かし、既存のキャラクターから派生した商品展開ではなく、オリジナルのIPを共同開発する方針です。東宝はバンダイナムコHDの発行済み株式総数の0.13%にあたる83万株、バンダイナムコHDも東宝の同0.25%にあたる46万株をそれぞれ取得しました。
●知的財産活動に取り組む中小企業の事例集を公開(特許庁)
特許庁は、知財活動に取り組む中小企業を紹介する「知財活動事例集~中小企業の舞台裏~」を公開しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
事例集では、知財活動を「知財創出の仕組み」「見える化」「権利化」「侵害対策」「海外展開」など14種類に分類し、それぞれの事例を紹介しています。
業種や活動内容など多様な全国14社の中小企業について、その背景や考え方を紹介。また、特許や商標の権利化だけでなく、見逃しがちな自社の強みを発見・整理し、それを最適な手段で守り、事業活動に活用していく視点でも、まとめられています。
<編集後記>
【今月の一冊】『戦略的「知財経営」の羅針盤(現代書林)』
知財評価の重要性について事例を交えて説いています。
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発行元 藤川IP特許事務所
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