藤川IP特許事務所メールマガジン 2025年3月号
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◇◆◇ 藤川IP特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
2025年3月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
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┃ ☆知財講座☆
┃ (38)発明の単一性(1)
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┃ ☆ニューストピックス☆
┃
┃ ■「ビジネス関連発明」の最近の動向を公表(特許庁)
┃ ■「AIが発明者」二審も認めず(知財高裁)
┃ ■棋譜を再現した即時配信は「違法」(大阪高裁
┃ ■第1回「知財・無形資産ガバナンス表彰」、味の素など5社
┃ ■特許技術でつくる!?「驚き本格チャーハンレシピ」(特許庁)
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特許庁は、「ビジネス関連発明の最近の動向について」の調査結果を公表しました。
近年、ICT(情報通信技術)を用いて実現された「ビジネス関連発明」の特許出願件数は増加しており、特に「経営・管理」分野や一般サービス業で大幅な増加傾向が見られます。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(38)発明の単一性(1)
【質問】
一件の特許出願では一つの発明しか特許請求できないのでしょうか?
【回答】
一件の特許出願で複数の発明を特許請求することが可能です。しかし、どのような関係にある発明でも一件の特許出願の中に含めることができるというものではありません。複数の発明がどのような関係にあれば一件の特許出願の中に含めることができるのかは特許法第37条に「発明の単一性」として規定されています。
今号では「発明の単一性」の内容を説明し、次号で、「発明の単一性」といわゆる「シフト補正禁止」の規定との間で注意が必要な事項、特許審査基準で例示されている複数発明の間に「発明の単一性」が認められる場合を紹介します。
<一出願に複数発明を含めることができる趣旨>
技術的に所定の関係を有する複数の発明について、一発明ごとに一件ずつ特許出願して審査を受け、一件ずつ特許成立させることが可能です。
しかし、特許出願人にしてみれば、別々に複数の特許出願を行い、複数の特許権を成立させて管理するよりも、技術的に所定の関係を有する複数の発明について一件の特許出願で審査を受け、一件の特許権で管理する方が簡便です。
また、特許出願人以外の第三者にとっては、技術的に所定の関係を有する複数の発明が一件の特許出願にまとめられている方が発明情報の入手を効率的に行う上で有利で、特許情報の利用や権利の取引が容易になることが考えられます。
更に、特許庁にとっては、技術的に所定の関係を有する複数の発明が一件の特許出願の中で特許請求されていれば、一件の特許出願の審査で複数の発明についての審査を行うことができ、効率的に審査を行うことができると考えられます。
このような考え方の下、特許法では、一つの特許出願に複数の発明を包含して特許請求することを許容し、その一方で、一つの特許出願に包含されることが許容される範囲を「発明の単一性」として特許法第37条に規定しています。
一つの特許出願に複数の発明を包含することを許容し、その一方で、一つの特許出願に包含されることが許容される範囲を法律や規則などで規定する取り扱いは、特許協力条約(Patent CooperationTreaty、PCT))や主要国の特許制度でも採用されています。
<特許法第37条「発明の単一性」>
日本の特許法では第37条に「発明の単一性」として次のように規定されています。
(特許法第37条)
二以上の発明については、経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときは、一の願書で特許出願をすることができる。
「経済産業省令で定める技術的関係」は、特許法施行規則第25条の8 に次のように規定されています。
(特許法施行規則第25条の8)
第1項
特許法第37条の経済産業省令で定める技術的関係とは、二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより、これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係をいう。
第2項
前項に規定する特別な技術的特徴とは、発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴をいう。
第3項
第1項に規定する技術的関係については、二以上の発明が別個の請求項に記載されているか単一の請求項に択一的な形式によって記載されているかどうかにかかわらず、その有無を判断するものとする。
<特許法第37条違反は拒絶理由であるが異議申立・無効理由ではない>
「発明の単一性」の要件を満たさない二以上の発明を含む特許出願であっても、各発明が新規性、進歩性、等の特許要件を備えていて、分割出願を行ってそれぞれ審査を受ければ特許成立するものであるならば、「発明の単一性の要件を満たさない二以上の発明について異なる特許出願とすべきであった」という手続上の不備が存在するだけです。
そこで、特許法第 37 条に規定されている「発明の単一性」要件を満たさない特許出願がそのまま特許査定され、特許権成立することは、直接的に第三者の利益を著しく害することになりません。
このため、特許法第 37 条の「発明の単一性」要件は、拒絶理由にはなりますが、特許異議申立理由、特許無効理由にはなっていません。
特許審査基準では、この点を考慮して「審査官は、特許法第 37条の『発明の単一性』要件の判断を必要以上に厳格にすることがないように留意する」とされています。
<複数の発明がどのような関係にあれば「発明の単一性」を満たすのか>
審査を受けている特許出願が「発明の単一性」の要件を満たしているかどうかについては、特許請求の範囲に記載された二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有しているか否かによって判断されることになっています(特許法施行規則第25条の8第1項、特許審査基準)。
例えば、特許請求の範囲に請求項1と、請求項2という2個の発明が記載されている場合、請求項1記載の発明の「技術的特徴」と、請求項2記載の発明の「技術的特徴」とが、「同一の又は対応する特別な技術的特徴」という関係にあるかどうかが特許庁の審査で検討されます。
「特別な技術的特徴」
「特別な技術的特徴」とは、先行技術に対する、審査を受けている発明の貢献を、明示する技術的特徴のことである、とされています(特許法施行規則第25条の8第2項)。
ここで「先行技術」は、審査を受けている特許出願の出願時に既に公開されていた発明(特許出願の際に既に公に知られていた発明、公に用いられていた発明、特許出願公開公報・特許公報・論文・業界紙誌などの刊行物に掲載されていた発明、インターネットなどで公知になっていた発明、等、特許法第29条第1項各号に該当する発明)のことです。
また、「(審査を受けている)発明の貢献」とは、「先行技術との対比において発明が有する技術上の意義」であるとされています。
<請求項2発明は請求項1発明と「技術的特徴」を共通にしている場合が多い>
請求項1、請求項2のように、特許請求の範囲に複数の発明を記載して審査を受ける場合、請求項2は請求項1を引用する従属請求項にするのが一般的です。「2022年度知的財産権制度入門テキスト 特許制度の概要 特許権の効力」の項で紹介されている事例を参照すると、例えば、次のような記載ぶりです。
請求項1:断面が六角形の木製の軸を有し、当該軸の表面に塗料が塗られている鉛筆。
請求項2:前記軸の一方の端に消しゴムが付いている請求項1記載の鉛筆。
この場合、請求項1記載の発明と請求項2記載の発明との間における「同一の又は対応する」技術的特徴は「断面が六角形の木製の軸で、軸の表面に塗料が塗られている、鉛筆」ということになります。
<2つの発明に共通している「技術的特徴」が「特別な技術的特徴」になる場合>
上述した「断面が六角形の木製の軸で、軸の表面に塗料が塗られている、鉛筆」という技術的特徴が、特許法第29条第1項各号に該当する発明(先行技術)と対比した時に、技術上の意義を有する、と判断できる場合、請求項1記載の発明と請求項2記載の発明との間における「同一の又は対応する」技術的特徴は、「同一の又は対応する特別な技術的特徴」ということになり、特許請求の範囲に上述した請求項1、2が記載されている特許出願は「発明の単一性」(特許法第37条)を満たしている、ということになります。
<先行技術との対比において発明が有する「技術上の意義」>
特許審査基準では、「発明の単一性」を検討・判断する2つの発明の間において「特別な技術的特徴」であると考えるべきものが、以下の(i)~(iii)のいずれかに該当する場合、これは「発明の先行技術に対する貢献をもたらすものでない」と判断されることになる、としています。
(i)「特別な技術的特徴」とされたものが先行技術の中に発見された場合
(ii)「特別な技術的特徴」とされたものが一の先行技術に対する周知技術、 慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではない場合
(iii)「特別な技術的特徴」とされたものが一の先行技術に対する単なる設計変更であった場合
上述の(i)は審査を受けている発明が新規性を有していない場合、(ii)、 (iii)は審査を受けている発明が進歩性を有していない場合と考えることができます。
そこで、従来技術と比較した時に新規性が欠如している発明、進歩性が欠如している発明は、先行技術との対比において「技術上の意義」を有していない発明であると判断されるのではないかと思われます。
<審査を受けている複数の発明が新規性・進歩性欠如である場合>
審査を受けている複数の発明が、いずれも、新規性欠如や、進歩性欠如と判断されるようなものである場合には、それらは、上述したように、先行技術との対比において「技術上の意義」を有していない発明であると判断されることがあります。
このような場合には、「発明の単一性」を検討・判断している2つの発明の間に「特別な技術的特徴」と考えるべきものが存在していない、と判断され、両発明の間では「発明の単一性」要件が満たされていない、とされてしまいます。
例えば、上述した請求項1、2の鉛筆の発明で、特許庁での審査において、「請求項1記載の発明は新規性欠如、請求項2記載の発明は進歩性欠如」と審査官が判断したとします。
この場合、請求項1記載の発明と、請求項2記載の発明との間には、同一又は対応する「特別な技術的特徴」は存在していない、したがって、特許法第 37 条の「発明の単一性」要件が満たされていない、と判断することができます。
ただし、上述したように、特許法第 37 条の「発明の単一性」要件の判断は必要以上に厳格にしない、とされていますので、このような場合に、審査官は、「特許法第 37 条の『発明の単一性』要件が満たされていない」という拒絶理由ではなく、「請求項1記載の発明は新規性欠如、請求項2記載の発明は進歩性欠如」という拒絶理由だけを通知することになると思われます。
<次号のご案内>
次号では「発明の単一性」の2回目として、「発明の単一性」といわゆる「シフト補正禁止」の規定との間で注意が必要な事項、特許審査基準で例示されている複数発明の間に「発明の単一性」が認められる場合を紹介します。
■ニューストピックス■
●「ビジネス関連発明」の最近の動向を公表(特許庁)
特許庁は、「ビジネス関連発明の最近の動向について」の調査結果を公表しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
ビジネス関連発明とは、ICT(Information and CommunicationTechnology:情報通信技術)を利用してビジネス方法が実現されている発明のことです。ビジネスの方法や仕組みに関する画期的なアイデアを思いついたとしても、アイデアそのものは特許の保護対象になりませんが、そのアイデアがICTを利用して実現された場合には、「ビジネス関連発明」として特許の保護対象となり得ます。
例えば、パーソナルコンピュータやスマートフォンを使用し、インターネットを介して行う電子商取引のビジネス方法などがあげられます。ビジネス関連発明の正確な定義はありませんが、一般にコンピュータ・ソフトウェア発明の一類型と位置付けられています。
特許庁の調査結果によると、国内のビジネス関連発明の特許出願件数は、2012年頃から増加に転じており、2022年は13,411件の出願がありました。当初低調であった特許査定率は年々上昇しており、近年は技術分野全体の特許査定率と同程度の70%台で推移しています。
分野別の出願件数をみると、2021年に出願されたビジネス関連発明のうち上位を占めるのは、以下の3分野です。
(1)サービス業一般(宿泊業、飲食業、不動産業、運輸業、通信業等)
(2)管理・経営(社内業務システム、生産管理、在庫管理、プロジェクト管理、人員配置等))
(3)EC・マーケティング(電子商取引、オークション、マーケット予測、オンライン広告等)
特に高い伸び率を示している分野は「管理・経営」です。社内の業務システムや在庫管理の最適化に人工知能(AI)を活用する発明が代表例として挙げられています。
●「AIが発明者」二審も認めず(知財高裁)
AIを発明者とする特許出願の可否が争われた訴訟の控訴審判決で、知財高裁は、「特許法が規定する『発明者』は自然人に限られる」とした1審・東京地裁判決を支持し、原告側の控訴を棄却しました。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
判決によると、原告は、自らが作ったAIが考案した食品容器などを特許出願し、「発明者」をAIと記載しましたが、特許庁は「発明者は自然人に限られる」として出願を却下。原告側は「発明者がAIでも特許出願できる」と出訴しましたが、昨年5月の1審・東京地裁はこれを退けました。
今回、知財高裁は、原告の控訴を棄却すると共に次のように判示しました。国会での議論を促しているものと考えられます。
「特許法の制定当初から直近の法改正に至るまで、近年の人工知能技術の急激な発達、特にAIが自律的に『発明』をなし得ることを前提とした立法がなされていない」、「AI発明に特許権を付与するか否かは、発明者が自然人であることを前提とする現在の特許権と同内容の権利とすべきかを含め、AI発明が社会に及ぼすさまざまな影響についての広汎かつ慎重な議論を踏まえた、立法化のための議論が必要な問題であって、現行法の解釈論によって対応することは困難である。」、「発明者を自然人に限定した場合の弊害等も、これらの立法政策についての議論の中で検討されるべき問題である。」
●棋譜を再現した即時配信は「違法」(大阪高裁)
将棋の指し手を記録する「棋譜」を再現した動画を即時配信していた男性ユーチューバーが、対局中継などを有料配信する「囲碁将棋チャンネル」の要請で動画を削除されたとして約340万円の賠償を求めた控訴審判決で、大阪高裁は、請求の一部を認めた一審・大阪地裁判決を取り消し、請求を棄却しました。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
判決によると、男性ユーチューバーは、将棋のタイトル戦に合わせて対局の棋譜をリアルタイムで再現する動画をYouTubeやツイキャスで配信していましたが、インターネットの中継番組を有料で配信している「囲碁・将棋チャンネル」の申請により動画が削除されました。
男性は、「指し手の情報は単なる事実で、違法に取得したものではない」と主張して、チャンネル側に削除の撤回や賠償を求める訴訟を起こし、1審の大阪地方裁判所は、「棋譜は、公表された客観的事実であり、自由に利用できる情報」などとして、チャンネル側に削除申請の撤回と118万円の支払いを命じました。
これに対し、チャンネル側は控訴し、2審の大阪高等裁判所では「棋譜は棋戦の主催者である日本将棋連盟と新聞社などが管理し、許諾を受けた囲碁将棋チャンネルなどが有料配信するビジネスモデルが成立している」と言及。ユーチューバーによる動画配信が繰り返されれば、「現状の規模で棋戦を存続させることを危うくしかねない」と指摘。その上で、男性の配信は自由競争の範囲を逸脱し、営業上の利益を侵害しているとして、不法行為にあたると結論付けました。
●第1回知財・無形資産ガバナンス表彰、味の素など5社
知財・無形資産の戦略的活用により企業価値の向上を実現した企業を表彰する目的で設立された「知財・無形資産ガバナンス推進協会」は、第1回(2024年度)受賞企業として味の素など5社を表彰しました。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
【最優秀賞】味の素株式会社
【優秀賞】株式会社アシックス
【特別賞】株式会社カプコン、デクセリアルズ株式会社、株式会社日立製作所
最優秀賞に選ばれた味の素は、経営理念の中核に「アミノサイエンス」という同社固有の無形資産が据えられており、知財・無形資産戦略が一貫性・網羅性をもって組み込まれている点などが高く評価されました。
受賞した各社は、それぞれ独自の無形資産を中核とする経営戦略や、情報開示、取締役会の関与などにおいて高く評価され、今後の知財・無形資産戦略の指針となる事例として位置付けられています。
●特許技術でつくる!?「驚きの本格チャーハンレシピ」動画(前編・後編)を公開(特許庁)
特許庁は、YouTubeチャンネル「JPOちゅーぶ」で「特許技術でつくる!?驚きの本格チャーハンレシピ」動画(前編・後編)を公開しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
「JPOちゅーぶ」は、特許庁が幅広い層に知的財産(知財)を楽しく学んでもらうために開設したもので、今回は、特許庁職員が特許技術(既に権利が消滅しているもの)を使って「パラパラ食感」の本格チャーハンを調理しました。
動画の後編では、チャーハンレシピの元となった「特許公報」の解説を通して、「チャーハンをパラパラにする」特許技術を紹介しています。
<編集後記>
【今月の一冊】『実務家のための知的財産権判例70選2024年度版』(一般社団法人弁理士クラブ知的財産実務研究所編集・発行)
直近3年の重要判例が実務上の指針と共にコンパクトにまとめられた本です。
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発行元 藤川IP特許事務所
弁理士 藤川敬知
〒468-0026 名古屋市天白区土原4-157
TEL:052-888-1635 FAX:052-805-9480
E-mail:fujikawa@fujikawa-ip.com
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