藤川IP特許事務所メールマガジン 2025年5月号

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◇◆◇ 藤川IP特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
                       2025年5月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
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┃ ☆知財講座☆
┃(40)先使用権(1)~先使用権が認められる条件~

┃ ☆ニューストピックス☆

┃ ■特許出願件数が回復基調「特許庁ステータスレポート2025」
┃ ■「コンセント制度」を適用した初の商標登録(特許庁)
┃ ◇「コンセント制度」の要件と手続上の留意点◇
┃ ■特許表示の機能向上で知的財産の侵害抑止を検討(特許庁)
┃ ■日本、バッテリー技術分野で強さ示す(欧州特許庁:EPO)
┃ ◆助成金情報 令和7年度外国出願費用の助成(INPIT
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特許庁は、国内外の知的財産に関する最新の統計情報などをまとめた「特許庁ステータスレポート2025」を公表しました。同レポートによると、2024年の特許庁への特許出願件数は30万6855件で、前年比2.2%増となりました。中小企業の出願件数も過去最高を更新するなど、近年減少傾向にあった特許出願件数は回復基調にあることが示されました。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(40)先使用権(1)
~先使用権が認められる条件~

【質問】
当社が行っている事業に対して「弊社が所有している特許権に対する侵害行為にあたる」との警告を受けた場合であっても、「当該事業は、当該特許権に係る特許出願が行われた時点で既に当社の事業として実施していたものであること」を立証できれば、当該事業を継続できると聞きました。これはどのようなことなのでしょうか?

【回答】
ご質問いただいたものは、先使用による通常実施権で、センシヨウケン、あるいはサキシヨウケンと呼ばれる先使用権に関するものです。
特許法第79条に規定されています。これについて説明します。

<先使用による通常実施権=先使用権とは?>
特許庁は「事業者の皆様に先使用権制度に対する理解を深め、先使用権の証拠確保を効果的に実践していただくため」として「制度を利用するに当たり参考となる情報を集め」て「先使用権~あなたの国内事業を守る~」という冊子を平成28年(2016年)7月に発行しています。

▷詳細はこちら(PDFが開きます)

この冊子では、先使用権の内容が次のように概説され、図示されています。
 「発明者Aが自社にとって大切な発明をノウハウとして取り扱い、特許出願を行わずに発明の実施である事業の準備をしていたところ、偶然に同じ発明をした発明者Bがその発明について特許出願をすることがあります。このような場合であっても、Aが、Bによる発明のことを知らずに自ら発明を完成しており、Bの特許出願の時点で、その発明を実施する事業の準備をしており、かつ、それらを裁判で証明できれば、Bが特許権を取得しても、Aはその発明を一定の範囲内で実施し続けることができます。」

工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕(編集:特許庁総務部総務課制度審議室、発行:一般社団法人発明推進協会)では先使用権の内容が次のように例示されています。

▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

「甲が令和2年5月1日に苛性ソーダNの製造方法について特許出願をしたが、乙は甲の特許出願の内容である発明と同じ発明、すなわち、苛性ソーダNを製造する方法の発明を自分で独立的に(すなわち、甲の模倣としてではなく)発明し、令和2年5月1日には乙はその苛性ソーダNの製造方法の発明の実施をしていたとすれば、甲の特許出願が特許になった場合においても、乙は引き続き苛性ソーダNの製造をする権利を有する。」

<先使用権の内容>
先使用権は、特許庁に出願(申請)を行って登録するものではありません。
特許権者から「特許権侵害である」として差止請求訴訟や損害賠償請求訴訟を受けたときに、その裁判の中で抗弁として主張・立証し、裁判所で認めてもらうものです。
裁判所で先使用権の成立が認められたならば、訴えの根拠になっている特許権に対しては「特許権侵害である」として訴えられた事業を継続できます。

このように、先使用権は、「特許権侵害である」との差止請求訴訟や損害賠償請求訴訟の根拠になっている特許権に係る発明を事業として実施できる通常実施権と呼ばれる権利です。

先使用による通常実施権=先使用権は、無償(対価が不要)です(特許法第79条)。先使用権の成立が裁判所で認められた者は、特許権者に対して許諾を求めたり、金銭を支払ったりすることなく、先使用権の成立が認められた特許発明の実施を継続できます。

<先使用権が認められる理由>
先使用権(特許法第79条)が認められる理由の一つは、先に発明を行っていた者である先発明者と、特許権を取得した者である特許権者との間の公平を図ることにあるとされています。

また、既に事業の実施や準備を行っていた者が、その後の特許出願で成立した特許権による権利行使を受けて事業設備の廃棄などを行わねばならなくなるのは産業政策上妥当でないという理由もあるとされています。

<先使用権の成立要件>
裁判所で先使用権の成立が認められるためには以下のA~D4つの要件がすべて主張、立証されなければなりません。

A.主体に関する要件
先使用権の成立を主張する者が、「(『特許権侵害である』という訴えの根拠になっている特許権の)特許出願に係る発明の内容を知らないで、自らその発明をした者」あるいは、「当該特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得した者」であることが必要です。

上述した先使用権が認められる理由からの要件になります。

先使用権の成立を主張する者は、「特許権侵害である」という訴えの根拠になっている特許権の特許出願に関する発明の内容を知らないで独自に同じ発明をしていた者であること、あるいは、「特許権侵害である」という訴えの根拠になっている特許権の特許出願に関する発明の内容を知らないで同じ発明をした者からその発明の内容を知った者のいずれかであることを立証することになります。

B.時期に関する要件
先使用権の成立を主張する者は、「特許権侵害である」という訴えの根拠になっている特許権に係る発明の実施である事業やその準備を、「特許権侵害である」という訴えの根拠になっている特許権の「特許出願の際、現に」実施していたことを立証しなければなりません。

これも、上述した先使用権が認められる理由からの要件です。

C.地域に関する要件
日本国内での実施行為が日本国の特許権に対する侵害行為であるとして訴えを受け、これに対して抗弁するので、日本国内において、上述した、発明の実施である事業やその準備をしていたことを立証しなければなりません。

発明の実施である事業やその準備を行っていたのが海外においてのみである場合には、日本国の特許権に基づく権利行使に抗弁する日本国の先使用権は成立しません。

D.客体に関する要件
先使用権の成立を主張する者が行っていたものが、(「特許権侵害である」という訴えの根拠になっている)特許権に係る発明についての「実施である事業」又は「その事業の準備」であることが立証されなければなりません。

先使用権(特許法第79条)が認められる理由の一つは上述したように産業政策的な観点ですが、先発明者と特許権者との間の公平を図ることにもあります。
そこで、先使用権は、事業設備を有する者だけでなく、「その事業の準備」を行っていた者にも認められることになっています。

「その事業の準備」を行っていたとは、「少なくともその準備が客観的に認められ得るものであることを要する。したがって、単に頭の中で発明の実施をしようと考えたとか、実施に必要な機械購入のために銀行に資金借入れの申込みをしたという程度では事業の準備ということはできない。

一方、その事業に必要な機械を発注して既に出来上がっている、又は雇用契約も結んで相当宣伝活動をしているような場合は事業の準備の中に含まれるであろう。」とされています(工業所有権法(産業財産権法)逐条解説)。

■ニューストピックス■
●特許出願件数が回復基調「特許庁ステータスレポート2025」●
特許庁は、国内外の知的財産に関する最新の統計情報などをまとめた「特許庁ステータスレポート2025」を公表しました。

▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

<特許出願件数>
2024年の特許庁への特許出願件数は30万6855件で、2023年の30万133件から6722件増(前年比2.2%増)となりました。
このうち、国際特許出願件数は7万2890件で、2023年の7万5687件を2797件下回りました。
特許出願件数(国際特許出願を除く)は、近年減少傾向にありましたが、2024年は2023年に続いて前年を上回り、回復基調にあることが示されました。

日本の中小企業の特許出願件数をみると、2022年、2023年と連続で増加し、2023年は過去最高の4万221件となりました。
日本国特許庁を受理官庁としたPCT国際出願の件数は、過去最高を記録した2019年の5万1652件から漸減傾向にあり、2024年は4万6751件でした。

<一次審査通知までの期間と権利化までの期間>
2023 年度における一次審査通知(First Action)までの平均期間(FA期間)は、9.4 か月、権利化までの期間は、13.8か月と政府目標を達成しています。

●「コンセント制度」を適用した初の商標登録(特許庁)
特許庁は、2024年4月に施行された「コンセント制度」を適用した初の商標登録を行ったと発表しました。

▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

「コンセント制度」とは、先行登録商標と同一又は類似する商標であっても、先行登録商標の権利者の承諾(コンセント)があり、混同のおそれがなければ、類似する後願商標の併存登録を認める制度です。
2024年4月1日施行の改正商標法で導入され、施行日以後にした出願について適用されます。

今回、コンセント制度を適用し、初登録されたのは、酒造メーカーの株式会社車多酒造による「玻璃」。ギフト販売のシャディ株式会社が先行登録商標を持っていましたが、両社間の併存登録の同意をもとに、承諾を得た出願に対し、特許庁が混同のおそれがないと判断したことで、登録が認められました。

◇「コンセント制度」の要件と手続上の留意点◇
日本ではこれまでコンセント制度が導入されていなかったので、代わりとして「アサインバック」という手続が行われていました。
「アサインバック」とは、出願人の名義を一時的に引用商標(類似する先行商標)の権利者の名義に変更することで、引用商標権者と出願人の名義を一致させて拒絶理由を解消し、登録査定を得た上で、引用商標権者から元の出願人に再度名義変更を行う手続です。

アサインバックは、名義変更を繰り返す必要があるため、手続が煩雑化してしまう課題がありました。

特許庁では、コンセント制度の導入により、新規事業でのブランド選択の幅が広がることを通じて、中小・スタートアップ企業の新たなチャレンジを後押しするとしています。

現在も従来のアサインバックによって商標登録を受けることが可能ですが、ここでは、コンセント制度の要件と手続上の留意点を紹介します。

<手続の留意事項>
コンセント制度で注意しなければならない点は、先行する登録商標の権利者の同意があったとしても、商標自体の類似性等により、需要者(消費者)に混同を生じるおそれがあると判断された場合には、登録は認められないことです。

<コンセント制度の登録要件>
①先行商標権者の承諾を得ていること
②先行商標権者との間で「出所混同のおそれがない」こと
「混同を生ずるおそれがない」に該当するか否かについては、下記の①から⑧のような、両商標に関する具体的な事情を総合的に考慮して判断するとされています。

例えば、引用商標と同一の商標であって、同一の指定商品又は指定役務について使用するものは、原則として混同を生ずるおそれが高いものと判断されることになっています。

①両商標の類似性の程度
②商標の周知度
③商標が造語よりなるものであるか、又は構成上顕著な特徴を有するものであるか
④商標がハウスマークであるか
⑤企業における多角経営の可能性
⑥商品間、役務間又は商品と役務間の関連性
⑦商品等の需要者の共通性
⑧商標の使用態様その他取引の実情

コンセント制度による商標登録を受けるためには、単に引用商標権者の承諾を得るだけではなく、混同のおそれが生じないように、あらかじめ、両社間で商標の使用態様などについて、詳細に規定するなどの留意が必要であるとされています。

●特許表示の機能向上で知的財産の侵害抑止を検討(特許庁)
特許庁は、知的財産の侵害抑止へ向け、訴訟提起を要さずに事前に抑止効果が期待できる観点から、特許表示の機能向上に関する検討を集中的に進める方針です。

▷詳細はこちら(PDFが開きます)

特許表示については、現状、知的財産の侵害抑止の手段として一般に認識されておらず、マーケティング的な位置づけが強いと指摘されています。

一方、訴訟と比較すると対応に要する負担が軽く、訴訟提起を要さずに事前に抑止効果が期待できる可能性があります。

また、特許表示の活用が広がれば、他社の特許権の存在に気付きやすくなることから、特にクリアランス(商品やサービスを世の中に出していく前に、その商品やサービスが他者の特許権を侵害するものではないかを確認)体制に懸念がある中小企業やスタートアップ企業では、クリアランス負担の軽減につながる点でも利点があると考えられています。

特許表示の活用は、競合する企業に対して裁判手続を経ない侵害の牽制策として現実的な方向性と考えられることから、特許庁は、今後、特許表示の機能向上に関する検討を進める方針です。

●日本、バッテリー分野で強さ示す(欧州特許庁:EPO)
欧州特許庁(EPO)は、「2024年特許指数」を発表しました。報告書によると、欧州特許庁が24年に世界各国から受理した特許出願件数は19万9264件(前年比0.1%減)でした。

▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

国ごとの出願件数をみると、トップ5は米国、ドイツ、日本、中国、韓国の順。

米国は4万7,787件(前年比0.8%減)、ドイツは2万5,033件(0.4%増)、日本は2万1,062件(2.4%減)、中国は2万81件(0.5%増)、韓国は1万3,107件(4.2%増)。

技術ごとの出願件数をみると、機械学習や人工知能(AI)分野を含むコンピュータ技術が1万6,815件で、前年比3.3%増となり、最も出願件数の多い技術分野となりました。

日本の主要分野である電気機械、装置、エネルギー分野では、2023年と比較して8.4%増加し、日本からは2,077件の特許出願がありました。
バッテリー技術分野では、日本企業による欧州特許庁への特許出願件数は、2023年と比較して20%増と大幅に伸びるなど、バッテリー技術において日本の強さを示しました。

◆助成金情報 令和7年度外国出願補助金(INPIT)◆
これまで特許庁で実施していた「海外権利化支援事業」は、INPIT(独立行政法人工業所有権情報・研修館)に移管され、令和7年度から新たに「INPIT外国出願補助金」として実施されます。

▷詳細はこちら(PDFが開きます)

【助成の概要】
外国での特許、実用新案、意匠又は商標の出願・権利化を予定している中小企業、中小スタートアップ企業、小規模企業、大学等に対し、外国出願に要する費用の1/2を助成。

既に日本国特許庁に対して行っている出願について、パリ条約に基づく優先権を主張して外国特許庁等へ出願するもの等が補助対象。

【対象経費】
外国特許庁への出願料、国内・現地代理人費用、翻訳費用 等

【補助率・上限額】
補助率:1 / 2
上限額 1企業あたり:300万円(※大学等は1法人当たりの上限額なし)
1案件あたり:特許 150万円
実用新案・意匠・商標 それぞれ60万円
冒認対策商標 30万円(冒認対策商標とは、冒認出願の対策を目的とした商標出願)

【第1回公募期間】
2025年5月12日(月)から6月2日(月)17:00まで

<編集後記>
【今月の一冊】『マーケティングの最強ツールは知財である』(杉光一成著、中央経済社発行)マーケティング・ツールとしての知財の活用法が、事例を交えて解説されています。

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発行元 藤川IP特許事務所
弁理士 藤川敬知
〒468-0026 名古屋市天白区土原4-157
TEL:052-888-1635 FAX:052-805-9480
E-mail:fujikawa@fujikawa-ip.com
URL:https://fujikawa-ip.com/

<名駅サテライトオフィス>
〒451-0045 名古屋市西区名駅1-1-17
名駅ダイヤメイテツビル11階エキスパートオフィス名古屋内
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