藤川IP特許事務所メールマガジン 2026年3月号

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◇◆◇ 藤川IP特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
                        2026年3月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
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┃ ☆知財講座☆
┃(50)補償金請求権とは

┃ ☆ニューストピックス☆

┃ ■標準必須特許(SEP)を専門に調停(東京地裁)
┃ ■先端技術分野の開発などを支援(経済安全保障法改正案)
┃ ■大学等における産学連携の実施状況を報告(文部科学省)
┃ ■モノクロ映画をカラー化、海賊版販売者に有罪判決(大阪地裁)
┃ ◆助成金情報 令和8年度外国出願費用の助成<第2回>(INPIT)
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INPIT(独立行政法人工業所有権情報・研修館)は、3月2日から令和8年度「外国出願補助金」(第2回)の募集を開始します。

本補助金では、出願手続に要する費用と出願審査請求、拒絶理由通知に対する応答手続に要する費用が補助されます。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(50)補償金請求権とは

【質問】
当社の特許出願の内容が特許庁から「特許出願公開公報」として公表され、特許庁のウェブサイト(J-Plat Pat)にもアップされました。これによって当社の特許出願の内容が同業他社に知られることになりました。同業他社が当社の特許出願の内容を知って、当社の発明内容を実施するようになってしまった場合、当社は、特許権が成立するまで何もできないのでしょうか?

【回答】
特許出願から18カ月が経過した後に特許庁から行われる特許出願公開は、特許出願の内容を一般公衆に知らせるもので、第三者はその内容を実施することが可能になります。特許出願公開が行われた特許出願に係る発明内容を第三者に実施されたことによる特許出願人の損失を塡補する目的で補償金請求権という出願公開の場合の仮保護が特許出願人に認められています。補償金請求権の内容を工業所有権法逐条解説(編集:特許庁総務部総務課制度審議室、発行:一般社団法人発明推進協会)の記載を参照して紹介します。

▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

<補償金請求権の内容(特許法第65条第1項>
 特許出願人は、出願公開された特許出願に係る発明の内容を記載した書面を提示して警告をした後、警告を受けた者が、当該特許出願について特許権が成立するまでの間に、業としてその発明を実施している場合に、警告を受けた者に対して、その発明が特許されていたとした場合の実施料相当額の補償金の支払を請求できます。

 警告を受け取った者が、警告書で指摘されている特許出願に係る発明が特許になった場合に、その特許権に対して有効に対抗できる地位、例えば、先使用権者(特許法第79条)などであるときは、補償金を支払う義務を負わないことになっています。

 しかし、そうでない場合、警告を受けた者は、警告を受けて実施している発明が、警告書で指摘を受けた特許出願に係る発明と無関係に発明した自己の発明であるときであっても補償金を支払わねばなりません。

<警告を行うことが必須>
 上述したような警告を行うことが補償金請求権を発生させるために必須になっています。特許庁は、現在、年間30万件程度の特許出願を受け付けており、原則として、すべての特許出願が18カ月経過後に出願公開されます。特許出願公開公報が発行された後、最終的に特許成立するのは、技術分野によりますが、60%程度ですから、発行された特許出願公開公報の全てを読むよう第三者に義務付けるのは適当ではありません。

 そこで、出願公開公報に掲載されたというだけでは、第三者がその特許出願に係る発明であることを知っているものとは推定されないことになります。

 このため、特許出願人は、補償金を請求するためには、原則として、第三者に対し出願公開時の特許請求の範囲に記載されている発明の内容を提示して警告しておく必要があります。

 警告をしなくても、実施者が出願公開に係る発明であることを知って業として実施していた場合は補償金を請求できますが、この場合、知っていたことの立証は特許出願人が行わなければなりません。

 なお、具体的に特定の相手方に対して行った警告であることが要求されます。発明の内容を業界紙等に掲載して行う「警告」は、相手方が特定されていないので、補償金請求権を発生させるための警告になりません。

 新規性、進歩性などの実体的要件について審査を受けることなしに権利が付与される現状の無審査登録制度下の実用新案権では、実用新案権者は、まず、特許庁に実用新案技術評価書の作成を請求し、特許庁審査官が作成した鑑定的評価である実用新案技術評価書を提示して警告した後でなければ、実用新案権侵害者に対して権利行使できません(実用新案法第29条の2 実用新案技術評価書の提示)。

 また、実用新案権者が侵害者に対して権利行使や、警告を行った場合において、実用新案登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは、実用新案権者は、無過失であることを立証できない限り、その権利行使又は警告により相手方に与えた損害を賠償する責めに任ずる、無過失賠償責任を負うことになっています(実用新案法第29条の3実用新案権者等の責任)。

 この点、特許出願における補償金請求権の警告書は、特許庁の審査を受ける前であっても届けることができます。また、警告書送付後、特許庁で審査を受けて特許権成立しないことになる場合であっても、上述した実用新案法におけるような措置を受けることはありません。

権利行使できるのは特許権成立後
 補償金請求権を行使して、警告書受領後の特許権成立までの期間における、警告書受領者の実施行為に対して、実施料相当額の支払いを請求できるのは、特許権が成立した後です。

 出願公開された特許出願には、将来、拒絶をすべき旨の査定が下されるものが含まれています。また、出願公開時点の特許請求の範囲の記載では、このままで特許権が成立した場合には、特許権侵害の問題が発生すると考えられていたが、特許庁での審査の過程で特許権の効力が及ぶ範囲を狭める補正が行われたため、警告書を受けた者が実施行為を継続していても、特許権侵害という問題は生じなくなった、ということも起こり得ます。

 このように不安定な段階で補償金請求権の行使を認めると、後に拒絶査定がされた場合などに利害関係の調整が煩雑になります。

 そこで、補償金請求権を行使できるのは、審査が終了して特許権が成立した後でなければならないことになっています(特許法第65条第2項)。

補償金請求権の消滅
 補償金請求権は、警告書で指摘された特許出願について最終的に特許権が成立した場合以外は、初めから存在しなかったものとみなされます(特許法第65条第5項)。

 特許出願の拒絶査定が確定した時はもちろん、警告書送付後に、特許出願人が、自発的に、特許出願を放棄、取り下げした場合でも、補償金請求権は、初めから存在しなかったものとみなされます。また、特許権が成立した後に特許庁から発行された特許掲載公報に対して6カ月以内に特許異議申立が提出され、特許庁での審理の結果、特許取消決定が下されて、それが確定した場合も、補償金請求権は、初めから存在しなかったものとみなされます。

補償金請求権と特許権は同時に行使できる
 補償金請求権は、出願公開が行われて警告書を受領した時から、特許権成立までの間における実施行為に対して生ずるもので、特許権成立後の実施には、何ら関係ありません。

 そこで、補償金請求権を行使すると同時に、特許権を行使できます(特許法第65条第4項)。

 例えば、「特許出願に係る発明がカラーテレビの受像機についてのものである場合に、ある喫茶店でその受像機を使用しているときは、特許出願人は、その喫茶店の営業者に対し、出願公開から特許権の設定の登録までの間のその受像機の使用に対しては補償金の支払を請求できるし、特許権の設定の登録後の使用に対しては差止めや損害賠償を請求できる。同様に、出願公開中にメーカーが補償金を支払って製造した機械を買い受けて特許後にその機械を業として使用している者も、当該特許権に基づく差止請求等を免れることはできない。」ことが工業所有権法逐条解説に紹介されています。

<警告書を受け取った者の対応>
 「出願公開中の第三者の実施行為は、不法行為となるものではない」と、工業所有権法逐条解説で説明されているように、特許出願人から補償金請求権の警告書を受け取った者が、警告書受領後も実施行為を継続するのは、民法上の不法行為ではありません。

 警告書で指摘を受けた特許出願がその後の審査で拒絶される等によって補償金請求権が初めから存在しなかったものとなること等が起こり得ることが考慮されているものと思われます。

 そこで、補償金請求権の発生を告知する警告書を受け取った場合であっても、実施行為を慌てて中止する必要はありません。専門家である弁理士に相談の上、警告書に係る特許出願の審査動向をウォッチングする、必要があるならば、「この特許出願で特許請求している発明は、特許出願前に公知であった技術により新規性・進歩性欠如で拒絶されるべきである。」とする情報提供(刊行物提出)を行う等の対応が可能です。

<警告書送付後の対応>
 一方、警告書を送付した特許出願人は、特許権が成立しなければ補償金請求権を行使できませんし、特許権成立後の実施行為を特許権侵害であるとして排除できません。

 そこで、専門家である弁理士に相談の上、警告書送付に係る特許出願について早急に審査請求して特許庁の審査を受ける状態にし、また、必要があれば早期審査や優先審査を特許庁に請求することになります。

 また、特許庁での審査の過程で特許請求の範囲を補正した場合には、補正後の発明の内容を記載した書面を提示して、改めて、警告を行う必要が生じることがあります。どのようにすべきか、専門家である弁理士に十分に相談することをお勧めします。

■ニューストピックス■
●標準必須特許(SEP)を専門に調停(東京地裁)
東京地方裁判所は、標準必須特許(Standard Essential Patent:SEP)に関する紛争解決を目的とした新たな専門調停制度を導入しました。無線通信の分野などにおける標準規格の実施に不可欠な特許である標準必須特許(SEP)を巡る国際的な特許紛争などを迅速に解決することを目指しています。

調停制度の開始に伴い、東京地裁知的財産権部は、早期決着に向け、和解を前提とした「標準必須特許(SEP)に基づく特許権侵害訴訟の審理要領」も公表しました。

▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

SEPを巡るライセンス交渉や紛争は、これまで通信事業者間で行われることが中心でしたが、IoTの普及により、通信事業者以外の異業種間でのライセンス交渉や訴訟が増えています。

一方、近年、SEPのライセンス料の高額化や、複数の特許が絡み合うことによる訴訟の複雑化や長期化などが課題となっています。

今回導入された調停制度では、訴訟であれば、通常、数年を要するところを、半年(原則3回の調停)での合意を目指しています。迅速な合意を得られれば、企業のコストや時間の負担が大幅に軽減することができます。

また、日本の特許だけでなく、全世界のライセンス契約をパッケージで解決できるよう設計されています。

調停員は、裁判官1名と弁護士等の専門家2名という3名の構成で企業間の合意形成を促します。

●先端技術分野の開発などを支援(経済安保法改正案)
政府は、経済安全保障推進法の改正案を今国会に提出する方針です。

▷詳細はこちら(PDFが開きます)

日本を取り巻く安全保障環境、生成AI(人工知能)をはじめとした先端技術の開発競争の激化を背景に、2022年に制定した経済安全保障推進法を初めて改正し、実効性を強化する方針です。

経済安全保障推進法(経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律)は、主に以下の4つの制度で構成されています。

①国民生活に重要な特定の物資の安定供給を確保する制度
②電気・ガスなどの基幹インフラの安定的な稼働を外部の妨害から守る制度
③国民生活や経済活動において重要になる先端技術の研究開発を促進する制度
④一部の機微な分野において特許出願を非公開とする制度

改正案では、物流の要である港湾やAI開発に不可欠なデータセンターの整備などを念頭に「特定海外事業」を設定し、支援します。海外事業で損失が発生した場合、国際協力銀行(JBIC)が他の投資家よりも先に引き受ける「劣後出資」という仕組みで融資を可能とします。研究開発から国内外での事業展開まで国費による補助を通じて、日本の技術的優位を目指します。造船事業、高速通信規格「5G」の海外事業などを想定しています。

このほか、安定的な供給が滞れば社会・経済への影響が大きい「特定重要物資」について、これまで重要鉱物や半導体、蓄電池など12物資が指定されていますが、新たに「船体を構成する部品」「無人航空機(ドローン)」「人工衛星・ロケット部品」「磁気センサー」「人工呼吸器」が指定されました。

●大学等における産学連携の実施状況を報告(文部科学省)
文部科学省は、「令和6年度大学等における産学連携等実施状況」を公表しました。

▷詳細はこちら(PDFが開きます)

それによると、研究資金等の受入額(共同研究・受託研究・治験等・知的財産)は、約5,313億円と、前年度と比べて約593億円増加(12.6%増)しました。

民間企業との共同研究をみると、「研究実施件数」は32,093件と、前年度と比べて907件増加(2.9%増)し、「研究費受入額」は約1,065億円と、前年度と比べて約37億円増加(3.6%増)しました。

知的財産権等による収入額は、約72.6億円と、前年度と比べて約9.5億円減少(11.5%減)。知的財産権等による収入額の内訳をみると、「特許権(約52.2億円)」が全体の71.9%を占めています。続いて、「マテリアル(約9.8億円)」が13.5%、「その他(ノウハウ等) (約6.5億円)」が8.9%、「著作権(約3.0億円)」が4.1%となっています。

特許権実施等の収入額の内訳をみると、「ランニングロイヤリティ」が約29.4億円と、前年度と比べて約3.7億円増加(14.2%増)し、全体の56.3%を占めています。

●モノクロ映画をカラー化、海賊版販売者に有罪判決(大阪地裁)
モノクロ映画「ゴジラ」を無断でカラー化した海賊版DVDを販売したとして、著作権法違反の疑いで起訴された海賊版の販売者に対し、大阪地方裁判所は、懲役1年6カ月(執行猶予3年)、罰金50万円の有罪判決を言い渡しました。一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)が発表しました。

▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

CODAの調査によると、一般の映画作品におけるAIによる著作権法違反での逮捕および有罪が認定された初の事例となります。販売されたDVDは、AIを用いて作品全編をカラー化。販売者は「著作権保護期間の終了したパブリックドメイン」であるため、合法だと主張していました。しかし、実際は、販売されたDVDの多くの作品が保護期間内にありました。

◆助成金情報 令和8年度外国出願補助金<第2回>(INPIT)◆
INPIT(独立行政法人工業所有権情報・研修館)は、3月2日から令和8年度「外国出願補助金」(第2回)の募集を下記のとおり開始します。

▷詳細はこちら(PDFが開きます)

【公募期間】
令和8年3月2日(月)から3月23日(月)17:00まで

【助成概要】
外国での特許、実用新案、意匠又は商標の出願・権利化を予定している中小企業、中小スタートアップ企業、小規模企業、大学等に対し、外国出願に要する費用の1/2を助成。既に日本国特許庁に対して行っている出願について、パリ条約に基づく優先権を主張して外国特許庁等へ出願するもの等が補助対象。

【対象経費】
外国特許庁への出願料、国内・現地代理人費用、翻訳費用 等

【補助率・上限額】
補助率:1 / 2
上限額 1企業あたり:300万円(※大学等は1法人当たりの上限額なし)
1案件あたり:特許 150万円
実用新案・意匠・商標 それぞれ60万円
冒認対策商標 30万円(冒認対策商標とは、冒認出願の対策を目的とした商標出願)

<編集後記>
【今月の一冊】『図解 研究開発のための知財戦略-技術を競争力に変える特許のしくみ』(玉井泰成著、中央経済社発行)研究開発と知財との関係を図解入りで分かりやすく解説した本です。

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発行元 藤川IP特許事務所
弁理士 藤川敬知
〒468-0026 名古屋市天白区土原4-157
TEL:052-888-1635 FAX:052-805-9480
E-mail:fujikawa@fujikawa-ip.com

<名駅サテライトオフィス>
〒451-0045 名古屋市西区名駅1-1-17
名駅ダイヤメイテツビル11階エキスパートオフィス名古屋内

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