藤川IP特許事務所メールマガジン 2022年10月号

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◇◆◇ 藤川IP特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
                      2022年10月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
┃ 
┃ ☆知財講座☆
┃(9)特許出願後の内容追加

┃ ☆ニューストピックス☆

┃ ■ 模倣品、個人輸入でも差し止め対象(改正関税法)
┃ ■トイレ紙「3倍巻き」特許めぐり提訴(日本製紙クレシア)
┃ ■ゼンリンの地図、著作物と認定(東京地裁)
┃ ■「つながる車」の特許料支払いで合意(トヨタ自動車など)
┃ ■代理権の証明、委任状の写しも可能(特許庁)
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10月1日に改正関税法が施行され、偽ブランド品など模倣品の輸入について、個人向けの規制が強化されました。
個人で使用する場合であっても、海外の通販サイトで商品を購入した場合など、海外事業者から送付される物品が模倣品(商標権又は意匠権を侵害するもの)である場合、税関による輸入差止・没収の対象となります。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(9)特許出願後の内容追加

【質 問】
先頃特許出願していただいた発明と基本的な原理は同じなんですが、少し変えるともっとよくなるとわかりました。
これは新しく特許出願しないといけませんか?
先頃の出願に付け加えることはできませんか?

【回 答】
先頃行った特許出願に付け加えることはできませんが、先頃の特許出願からまだ1年が経過していませんので、先頃の特許出願に基づく優先権というものを主張し、先頃の特許出願の内容に今回の改良部分が追加された新しい特許出願に乗り換えることができます。

今回は、この優先権主張出願について説明します。

<新規事項を追加する補正は行えない>
発明は発明者がその頭の中で考え出した技術的思想の創作であって抽象的なものです。
これを、文章と、必要な場合に使用する図面とにまとめて特許出願しなければなりませんが、抽象的な発明概念を文章で説明することは容易ではありません。
そこで、特許出願の際に提出していた文章、図面の記載内容を、特許出願後に、補充、訂正する手続補正を行うことが特許出願人に許されています。

ここで、特許出願で特許請求している発明の特許性(先後願、新規性、進歩性など)に関しては特許出願の時点を基準にして判断する取り扱いが行われています。
手続補正が行われた場合、補正後の内容についていつの時点を基準にして特許性を判断すればよいのか問題になります。
手続補正が行われた時点を基準にすると複数回の手続補正が行われた場合、取り扱いが複雑になります。

そこで、特許法では、手続補正が行われた場合、特許出願の時点から補正後の内容であったとする取り扱いにしています。
これを補正の遡及効といいます。

補正の遡及効によれば、手続補正によって出願時の明細書、図面に記載されていなかった新規な技術的事項が特許出願後に追加された場合であっても、機械的に、補正後の状態、すなわち、新規な技術的事項が追加されている状態で特許出願が行われていたとして取り扱われることになります。

このようになると、特許出願の時点を基準にして発明の特許性を判断しますので特許出願人以外の第三者に不利益になります。

そこで、特許出願の際に明細書、図面に記載されていなかった新規な技術的事項を特許出願後に追加する補正を行うことは禁じられています。
このような新規事項追加の補正が行われると、そのことのみをもって特許出願が拒絶される理由になります。
審査で見過ごされて特許成立していた場合には特許無効の理由になります。

このような事情ですのでご質問の改良発明を先ごろの特許出願に付け加えることはできません。

<優先権主張出願>
新規事項を追加する補正は行えないことから新たに見つかった改良、工夫などについては、新しく特許出願を行うことになります。

しかし、つい先頃に行った特許出願で特許請求している発明についての改良、工夫であり、別個に新しい特許出願を行って、2件の特許出願、2件の特許権で管理するよりも、1件の特許出願にまとめて審査を受け、特許権管理できるならばその方が便利ということもあります。

このような場合、つい先頃に行った特許出願から1年経過していないならば、新たに見つかった改良、工夫を、先頃の特許出願の内容に付け加えた新たな特許出願を、先頃に行った特許出願に基づく優先権を主張して行うことができます。
これを優先権主張出願といいます。

優先権主張出願の一例を説明すると次のようになります。
・第一回目の特許出願:2022年10月16日
明細書などに記載されている発明:a

・優先権主張出願:2023年10月16日
明細書などに記載されている発明:a、a'(a'はaの改良発明)

・第一回目の特許出願のみなし取り下げ
第一回目の特許出願は第一回目の特許出願日から1年4月が経過する2024年2月16日の時点で取り下げたものとみなされ、消滅します。

・特許出願公開:
第一回目の特許出願日(2022年10月16日)から1年6月が経過した後に優先権主張出願の内容(明細書などに発明a、a'が記載されている)が出願公開されます。

・審査請求できる期限:
優先権主張出願について審査請求できる期限は優先権主張出願の日から3年である2026年10月16日になります。

・特許庁での審査における取り扱い:
優先権主張出願について審査を受ける際、発明aについての特許要件(先後願、新規性、進歩性など)は第一回目の特許出願日である2022年10月16日を基準にして検討・判断されるという優先的な取り扱いを受け、発明a'についての特許要件は優先権主張出願日である2023年10月16日を基準にして検討・判断されます。

・特許権の存続期間の終期:
優先権主張出願について特許成立したならば、毎年、特許権を維持するための特許料(特許維持年金)を特許庁に納付することにより特許権を維持できますが、原則、「特許出願日から20年を越えない」とされている特許権存続期間の終期は、優先権主張出願日である2023年10月16日から20年が起算されます。

上記の一例で説明したように、優先権主張出願は、特許出願をする際に、既に行っていた自己の特許出願に記載していた発明を含めて包括的な発明として優先権を主張することで、その包括的な特許出願に係る発明のうち、先に出願されている発明につき、その特許審査等の基準の日又は時を先の出願の日又は時とするという優先的な取扱いを受けるものです。

技術開発の比較的初期の段階で順次生まれる基本発明及びその改良発明を随時出願し、後にこれらを一つの出願にまとめて出願することを可能にするものです。

例えば、最初の特許出願(発明a)の日から1年以内であれば、一回目の優先権主張出願で改良発明a'を追加し、その後、最初の特許出願と一回目の優先権主張出願とに基づく優先権をそれぞれ主張して二回目の優先権主張出願を行って改良発明a''を追加し、発明a、a'、a''を特許請求している1件の特許出願にまとめることが可能です。

<優先権主張出願を行う際の注意>
優先権主張出願は最初の特許出願日から一年以内でなければ行うことができません。
また、最初の特許出願の出願人と同一人でなければ行うことができず、最初の特許出願について出願後ただちに早期審査を受けたことで特許査定あるいは拒絶査定が1年以内に確定しているような場合には優先権主張出願の基礎にすることができません。

また、優先権主張出願で追加しようとする事項が先の特許出願の明細書で説明している発明の効果を補強的に支える実験・試験データであり、優先権主張出願で追加を行わなくても、先の特許出願の審査において意見書で発明の効果を主張する際の補強資料に使用すれば十分なものに過ぎないということもあります。

更に、改良発明を追加するつもりでいたところ、出願の単一性(特許法第37条)を満たさない関係の発明を追加することになって、審査の過程で分割出願(特許法第44条)を行う必要が生じ、優先権主張出願ではなく、先の出願とは別個の特許出願にしておけばよかったということも起こり得ます。

そこで、特許出願を行った後、改良発明などが誕生した場合には、その取扱いをどのようにすべきか、先の特許出願を担当している専門家である弁理士に相談することをお勧めします。

<次号のご案内>
特許出願した発明について特許庁での審査の結果を受けとることのできる時期はいつ頃になるのか、ご質問に回答します。

■ニューストピックス■
・模倣品の個人輸入の規制強化、10月1日施行
本年10月1日に改正関税法が施行され、商標権・意匠権を侵害する物品(模倣品)の輸入に対する規制が強化されました。

これまでは、個人的に使用する目的での輸入は商標法上の「業として」の要件を満たさないため、事業性のある輸入のみが規制対象でした。
しかし、増大する個人の使用目的の模倣品輸入に対応し、海外事業者が模倣品を郵送により国内に持ち込む行為を商標権等の侵害として位置付けることとなりました。

10月1日以降は、たとえ個人の使用目的であっても、それが模倣品である場合には輸入差止・没収の対象となります。
海外の通販サイトなどで商品を購入する場合に限らず、国内の通販サイトで購入した商品であっても、海外から直接送付される場合もあるため、注意が必要です。

<税関における知的財産権侵害物品の差止状況>
知的財産権を侵害する模倣品の輸入は高止まりしています。
財務省関税局は、2022年上半期(1~6月)に全国の税関で偽ブランドのバッグや衣類など模倣品の輸入を差し止めた件数は、1万2519件だったと発表しました。
11年連続で1万2000件を超えており、高水準で推移しています。

品目別では、財布やハンドバッグなどのバッグ類が3割弱の4126件、衣類が2割強の3348件と続いています。
地域別では、中国からの輸入が9131件と全体の72.9%を占め最多。
輸入形態としてはインターネット通販の普及で、国際郵便が約9割を占めています。

トイレットペーパー「3倍巻き」特許で提訴(日本製紙クレシア)
日本製紙クレシアは、従来の3倍の長さながら大きさをほぼ同じに抑えたトイレットペーパーの特許を侵害されたとして、同じ製紙会社の大王製紙に対し、製造・販売の差し止めと製品の破棄、3300万円の損害賠償などを求め、東京地裁に提訴したと発表しました。

発表によりますと、日本製紙クレシアは、従来品より長さが3倍あるトイレットペーパー『スコッティ フラワーパック 3倍長持ち』に採用されている、柔らかさを保ったまま長さを3倍にするために施している表面の凹凸の大きさ、包装、紙の質といった3つの特許技術が、大王製紙が発売する『エリエール i:na(イーナ)』によって侵害されたとしています。

これに対し、大王製紙は、「常に他社の知的財産権を侵害しないようビジネスを行っている。裁判で正当性を主張していく」とコメントしています。

日本製紙クレシアは、1ロールの長さが従来の製品より3倍長いトイレットペーパーを6年前から販売していますが、大王製紙も従来の3.2倍の長さの製品を今年4月から販売しています。

ゼンリンの住宅地図、著作物と認定(東京地裁)
地図作成大手のゼンリンが発行する住宅地図を無断で複製・頒布したとして、同社がポスティング会社に対して、著作権侵害行為の差し止めなどを求めた裁判で、東京地裁は「ゼンリンの住宅地図は著作物である」と認定し、ポスティング会社に侵害行為の差し止めと損害賠償の支払いを命じました。

一般的に地図は、現状の建物や道路等を所定の記号などによって、客観的に表現するものであるため、文学や音楽、造形美術上の著作と比べて、著作権による保護を受けるのが困難です。

一方、地図において記載すべき情報の取捨選択及びその表示方法に関しては、地図作成者の個性、学識、経験等が重要な役割を果たし得るものであるため、創作性が表れます。

ゼンリンの住宅地図について、東京地裁は「住宅地図に必要と考える情報を取捨選択し、より見やすいと考える方法により表示した」として、同社の住宅地図商品は、著作権法上の「著作物」(思想または感情を創作的に表現したもの)にあたると認定しました。

「つながる車」の特許料支払いで合意(日本の自動車メーカー)
インターネットに接続して外部と常時通信できる「コネクテッドカー(つながる車)」をめぐり、トヨタ自動車や日産自動車などは、「コネクテッドカー(つながる車)」に必要な通信技術の特許料を支払う契約を米国企業と締結しました。

自動車業界では車をインターネットにつなぎ、外部と常時通信して自動運転をスムーズに行ったり、ソフトウエアのアップデートを行ったりできる「コネクテッドカー(つながる車)」の開発が急ピッチで進んでいます。

こうした中、フィンランドのノキアなど、各国の通信関連企業が保有する特許の交渉窓口となっている米国企業「アバンシ」は、トヨタ自動車やホンダ、日産自動車など、日本の自動車メーカーとライセンス契約を結んだと発表しました。

自動車各社は「コネクテッドカー(つながる車)」向けの特許技術を使う代わりに「アバンシ」に対し、1台当たり15ドルから20ドルの実施料を支払うことで合意したということです。

既に多くのメーカーがコネクテッドカーを開発・販売しており、富士経済の調査によると、日本では2019年に340万台販売されました。
2035年にはヨーロッパや中国で販売台数が2,000万台を超えると予測されています。

代理権の証明、委任状の写しも可能(特許庁)
特許庁は、行政手続の利便性向上への対応として、委任状の原本の写し(委任状の写し)についても、代理権を証明する書面として許容することを公表しました。
委任状の原本に加え、委任状の写しの提出により、代理権の証明が可能になります。

また、特許庁は、委任状のデータをプリントしたものでも代理権を証明する書面として受理するとしています。
今後は、出願書類と同様にオンラインでの委任状提出もできるよう、検討を進めています。

なお、PCT国際出願の場合は、国内手続と異なる運用となりますので、詳細は特許庁のホームページをご確認ください。

▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

<編集後記>
先月、「ストロベリー戦争 弁理士・大鳳未来(南原詠著)」という小説が出版されました。
新品種のいちごの商標をめぐる事件をテーマにしたミステリー小説です。
仕事で商標に関わっている方にとっては特に楽しめる作品です。

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発行元 藤川IP特許事務所
弁理士 藤川敬知
〒468-0026 名古屋市天白区土原4-157
TEL:052-888-1635 FAX:052-805-9480
E-mail:fujikawa@fujikawa-ip.com

<名駅サテライトオフィス>
〒451-0045 名古屋市西区名駅1-1-17
名駅ダイヤメイテツビル11階エキスパートオフィス名古屋内

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