藤川IP特許事務所メールマガジン 2023年5月号
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◇◆◇ 藤川IP特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
2023年5月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
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┃ ☆知財講座☆
┃(16)特許出願の明細書の記載
┃
┃ ☆ニューストピックス☆
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┃ ■AIと知的財産権(AIが創作した著作物や発明の権利)
┃ ■「特許庁ステータスレポート2023」を公表
┃ ■小野薬品工業、がん治療薬の特許をめぐり米研究所と和解
┃ ■日本の海賊版の被害額、年間2兆円と推計(CODA)
┃ ■助成金情報 令和5年度「中小企業等外国出願支援事業」
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AI(人工知能)を使った対話型ソフト「チャットGPT」の活用が急速に広がっていますが、「チャットGPT」に代表されるAIの利用に関しては、資料作成やデータ収集などの効率化が図れる一方で、著作権などの知的財産権の課題も浮かび上がっています。
今号では、AIと知的財産権(著作権・特許権)について取り上げます。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(16)特許出願の明細書の記載
【質問】
特許出願を行うときには特許取得を希望している発明の内容を誰でもが再現できるように文章、図面で説明しなければならないと聞いています。
そうすると、当社で秘密にしておきたい技術事項もすべて文章、図面で説明しないと特許出願を行うことができないのでしょうか?
【回答】
特許出願人が特許権取得を希望している発明を誰でもが再現できる程度に十分な説明を文章(と、必要な場合には図面と)で行うことが特許出願の際に要求されます。
この「特許出願人が特許権取得を希望している発明を誰でもが再現できる程度に十分な説明」というのはどのようなものかご疑問にお答えします。
<特許出願を行う発明>
新しく開発した技術内容が、その時点の業界、同業他社の技術動向からすれば、いずれ同業他社も気づくことになると思われるようなものである場合には、特許出願を行うことが望ましいと思われます。
いずれ同業他社も気づくと思われる技術内容ならば、先に出願を行って自社で特許権取得する、あるいは、後から特許出願を行う同業他社には特許権成立しないようにすることが望ましいからです。
また、新しく開発した技術内容を採用した新商品を市場に提供したときに、同業他社がそれを購入、等して分析することで、新しく開発した技術内容がどのようなものであるか把握できてしまう場合にも、特許出願を行うことが望ましいと思われます。市場に投入した新商品を分析した同業他社が追随する商品を後追いで市場に投入してきたときに「特許権侵害になります」として排除できる可能性が無くなってしまうからです。
一方、上述した事情などに該当しない場合には、ノウハウとして会社の営業秘密で保護を図る、あるいは、先使用権での保護を検討することがあります。
営業秘密の保護(不正競争防止法第2条第1項第4号、等)、先使用権(特許法第79条)については経済産業省や特許庁が発行しているパンフレット、等をご参照ください。
「営業秘密~営業秘密を守り活用する~」経済産業省
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
「先使用権制度について」特許庁
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
<特許出願で発明を詳細に説明するのは何故か>
特許制度は、新しい技術(発明)を開発し、それを特許出願によって社会に公開した者に対し、特許庁での審査の結果、新規性・進歩性などの特許性を備えていると認められたときに、特許出願日から原則として20年を越えないという所定の期間、特許権という独占排他権を付与することで発明の保護を図り、他方で、特許出願によって社会に公開された新しい技術内容を特許出願人・特許権者以外の第三者に知らせ、その新しい技術内容を利用する機会を与えて産業の発達を図るものです(特許法第1条)。
発明のこのような保護と利用は、特許出願人が特許出願の際に、特許取得を希望する発明を文章、図面で説明するべく提出する明細書、特許請求の範囲、必要な場合の図面によって図られることになります。
「特許請求の範囲」の記載によって特許権者が独占排他的に行うことのできる技術的範囲が確定します。
「明細書」と、必要な場合の「図面」(機械系の特許出願では発明の説明が容易になるので必ず図面を提出することが一般的です)とによって、新しい技術(発明)が社会に知られ、第三者に利用する機会を与えることになります。
この利用には、特許出願後18カ月が経過してから特許庁によって発行される特許出願公開公報の記載内容(明細書、図面)を参照することで行う技術開発・研究での利用と、特許権消滅後に特許請求されている発明を誰でもが自由に実施(再現)することによる利用とがあります。
「産業の発達」という特許法の目的からすれば、特許権消滅後に特許請求されている発明を誰でもが自由に実施(再現)することによる利用は大切です。そこで、特許出願の際に提出する明細書は「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならない、とされています(特許法第36条第4項第1号)。これは、「実施可能要件」と呼ばれています。
「実施可能要件」が具備されていない場合、たとえ、新規性・進歩性といった特許要件を具備している発明であっても、拒絶されて特許成立しません。
<特許審査基準で説明されている実施可能要件>
特許出願の際に提出する明細書に要求される「実施可能要件」に関して、特許審査基準では、特許出願人が特許取得を希望する発明のカテゴリーが「機械・器具」、「装置」、「材」、「剤」などの「物」である場合、物の使用方法、測定方法、制御方法などの物を生産する方法以外の「方法(いわゆる単純方法)」である場合、物の製造方法、物の組立方法、物の加工方法などの「物を生産する方法」である場合の三態様に分けて、それぞれ、次のように説明しています。
<「物」の発明>
その物を作れ、かつ、その物を使用できるように以下の(1)~(3)の条件を満たすように説明を行う。
(1)「物の発明」について明確に説明されていること
(2)「その物を作れる」ように記載されていること
(3)「その物を使用できる」ように記載されていること
<「方法」の発明>
その方法を使用できるように以下の(1)、(2)の条件を満たすように説明を行う。
(1)「方法の発明」について明確に説明されていること
(2)「その方法を使用できる」ように記載されていること
<「物を生産する方法」の発明>
その方法により物を生産できるように、以下の(1)、(2)の条件を満たすように説明を行う。
(1) 「物を生産する方法の発明」について明確に説明されていること
(2) 「その方法により物を生産できる」ように記載されていること
明細書の記載要件(特許法第36条)に関しては、運用をより明確化し、具体的な事例に基づいて記載要件の判断、出願人の対応等について説明するとして特許庁から事例集が公表されています。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
<実際の特許出願での明細書の記載>
上述した特許審査基準で要求されている条件からしますと「自社で秘密にしておきたい技術事項もすべて文章、図面で説明しないと特許出願を行うことができないのか?」とご心配されるかもしれません。
しかし、発明は、「木は水に浮かぶ」、「水は高いところから低いところに流れる」等の自然法則を利用した技術的思想の創作です。自然法則を利用していますから、原因と結果との間に、技術者であればだれでもが理解できる因果関係が必ず存在しているのが発明です。
また、特許出願で特許請求されている発明が誰でも再現できる程度に明細書、図面に記載されているかどうかを判断する者は、明細書、図面の記載だけでなく、その特許出願の出願時点における技術常識をも踏まえて判断します。
更に、特許出願を行う発明は、いずれ同業他社も気づくことになると思われるもの、発明が採用されている新製品を分析すれば内容を把握できるもの等であることが一般的です。
そこで、これらの点を踏まえて特許出願の明細書、図面を準備するならば、「自社で秘密にしておきたい技術事項をすべて文章、図面で説明しないと特許出願できない」ということはあまりご心配されることなく特許出願の明細書、図面を準備できると思われます。
詳しくは特許出願の明細書等を準備する専門家である弁理士にお問い合わせください。
<次号の予定>
次回は先使用権制度についてのご質問への回答を紹介します。
■ニューストピックス■
■AIと知的財産権(著作権・特許権)■
~AIが生み出した著作物や発明の権利は?~
政府はAI(人工知能)を使った対話型ソフト「チャットGPT」を行政分野で活用することを検討しています。また、全国の自治体や企業でも「チャットGPT」」の活用を模索する動きが広がっています。
「チャットGPT」は、米国の「オープンAI」というベンチャー企業が開発したAIです。膨大なデータを学習し、利用者が質問をすると、すぐに自然な文章で回答する高度な性能を備え、国内でも急速に利用が広がっています。
しかし、「チャットGPT」に代表されるAIの利用に関しては、資料作成やデータ収集などの効率化が図れる一方で、著作権などの知的財産権の課題も浮かび上がっています。
【思想・感情を創作的に表現したもの】
現行の著作権法では、著作物とは「思想・感情を創作的に表現したもの」と定義されているため、自ら思考や感情を持たないAIが生み出した創作物は著作物でなない、つまり、著作権は発生しないということになります。
AI創作物については、政府の「知的財産推進計画2019」では、次のように記載されています。
①利用者に創作的寄与等が認められれば「AIを道具として利用した創作」と整理でき、当該AI生成物には著作物性が認められる
②利用者が(創作的寄与が認められないような)簡単な指示を入力した結果出力された生成物はAIが自律的に生成した「AI創作物」であると整理でき、現行の著作権法上は著作物と認められない
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
このように、現行の日本の著作権法ではAIが自動的に生成した「AI創作物」については著作物とは認められませんが、その作品の表現にどれだけ人間が関与しているかによっては著作権が発生する場合もあります。
例えば、作者が自分の意図するものを試行錯誤してAIに描かせたり、AI創作物に人が加工、修正等など行えば、人の関与があるため、「AIを利用して人間が主体となって創作した」と認められれば、著作権が発生します。反対にAIに簡単な単語や文章を入力して、たまたま生成された創作物には著作権はないとされています。
【発明者は人間に限る】
特許で保護される「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と特許法で定義されています。
「思想」や「創作」は、人間だけが持つものなので、AIが生み出した創作物は、「発明ではない」、つまり、特許権は与えられません。
特許庁は、「発明者」は機械ではなく、人間でなければならないとの判断を示しています。
この発明者に関して、特許庁は、「発明者の表示は、自然人に限られるものと解しており、願書等に記載する発明者の欄において自然人ではないと認められる記載、例えば人工知能(AI)等を含む機械を発明者として記載することは認めていません」と見解を示しています。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
そのため、発明者の欄にAIが記載された特許出願がなされた場合、審査では発明者として自然人以外のものが記載されていることを理由とする補正指令が通知され、補正により方式違反が解消されない場合、特許出願は却下されます。
AI技術の進化のスピードに対して、現行法では不透明な部分もあります。そのため、特許庁では、AIと知的財産権をめぐる法整備について検討を進めています。今後、新たなルールが整備される可能性があるため、動向に注意する必要があります。
●「特許庁ステータスレポート2023」を公表(特許庁)
「特許庁ステータスレポート2023」が公表されました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
ステータスレポートは、特許庁が最新の知的財産権 (特許、実用新案、意匠、商標) の出願、審査、訴訟などに関する統計情報を取りまとめた報告書です。ステータスレポートの中から2022年の特許・意匠・商標の出願状況と審査期間を紹介します。
■出願件数■
【特許】特許出願件数:289,530件。国際特許出願件数75,892件、国際特許出願を除く特許出願件数213,638件。
【意匠】意匠登録出願件数:31,711件。国際意匠登録出願件数3,353件、国際意匠登録出願を除く意匠登録出願件数28,358件。
【商標】商標登録出願件数:170,275件。国際商標登録出願件数19,769件、国際商標登録出願を除く商標登録出願件数150,506件。
■審査期間■
【特許】スーパー早期審査のFA(First Action)期間:0.6月。早期審査のFA期間:2.3月。通常審査のFA期間:10.1月。請求から権利化までの平均期間:15.2月。
【意匠】早期審査のFA期間:1.9月。通常審査のFA期間:6.4月。出願から権利化までの平均係属期間:7.4月。
【商標】早期審査のFA期間:1.9月。通常審査のFA期間:8.0月。出願から権利化までの平均期間:9.6月。
※FA期間とは、審査請求から一次審査結果の通知までの平均月数を示します。
●小野薬品工業、がん治療薬の特許をめぐり米研究所と和解
小野薬品工業は、がん免疫治療薬「オプジーボ」関連の特許を巡る訴訟で、米研究所と全面的に和解したと発表しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
発表によると、オプジーボの特許権を持つ小野薬品と米ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)が米ダナファーバーがん研究所に契約一時金を支払うことで和解したということです。金額など和解条件の詳細は非公表としています。
ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑・京都大特別教授と米研究所の博士2人は、オプジーボに関する論文を共同執筆しており、米連邦地裁は2人を共同発明者に追加すると認定。これを受け、米研究所は特許収入の一部を受け取る権利を主張し、提訴していました。
オプジーボの特許料をめぐっては、小野薬品が米製薬会社メルクとの特許侵害訴訟の和解で受け取った金額に対し、本庶氏側への分配金が少ないことなどを理由に訴訟となった経緯があります。小野薬品は、2021年に本庶氏に50億円を支払い、京都大学に設立した基金に230億円を寄付して和解しています。
●日本の海賊版の被害額、年間2兆円と推計(CODA)
日本の出版社やテレビ局などが加盟する一般社団法人「コンテンツ海外流通促進機構(CODA)」は、インターネット上の漫画やアニメ、ゲームなど日本発コンテンツの海賊版による被害額の推計が約2兆円に上るとの調査結果をまとめました。4年前の調査から約5倍に増え、急速に被害が拡大している実態が判明しました。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
近年、アニメや漫画などをネット上で無断で公開する「海賊版サイト」は、日本から海外に拠点を移す動きが加速していて、今年に入って中国やブラジルでは現地当局による摘発が相次いでいます。
被害が拡大した要因について、CODAでは、「スマートフォンの通信環境が向上したことに加え、コロナ禍による巣ごもり需要が高まったこと」などと分析していて、今後も被害は広がるとみて対策を強化することにしています。
◆令和5年度「中小企業等外国出願支援事業」(愛知県)の概要◆
公益財団法人あいち産業振興機構では、外国へ特許、実用新案、意匠、商標の出願を予定している愛知県内の中小企業等に対し、外国出願にかかる費用の半額を助成する「中小企業等外国出願支援事業」を毎年実施しています。令和5年度の応募受付が5月中旬(5月15日前後を予定)から開始となります。
【補助対象となる出願】
申請時に既に国内で出願を行っており、採択後、同じ内容で外国に出願予定のもの(国内出願と予定している外国出願の申請者が同一であること)等
【補助対象経費】
外国特許庁への出願料、外国出願に要する代理人費用(現地・国内)、翻訳費用など
【補助率】
補助対象経費の2分の1以内
【補助上限額】
1企業あたり:300万円(複数案件の場合)
1案件あたり:特許出願:150万円
実用新案・意匠・商標出願:60万円
冒認出願対策目的の商標出願:30万円
詳細は公益財団法人あいち産業振興機構HPをご参照下さい。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
<編集後記>
GWが終わると間もなく、外国出願補助金申請の時期が始まります。
補助金のご利用を希望される皆様は準備をお早めに。
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発行元 藤川IP特許事務所
弁理士 藤川敬知
〒468-0026 名古屋市天白区土原4-157
TEL:052-888-1635 FAX:052-805-9480
E-mail:fujikawa@fujikawa-ip.com
<名駅サテライトオフィス>
〒451-0045 名古屋市西区名駅1-1-17
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