藤川IP特許事務所メールマガジン 2024年12月号
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◇◆◇ 藤川IP特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
2024年12月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
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┃ ☆知財講座☆
┃(35)「特許出願済」の紹介と留意事項
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┃ ☆ニューストピックス☆
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┃ ■「知的財産取引に関するガイドライン」を改正(中小企業庁)
┃ ■AI関連発明の適用分野が拡大(特許庁)
┃ ■映画「シン・ゴジラ」の立体商標の登録を認定(知財高裁)
┃ ■文字起こしの「ネタバレサイト」で初の逮捕者(宮城県警)
┃ ■特許出願非公開制度の解説漫画を公開(特許庁)
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中小企業庁は、知的財産に係る取引の基本的な考え方などを示した「知的財産取引に関するガイドライン」を改正しました。
今回の改正では、大企業が知的財産権上の責任を中小企業に一方的に転嫁する行為(責任転嫁行為)を禁止することなどが明確化されました。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(35)「特許出願済」の紹介と留意事項
【質問】
特許出願を行ったので、その内容を会社のホームページで紹介したいと考えています。何か気を付ける必要はありますか?
【回答】
会社で開発し、新製品に採用することになった新技術を特許出願したので新製品の発売開始とともに特許出願を行っていることを会社のホームページなどで紹介することは、新商品が特許出願を行っている新技術を採用したものであることを積極的に宣伝したり、同業者が直ちに後追い商品を市場に出すことを牽制するという意味で有用なことと思われます。ただし、あまりに詳細に発明を説明してしまうと後で困ることが起こり得ます。どのような点に注意を払う必要があるか説明します。
<自社が行う新たな特許出願の可能性を考慮する>
新製品に採用されている特許出願に係る発明を製品説明書や会社ホームページに掲載した場合、その内容は、その後に行う自社の特許出願についての審査で先行技術に引用されます。
特許出願前に既に新規性を喪失することになっていると認められる情報は特許法第29条第1項に例示列挙されています。
「特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明」は新規性を失った発明(特許法第29条第1項第3号)になりますが、会社が、新製品紹介のために作成・配布している製品カタログ・説明書などはここでの刊行物になります。特許出願した発明の内容を、新製品紹介のために作成・配布している製品カタログ・説明書に記載しておれば、そこに記載された発明は製品カタログ・説明書が頒布された時点で新規性を失った発明になります。
同様に、「特許出願前に会社のホームページに掲載した発明」は新規性を失った発明(特許法第29条第1項第3号)になります。
そこで、特許出願した発明の内容を、会社のホームページに掲載した新製品紹介ページに記載しておれば、そこに記載された発明は会社のホームページに情報がアップされた時点で新規性を失った発明になります。
新製品の発売に合わせて、その前に特許出願を行っていますから、特許出願後に上述した製品カタログ・説明書の頒布や、会社のホームページへの情報アップを行っても、特許出願済の発明の新規性が否定されることにはなりません。
しかし、特許出願後であっても、特許出願済の新技術についての改良は積み重ねられます。
そして、その結果、改良発明などの新しい発明が完成することがあります。その場合、最初の特許出願から1年以内であれば、最初の特許出願の内容をそっくりそのまま利用し、完成した改良発明を追加する優先権主張の新しい特許出願を最初の特許出願を基礎として行うことが可能です。
また、最初の特許出願を基礎とした優先権主張の新しい特許出願に乗り換えるのではなく、別個の新しい特許出願を行って、完成した改良発明などの新しい発明についての特許取得を目指すこともできます。
ただし、このように優先権主張出願を行ったり、別個の新しい特許出願を行う場合、上述したように、配布済の製品カタログ・説明書に記載されている内容や、会社ホームページにアップされている内容は、優先権主張出願で追加した発明や、別個の新しい特許出願で特許請求する発明についての新規性・進歩性(特許法第29条第1項、第2項)を検討・判断する上での先行技術文献になります。
上述した優先権主張の新しい特許出願や、別個の新しい特許出願が行われるより前に上述した製品カタログ・説明書が頒布され、会社ホームページに情報がアップされているからです。
たとえ、自社の特許出願に対する、自社作成・配布に係る製品カタログ・説明書の記載内容、自社ホームページの掲載内容であっても、新規性・進歩性(特許法第29条第1項、第2項)を検討・判断する上での先行技術文献に使用されます。
上述した優先権主張出願や、別個の新しい特許出願が、製品カタログ・説明書の配布から1年以内、自社ホームページへの情報アップから1年以内に行われるのであれば、特許出願の際に、製品カタログ・説明書の配布、自社ホームページへの情報アップに関して「新規性喪失の例外適用」の申請(特許法第30条)を行うことが可能ですが、製品カタログ・説明書の配布、自社ホームページへの情報アップから1年を経過してしまうと新規性喪失の例外適用を受けることはできません。
特許出願の内容は、特許出願後18カ月が経過した時点で特許出願公開により特許庁から公表され、同業他社の目に触れるようになります。
特許出願公開公報の内容は同業他社の目に触れるわけですから、特許出願公開が行われた後に発行する製品カタログ・説明書や、会社ホームページにアップする情報には特許出願公開公報に記載されているのと同レベルの内容を盛り込んでも不利益は生じないことになります。
しかし、特許出願公開公報が発行される前は、自社の製品カタログ・説明書に記載したり、自社のホームページにアップした情報は、製品カタログ・説明書発行後あるいは自社ホームページへの情報アップ後に行う自社の新たな特許出願で特許請求する発明の新規性・進歩性(特許法第29条第1項、第2項)を否定する先行技術文献に引用される可能性があることを考慮する必要があります。
<同業他社による研究・開発の材料になる可能性を考慮する>
「特許制度は、新しい技術を公開した者に対し、その代償として一定の期間、一定の条件の下に特許権という独占的な権利を付与し、他方、第三者に対してはこの公開された発明を利用する機会を与える(特許権の存続期間中においては権利者の許諾を得ることにより、また存続期間の経過後においては全く自由に)もの」で、「このように権利を付与された者と、その権利の制約を受ける第三者の利用との間に調和を求めつつ技術の進歩を図り、産業の発達に寄与していくもの」です(工業所有権法逐条解説 特許法第1条)。
そこで、特許出願を行う場合、出願内容は出願日から18カ月(=1年半)経過した時点で特許庁から特許出願公開公報として公表され、同業他社は、特許出願公開公報に掲載されている内容を、新たな研究開発、技術開発の資料に使用できるようになる、という説明を受けたことがあると思います。
会社が発行する製品カタログ・説明書に記載する内容や、自社のホームページにアップする情報も、特許出願公開公報の記載内容と同じく、同業他社が行う研究開発、技術開発の資料になります。
会社で開発し、新製品に採用することになった新規技術を特許出願したので新製品の発売開始とともに特許出願を行っていることを新製品の製品カタログ・説明書に記載したり、会社のホームページなどで紹介する場合であっても、製品カタログ・説明書、会社のホームページに掲載された情報は、その後に同業他社が行う、新たな研究開発、技術開発の資料になることを考慮しておく必要があります。
<特許出願で提出した「要約書」の「課題」欄の記載を利用する>
上述したように、自社が発行する製品カタログ・説明書の記載内容や、会社のホームページにアップしている情報は、その後に行う自社の特許出願に対する新規性・進歩性否定の先行技術文献に引用されたり、同業他社による研究開発・技術開発に対する有力な情報提供になることが起こらないように注意する必要があります。
そこで、製品カタログ・説明書、会社のホームページなどに記載する特許出願済の発明に関する情報紹介として、特許出願の際に特許庁へ提出している「要約書」の「課題」欄の記載を利用することが考えられます。
特許出願の際に特許庁へ提出している「要約書」の内容は、専ら技術情報として用いられることをその目的としていて、特許出願公開公報が発行される際に、特許出願日、特許出願番号、特許出願人の氏名・名称、発明者の氏名などの書誌的情報とともに、公報の第1ページ(フロントページ)に掲載されます。
この「要約書」は、「課題」欄と、「解決手段」欄からなる400文字程度の簡潔な文章です。「課題」欄には特許出願で特許取得を目指している発明が解決しようとしている「課題」が記載され、「解決手段」欄には、この「課題」を解決するために特許取得を目指している発明が採用した手段、すなわち、発明のポイントが記載されています。
そこで、「解決手段」欄の記載は、特許出願公開公報が発行されるまで秘密にしておくことが望ましいですが、特許出願で特許取得を目指している発明によって「課題」が解決されることになるわけですから、特許出願済の発明を紹介する際には「課題」欄の文章を利用して、「〇〇を解決できるようになった◎◎。」のように簡潔に紹介を行うことが考えられます(〇〇のところは、例えば、「課題」欄の文章、◎◎のところは、例えば、特許出願に係る発明の名称。)。
■ニューストピックス■
●「知的財産取引に関するガイドライン」を改正(中小企業庁)
中小企業庁は、知的財産に係る取引における基本的な考え方などを示した「知的財産取引に関するガイドライン」を改正しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
同ガイドラインは、不適正な取引慣行の抑止のために策定されたもので、今回の改正では、大企業が知的財産権上の責任を中小企業に一方的に転嫁する行為(責任転嫁行為)を禁止することなどが明確化されました。
<主な改正事項>
改正内容は、実際の取引において発生し得るシチュエーションを想定しつつ、状況に応じた適切な責任分担の考え方や、帰責事由がない受注者が発注者に対して行使すべき権利などについて明確化しました。
・第三者の知的財産権を侵害しないことに係る保証責任や、その保証に当たっての調査費用などの負担については、発注者・受注者が果たした役割などに応じて適切に分担し、受注者に一方的に転嫁してはならない
・発注者から受注者への「指示」は、口頭での助言や情報提供のような正式な書面によらない形式のものも含み得る
・受注者に帰責事由がないにもかかわらず、受注者が第三者から訴えられた場合には、発注者は、受注者からの目的物の仕様決定に係る経緯などの開示要請や、第三者との間に生じた損害賠償についての求償などに応じるべきである
また、中小企業庁では、知財取引を行う際の「契約書のひな形」として契約種別ごとの契約条項のサンプル(秘密保持契約・共同開発契約・開発委託契約・製造委託契約)も公表していますが、今回、「契約書のひな形」も併せて改正しました。
<契約書ひな形の改正事項>
・責任転嫁行為を含む契約が締結されることを防止するに当たって、中小企業が参照すべきモデル条項を新設
●AI関連発明の適用分野が拡大(特許庁)
特許庁は、国内外のAIに関する特許出願動向の調査報告書を発表しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
報告書によると、AI関連発明の出願件数は2014年以降急激に増加しており、2022年の出願件数は約10,300件でした。
AI関連発明は、AIコア発明に加え、AIを各技術分野に適用した発明を含めたものと定義しており、近年、AI適用技術が急増しています。
AI関連発明の適用分野をみると、医学診断、制御系・調整系一般、交通制御、画像処理、ビジネス、情報一般、音声処理、マニピュレータ、材料分析、情報検索・推薦、映像処理、自然言語処理など多岐にわたっています。特に画像処理の出願件数の増加は顕著で、AIコア技術よりも多くなっています。
また、主分類の数も増加傾向にあり、AI技術の適用先が拡大していることがうかがえます。
●映画「シン・ゴジラ」の立体商標の登録を認定(知財高裁)
特許庁が「商標登録を認めることができない」とした映画「シン・ゴジラ」の立体的形状からなる商標(立体商標)について、知財高裁は「登録は認められるべきだ」とする判決を下しました(令和6年10月30日)。
知財高裁 令和6年(行ケ)第10047号 拒絶審決取消請求事件
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
商標登録が認められるべきとされたのは以下の立体商標です。
商願2020‐120003号の商標出願公報
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
本願(商願2020‐120003号)は、商品区分の第28類「縫いぐるみ、アクションフィギュア、その他のおもちゃ、人形」を指定商品とする、シン・ゴジラの立体的形状についての商標登録出願です。
<特許庁の審決の概要>
特許庁では、本願商標は(「その商品の品質、形状などを普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は商標登録を受けることができない」という)商標法3条1項3号に該当するものであって、同法第3条2項の規定(商標法3条1項3号に該当する商標であっても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものについては、商標法3条1項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる)の適用を受け得るものではない、として商標登録を認めることができないという拒絶審決が下されていました。
<商標法3条1項3号についての知財高裁の判断>
知財高裁は、「本願商標は、『縫いぐるみ、アクションフィギュア、その他おもちゃ、人形』という本願の指定商品の機能や、美観の発揮の範囲において選択されるものにすぎないというべきであり、商標法3条1項3号に該当する」として、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした特許庁の判断に誤りはない、としました。
<商標法3条2項についての知財高裁の判断>
一方、本願商標について、商標法第3条2項の規定は適用されないとした特許庁判断は、概略、以下の理由により誤りであるとして特許庁の拒絶審決を取消ました。
本願商標は、映画「シン・ゴジラ」(平成28年)に登場する怪獣「ゴジラ」の第4形態に対応するものである。
商標法3条2項の「使用」の直接の対象はシン・ゴジラの立体的形状に限られるとしても、その結果「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる」に至ったかどうかの判断に際して、「シン・ゴジラ」に連なる映画「ゴジラ」シリーズ全体が需要者の認識に及ぼす影響を考慮することは、何ら妨げられるものではなく、むしろ必要なことというべきである。
映画「シン・ゴジラ」は、平成28年7月に公開されると、記録的な大ヒットとなり、本願商標に係る使用商品だけでも、売上数量102万個、売上額約26億5000万円を記録するなど、本件審決時までの約8年間に、本願の指定商品に集中的に使用された。
シン・ゴジラの立体的形状は、映画「シン・ゴジラ」の公開以前から、本願の指定商品の需要者である一般消費者において、原告の提供するキャラクターとして広く認識されていたことが優に認められる。
令和3年9月実施の全国の15歳~69歳の男女を対象とするアンケート調査において、本願商標の立体的形状の写真を示して「何をモデルにしたフィギュアだと思うか」との質問に対する自由回答で、「ゴジラ」又は「シン・ゴジラ」と回答した者が64.4%とされ、極めて高い認知度が示され、その回答結果は、本願指定商品の需要者(一般消費者)の間でのシン・ゴジラの立体的形状の著名性を示すものといえる。
以上を総合すれば、本願商標については、その指定商品に使用された結果、需要者である一般消費者が原告の業務に係る商品であることを認識できるに至ったものと認めることができる。
<今後の見通し>
本願に関しては、これから特許庁へ戻って拒絶査定不服審判(不服2021-11555号)が再開され、今回の知財高裁判決に沿って商標登録が認められるものと思われます。
●文字起こしの「ネタバレサイト」で初の逮捕者(宮城県警)
人気アニメや映画のストーリーや登場人物のセリフなどを文字に起こし、インターネット上に無断で公開したとして、宮城県警は、サイト運営会社の関係者3人を逮捕しました。大手出版社など計12社の著作権を侵害した疑いです。コンテンツ海外流通促進機構(CODA)によると、文字起こしの「ネタバレサイト」の運営をめぐり、関係者が逮捕されるのは全国で初めてです。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
発表によると、3人は2023~24年、映画の作品中の登場人物名、セリフや場面展開などのストーリー全体の克明な内容を文章に起こし、関連画像と共にサイトに掲載していました。これにより、多くのアクセスを集め、広告収入を得ていたとされています。
●特許出願非公開制度の解説漫画を公開(特許庁)
特許庁は、令和6年5月1日より経済安全保障推進法に基づいて、特許出願非公開制度が開始されたことに伴い、同制度のポイントを解説する漫画を公開しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
内容は「特許出願非公開制度の概要」と「外国出願に関する留意事項」で構成。漫画は、特許庁の職員が作成したもので、特許の専門家でない方に対してもより分かりやすく解説することを目指したとしています。
<編集後記>
【今月の一冊】『チェックリストでわかる 実務家・企業のためのスタートアップ法務』(岡本直也著、日本加除出版発行)スタートアップに必要な事柄が網羅的且つ具体的に書かれています。
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