藤川IP特許事務所メールマガジン 2025年7月号
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◇◆◇ 藤川IP特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
2025年7月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
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┃ ☆知財講座☆
┃(42)先使用権(3) 公証制度・タイムスタンプの利用
┃
┃ ☆ニューストピックス☆
┃
┃ ■「知的財産推進計画2025」を決定(政府)
┃ ■AIが作成した商標登録、現行制度で可否を判断(特許庁)
┃ ■「セキュリティ・クリアランス」法が施行、運用開始(政府)
┃ ■「AI新法」が成立、研究開発・活用を推進(政府)
┃ ■偽キャラクターグッズ対策委員会を発足(CODA)
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政府は、知的財産に関する今年の戦略をまとめた「知的財産推進計画2025」を決定しました。
同計画では、AI技術の進歩と知的財産権の保護の両立を目指す方針が示されたほか、日本の知的財産の国際競争力を高め、国際的なランキングで4位以内を目指すことなどが盛り込まれました。
また、中小企業関連では、中小企業を取り巻く課題とその対応のための知財面からの支援策なども掲載されています。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(42)先使用権(3) 公証制度・タイムスタンプの利用
先使用権に関して(1)先使用権の成立が認められるための条件、(2)先使用権の成立を立証する資料について、前々号、前号で説明しました。
これまで説明してきたように、先使用権は「特許権侵害である」とする特許権者からの特許権侵害差止請求訴訟において、抗弁として主張、立証し、裁判所で認めてもらうものです。そこで、「先使用権の成立を立証する資料」は、裁判所が納得するような客観性のあるものでなければなりません。
特許庁が発行している「先使用権~あなたの国内事業を守る~」という冊子(平成28年(2016年)7月発行)(以下「特許庁発行冊子」といいます。)では、先使用権の成立を立証する資料の証拠力を高める手法の一つとして、公証制度、タイムスタンプが紹介されています。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
今号では、この公証制度、タイムスタンプを紹介します。
1.公証制度
私人(個人又は会社その他の法人)の署名又は記名押印のある私文書(=「私署証書」)に対して公証人が確定日付を付与したり、私署証書を公証人が認証したり、公証人が公正証書を作成する等によって、法律関係や事実の明確化、文書の証拠力の確保を図り、私人の法律的地位の安定や、紛争の予防を図ろうとするものが公証制度です。
日本公証人連合会 http://www.koshonin.gr.jp/
先使用権の成立を立証する各種の証拠を保全する上で公証制度が有効であると考えられています。
公証役場の公証人により作成を受け得るものとして以下が特許庁発行冊子に紹介されています。
(1)確定日付
私署証書に、公証人役場で、確定日付印を押印してもらうことで、その私署証書が、その日付の日に存在していたことを証明できます。
公証役場で確定日付を受けている私署証書は裁判において証拠力を有します。
確定日付を付与してもらえる文書は、私署証書=私人(個人又は会社その他の法人)の署名又は記名押印のある私文書ですから、一般的に、企業で作成されている多くの文書は、確定日付を付与してもらえる対象になります。
複数の文書や、製品、映像や実験データ等が入ったDVDなどを、封筒や段ボールに入れて封印し、封入されている内容物についての説明文を記載した私署証書に確定日付を付与してもらい、それを封筒や段ボールの継ぎ目を隠すよう貼付し、貼付した私署証書と封筒や段ボールとの境目に確定日付印で契印(割印)をしてもらうこともできます。
このようにすることで、封入した製品の開発が、確定日付の日に実際に行われていたことを証明する証拠になります。
(2)事実実験公正証書
事実実験公正証書は、公証人が五感の作用で直接体験した事実に基づいて作成する公正証書です。
例えば、工場で実施している製造方法について、公証人を工場に招き、使用している原材料、設備の構成・構造、動作状況、製造工程などについて、直接、見てもらい、公証人が認識した結果を書面化して事実実験公正証書を作成してもらうものです。自社の工場において、製造方法が、事実実験公正証書が作成された日に実施されていたことを証明する証拠になります。
(3)私署証書の認証
私署証書(=私人(個人又は会社その他の法人)の署名又は記名押印のある私文書)の認証とは、認証対象文書の署名又は記名押印が作成名義人によってされたことを公証人が証明するものです。
私署証書の認証には次の3種類があります。
ⅰ)作成名義人が公証人の面前で私署証書に署名又は押印をする「目撃認証」
ⅱ)作成名義人が公証人の面前で私署証書の署名又は押印を自認する「自認認証」
ⅲ)作成名義人の代理人が公証人の面前で私署証書の署名又は押印が作成名義人のものであることを自認する「代理自認」
認証日における証書の存在に加え、作成名義人が署名又は記名押印をしたとの事実が認められ、文書の成立の真正についての証拠力が与えられる点において、上述した確定日付と比べて、証拠力が高くなると考えられています。
私署証書の認証の対象は、私人(個人又は会社その他の法人)の署名又は記名押印のある私文書(=「私署証書」)に限られますが、特許庁発行冊子では次のような例が紹介されています。
第一ステップとして、研究経過報告書や技術成果報告書、製品の取扱説明書、パンフレット、カタログ、等の先使用権の証明の証拠となる各資料の内容を説明する説明文を記載した説明書を作成し、この説明書を作成した者が署名又は記名押印した説明文書(私署証書)を作成します。
第二ステップとして、第一ステップで作成した説明文書(私署証書)で説明されている上述の研究経過報告書、等の資料を、第一ステップで作成した説明文書(私署証書)に添付し、説明文書(私署証書)に公証人の認証を受けます。
2.タイムスタンプ
紙ベースではなく電子データで資料を収集しておくことが一般的になっていますが、電子データは、いつ、誰が作成したのかが判明しにくく、しかも、いつでも容易に改ざんされ、改ざんされたか否かが判別しにくいという事情があります。
タイムスタンプは、電子データを、誰が、いつ作成したのか、そして、それが原本と同一で改ざんされていないことを後から証明する手段の一つです。
電子データに時刻情報を付与することにより、その時刻にそのデータが存在し(日付証明)、またその時刻から、検証した時刻までの間にその電子データが変更・改ざんされていないこと(非改ざん証明)を証明するための民間のサービスとしてタイムスタンプが利用可能になっています。
<先使用権での保護を考えるときの留意点>
特許庁発行冊子では留意点として次のような指摘が行われています。
「他社がどのようなクレームで特許出願をするかは予測ができないため、先使用権の証明に備えて多くの資料を確保していたとしても、実際の訴訟の場における権利行使に対して先使用権の証明が可能になるとは限りません。また、他社の特許出願のクレームが特定できており先使用権があると確信していたとしても、それを訴訟において客観的に証明できなければ、先使用権が認められないこともあります。」
このように、自社の事業を適切に守るべく、先使用権立証に備えて資料収集・保存を行っていても、他社による特許権の権利行使から、自社の事業を確実に保護できるとは限りません。
一方で、特許出願を行い、その後1年半にわたって特許庁が秘密にしてくれていた出願内容が出願日から1年半経過して特許庁から公表されるようになれば、自社の特許出願の明細書・図面に記載していた発明について、自社の特許出願の日より後に他社が特許出願を行って特許取得することは、原則として、生じません。同一の発明については一日でも先に特許出願を行っていた者でなければ特許取得できないからです(先願主義:特許法第39条)。
また、自社の特許出願から1年半経過して出願内容が特許庁から公表された後は、その公表された出願内容に基づいて簡単・容易に発明できる程度の発明が特許出願されても、特許庁の審査で「進歩性欠如」として拒絶されることから、特許権が成立する可能性は小さくなります。
知的財産に関する専門家である弁理士は、これまで説明してきた先使用権制度や、特許出願によって得ることのできる上述した効果などについて深い理解を持っています。先使用権制度の活用や、特許出願など、自社の事業を適切に守るためにどのようにするのが望ましいのかについては弁理士にご相談されることをお勧めします。
■ニューストピックス■
●「知的財産推進計画2025」を決定(政府)
政府は、「知的財産推進計画2025」を決定し、知的財産の国際的な競争力について初めて数値目標を盛り込み、国際ランキングで4位以内を目指す方針を示しました。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
同計画では、WIPO(世界知的所有権機関)が毎年発表している「グローバル・イノベーション指数(GII)」での目標順位を設定。
AIの活用やトップレベルの研究者など海外人材の招致を通じて2035年までに4位以内を目指すとしています。過去の我が国の最高位は4位(2007年)で、2024年はスイスが首位、日本は13位でした。
また、今後、発明などへのAIの関与が増えることが予想されるとして、発明や創作の過程でAIを利用した場合の「発明者」の定義などについて早期に結論を得ることを求めています。海外のサーバを介した特許権侵害行為への対応なども検討し、必要な制度の整備を進める方針です。
日本の技術を国際標準にするための「新たな国際標準戦略」が策定されました。また、AIや環境・エネルギー、モビリティー(移動手段)といった8分野を「戦略領域」とし、専門人材の育成や官民連携の強化を通じて重点的に支援するとしています。
さらに日本市場における時価総額に占める無形資産の割合を2035年までに50%以上とする目標も設定しました。2020年時点の日本市場における無形資産割合は32%、米国市場は90%、中国市場は44%、韓国市場は57%です。
●AIが作成した商標登録、現行制度で可否を判断(特許庁)
特許庁の商標制度小委員会は、AIを利用して作成した商標登録については、現行制度で登録の可否を判断する方向で検討しています。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)
現行の商標法は、特許法、意匠法とは異なり、自然人の創作物の保護を目的とするものではないとされています。
したがって、自然人により創作されたものか、AI により生成されたものかに関わらず、従来の商標登録出願と同様、拒絶理由に該当しない限り、商標登録を受けることができるとされています。
そのため、小委員会では、AI生成物を含む商標について出願・権利行使する場合であっても、原則として、従来の商標登録出願や商標権と同様に扱う方向で検討しています。
また、他人の登録商標をAIに学習させることは、商標権の効力が及ぶ行為に該当せず、法律上問題ないとしています。
●「セキュリティ・クリアランス」法が施行、運用を開始(政府)
経済安全保障に関連する重要な情報を保護する「セキュリティ・クリアランス法」(重要経済安保情報保護活用法)が5月16日に施行され、制度の運用が始まりました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
セキュリティー・クリアランス法は、漏えいすると日本の安全保障に支障をきたすおそれがある国の情報を「重要経済安保情報」に指定し、民間も含めて信頼性が確保できる個人に対してのみアクセス資格(SC資格)を付与し、重要情報を取り扱える人を限定するものです。
対象となる情報は、サイバー攻撃の脅威への対策や日本が優位性を持つ技術に関わるもの、海外依存度の高い重要物資のサプライチェーンに関するものなどです。
また、情報を扱う人には本人の同意を前提に国が個人情報を調べることになります。
調べられる情報には、本人や家族の国籍や学歴、職歴のほか、犯罪歴、過去10年の精神疾患の治療やカウンセリング、飲酒のトラブル、クレジットカードの使用停止の有無などが含まれています。
●「AI新法」が成立、研究開発・活用を推進(政府)
AIの研究開発の促進と安全確保の両立を目指す「AI関連技術の研究開発・活用推進法」が参院本会議で可決、成立しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
AIの国際競争が激化する中、AI開発や規制に関して日本が国内法を整備したのは初めてです。
新法では、AI技術が経済発展の基盤と位置付け、司令塔として首相が本部長を務める「AI戦略本部」を設置し、「AI基本計画」を策定することを規定しました。
一方、AI技術の研究開発や活用が不正な目的で行われれば「犯罪への利用、個人情報の漏えい、著作権の侵害を助長する恐れがある」とも記述。国民の権利・利益を侵害する事案が生じた場合は国が調査し、事業者に指導・助言を行い、国民への情報提供など必要な措置を講じると定めました。事業者の責務として「国・地方公共団体の施策に協力しなければならない」との規定も盛り込みました。
●偽キャラクターグッズ対策委員会を発足(CODA)
日本のアニメやゲームなどの人気作品に登場するキャラクターの偽グッズ被害が海外で深刻化していますが、企業が単独で対策を取るのは難しいとして、業界団体の「CODA=コンテンツ海外流通促進機構」は、大手企業が共同で対策に取り組む「偽キャラクターグッズ対策委員会」を立ち上げました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)
アニメに登場するキャラクターなどは、個人や企業が創作した知的財産=「IP」と呼ばれ、関連グッズを展開するIPビジネスは、日本のコンテンツの世界的な人気の高まりとともに海外にも市場が広がっています。
一方、海外ではキャラクターを無断で使用したフィギュアなど、偽グッズの被害も相次ぎ、企業単独での対策は難しくなっています。そのため、「東映」「集英社」「スクウェア・エニックス」「バンダイ」など、アニメや漫画、ゲームなどのコンテンツを扱う大手企業9社とCODAは、共同で対策に取り組む「偽キャラクターグッズ対策委員会」を発足させました。
委員会は、偽グッズは主に中国が製造拠点で、ECサイトで流通も拡大しているとして、今後、現地当局と連携して摘発につなげるなど対策を強化していく方針を確認しました。
<編集後記>
【今月の一冊】『知財で差をつけろ!中小企業・スタートアップのための商標戦略』(児嶋秀平著、同文館出版発行)。中小企業の商標戦略について解説されています。
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発行元 藤川IP特許事務所
弁理士 藤川敬知
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