藤川IP特許事務所メールマガジン 2025年8月号

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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
                       2025年8月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
┃ 
┃ ☆知財講座☆
┃(43)特許異議申立(1)特許異議申立制度の概要

┃ ☆ニューストピックス☆

┃ ■「特許行政年次報告書2025年版」を公表(特許庁)
┃ ■新しいタイプの商標の出願・登録状況(特許庁
┃ ■AI関連特許、中国が圧倒的にリード(特許庁)
┃ ■営業秘密侵害に関する相談件数が過去最多(警察庁)
┃ ■「模倣品・海賊版対策の相談業務に関する年次報告書」(特許庁)
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特許庁は、知的財産をめぐる国内外の動向と特許庁の取り組みなどをまとめた「特許行政年次報告書2025年版」を公表しました。
報告書によると、2024年の特許出願件数、意匠登録出願件数は前年に比べて増加した一方、商標登録出願件数は前年に比べて減少しました。

特許審査の審査請求から一次審査通知までの期間(FA期間)、審査請求から権利化までの期間は、いずれも前年より短縮しました。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(43)特許異議申立(1)特許異議申立制度の概要
【質問】
 注目している同業他社の特許出願に特許成立してしまった場合に特許異議申立というものを行えるとうかがっています。特許異議申立はどのようなものなのか教えてください。

【回答】
 特許異議申立について今回は制度の概要を紹介します。また、特許庁に提出する特許異議申立書の記載要領について次回紹介します。

<特許異議申立の制度趣旨>
 特許異議申立制度(特許法第113条)は、「特許付与後の一定期間に限り、広く第三者に特許の見直しを求める機会を付与し、申立てがあったときは、特許庁自らが当該特許処分の適否について審理し、当該特許に瑕疵があるときは、その是正を図ることにより、特許の早期安定化を図る制度」(審判便覧)で、「当事者間の具体的紛争の解決を主たる目的とするものではなく、・・・、特許に対する信頼を高めるという公益的な目的を達成することを主眼とした制度」(特許庁編 工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕(発明推進協会))とされています。

 特許異議申立についての特許庁での審理の結果、「特許を取り消すべき旨の決定」(取消決定)が下され、これが確定した時には「その特許権は初めから存在しなかったものとみなされ」ます(特許法第114条第2項)。

特許異議申立制度を紹介している特許庁ウェブサイト
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

<特許異議申立を行うことのできる者>
 「広く第三者に特許の見直しを求める機会を付与」するという観点から、利害関係人に限定されず「何人も」特許異議申立を行うことができます。

 すなわち、自然人、法人及び法人でない社団又は財団であって代表者又は管理人の定めのあるものであれば特許異議申立を行うことができます。

 なお、特許庁へ提出する特許異議申立書に「特許異議申立人(及び代理人がいる場合の代理人)の氏名又は名称及び住所又は居所」を記載しなければなりませんので匿名で特許異議申立をすることはできません。

 ただし、特許異議申立書が特許庁へ提出された後の手続は、原則として、特許庁の審判官合議体と特許権者との間だけで進められる査定系手続になります。審理方式は書面審理のみ(特許法第118条第1項)で、特許庁へ出頭しての口頭審理は行われません。そこで、いわゆるダミーを立てて特許異議申立を行うことがあります。

<特許異議申立は特許掲載公報発行日から6月以内>
 特許庁の審査で「特許を認める」という特許査定が下され、その後30日以内に1年次~3年次分の特許料を特許庁に納付することで直ちに特許権が成立します。そして、特許料納付後10日~2週間程度で特許証が発行されると共に、特許権が付与された発明内容を社会に公示するため特許掲載公報が特許庁から発行されます。特許掲載公報の内容は特許庁のウェブサイトJ-Plat Patにアップされます。

 この特許掲載公報発行の日から6月以内に限り特許異議申立できることになっています。

 特許掲載公報発行の日から6月以内に限ることにしたのは、特許異議申立人の準備期間の考慮や権利の早期安定化の両方の観点からとされています。 

<特許異議申立に要する費用>
 特許異議申立では特許異議申立書を特許庁へ提出します。その際に必要な手数料を特許庁に納付しなければなりません。

 特許庁へ納付する特許異議申立手数料は「基本手数料16,500円 +(申し立てた請求項の数×2,400円)」です。

 特許出願について特許庁での審査を受けるための審査請求で特許庁へ納付する審査請求手数料「基本手数料138,000円+請求項の数×4,000円」や、特許無効審判請求で特許庁へ納付する審判請求手数料「基本手数料49,500円+請求項の数×5,500円」に比較すると低額になっています。

 ※審査請求手数料は、中小企業(例えば、製造業で従業員数300人以下あるいは資本金の額3億円以下、等)については1/2に軽減される等の軽減制度があります。

<特許異議申立の理由>
 特許出願の審査において「特許を認めることができない」とする拒絶理由(特許法第49条)の中で、新規性欠如(特許法第29条第1項)、進歩性欠如(特許法第29条第2項)、同一の発明については最先の出願人でなければ特許を受けることができない先後願(特許法第39条、29条の2)等の主要な拒絶理由は、特許異議申立の理由とされています。これらの中のいずれかの理由に基づいて特許異議申立を行うことができます。

 なお、拒絶理由(特許法第49条)の中で形式的理由であると考えられているシフト補正の禁止(特許法第17条の2第4項)、出願の単一性違反(特許法第37条)等や、権利帰属に関する事由(共同出願違反(特許法第38条))、冒認出願(特許法第49条第7項)等、一部の拒絶理由は、特許異議申立の理由とはされていません。

<特許異議申立の審理>
 特許出願の審査は一名の審査官が行い、審査官が下した「特許を認めることができない」とする最終判断である「拒絶査定」に対して特許庁における第二審である拒絶査定不服審判を請求すると、審査官よりも経験を積んでいる審判官が3名または5名で合議体を構成し、慎重な審理を行うことになります。

 特許異議の申立てについても、審判官の合議体により審理が行われます。審理の公平性、独立性及び的確性を十分に担保するため、とされています。

 特許異議申立で審判官合議体が審理する対象は、特許異議申立がされた請求項に限られており、審理は、特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠に基づいて行われます。

 なお、審判官合議体は、職権により、特許異議申立人が申し立てない理由についても審理することができ(職権審理)、特許異議申立人が申し立てない証拠の採用も可能であるとされています(職権探知)。

 1件の特許権に対して複数の特許異議申立が提出されることがありますが、この場合、審理は、原則として、併合して行われ、併合された特許異議申立のいずれかにおいて申立がされた請求項は総て審理の対象になります。

<取消理由通知、訂正請求>
 審判官合議体が審理し、特許を取り消すべきと判断したときは、特許権者に取消理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書の提出及び訂正の機会が与えられます。

 特許権者は、指定された期間内に、意見書を提出することができ、また、取消理由の解消を目指して特許請求している発明の効力範囲を狭める、等する特許請求の範囲の訂正を請求できます。

 特許権者から訂正請求が行われた場合、特許異議申立人に対して30日以内に意見書を提出する機会が与えられることがあります。この場合であって、特許異議申立人から提出された意見の内容が、実質的に新たな理由及び証拠を提示しているときは、当該実質的に新たな理由及び証拠は採用されないことになっています。

ただし、提示された実質的に新たな理由及び証拠が、訂正により追加された事項についての見解など訂正の請求の内容に付随して生じる理由である場合や、適切な取消理由を構成することが一見して明らかな場合は、提示された実質的に新たな理由及び証拠が審判官合議体の審理に採用されることがあるとされています。

審判便覧
▷詳細はこちら(PDFが開きます)

<取消決定、不服申立>
 審判官合議体は審理を尽くした後、特許異議が申し立てられた総ての請求項について、請求項ごとに、特許を取り消すか、維持するかを決定し、特許異議申立人及び、特許権者に通知します。

 特許取消決定に対して、特許権者は、30日以内に、東京高等裁判所(知的財産高等裁判所)に不服申し立てできます(特許法第178条第1項)。

 一方、特許維持決定に対しては、不服申し立てできません(特許法第114条第5項)。「特許異議申立は、第三者に対して特許処分の見直しを求める機会を与えたにすぎないものであり、維持決定を受けた特許異議申立人は別途無効審判の請求を行うことができること等の理由による」とされています。

■ニューストピックス■
●「特許行政年次報告書2025年版」を公表(特許庁)
特許庁は、知的財産をめぐる国内外の動向と特許庁の取組などをまとめた「特許行政年次報告書2025年版」を公表しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

報告書によると、2024年の国内の特許出願件数は前年比3.6%増の306,855件でした。
国内の特許出願の件数は、2015~2019年度には1年あたり30~31万件台でしたが、コロナ禍の2020年度に28万件台に落ち込みました。

その後は徐々に件数が増加し、2023年度に30万件台に回復しました。
昨年度(2024年度)も微増し、30万件台を維持しました。
国内の意匠登録出願件数は32,065件、商標登録出願件数は158,792件でした。

また、特許出願件数に対する特許登録件数の割合(特許登録率)は増加傾向にあり、2019年に特許出願された案件の特許登録率は60.7 %でした。

2024年の意匠審査における登録査定率は89.4%、2024年の商標審査における登録査定率は88.4%でした。
2024年度における特許審査の審査請求から一次審査通知までの期間(FA期間)は9.1か月、審査請求から権利化までの期間は13.0か月で、いずれも2023年度より短縮しました。

●新しいタイプの商標の出願・登録状況(特許庁)
2015年4月から新しいタイプの商標(音、動き、位置、ホログラム、色彩)制度が導入されて10年が経過しましたが、特許庁によると、新しいタイプの商標は2024年12月までに2,291件の出願があり、このうち784件が設定登録を受けていることが分かりました。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)

新しいタイプの商標の出願・登録状況は以下のとおり。(2015~2024年に出願又は設定登録された件数の累計)

①音商標(音楽、音声、自然音等からなる商標であり、聴覚で認識される商標)
<出願件数:779件 登録件数:374件>

②色彩のみからなる商標(単色又は複数の色彩の組合せのみからなる商標)
<出願件数:574件 登録件数:11件>

③位置商標(文字や図形等の標章を商品等に付す位置が特定される商標)
<出願件数:645件 登録件数:175件>

④動き商標(文字や図形等が時間の経過に伴って変化する商標)
<出願件数:272件 登録件数:208件>

⑤ホログラム商標(文字や図形等がホログラフィーその他の方法により変化する商標)
<出願件数:21件 登録件数:16件>

●AI関連特許、中国が圧倒的にリード(特許庁)
 特許庁は、近年出願が急増しているAI関連の特許出願に関し、従前調査していた国内における出願状況に加え、日本を含む国際的な出願状況調査を実施しました。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)

 同調査では、2015年以降に出願されたAI関連特許を対象に、8つの技術領域(AIコア、画像・映像処理AI関連、自然言語処理AI関連、ニューラルネット、CNN、RNN/LSTM、深層強化学習、Transformer)に分類し、主要国の出願件数や技術トレンドを比較しました。

AIコア技術における特許出願件数をみると、中国が米国の約8.5倍となる約44万件と圧倒的にリードし、米国に次いで韓国、日本が追う展開となっています。
中国は、AIコア技術に加え、画像・映像処理や自然言語処理でも出願数はトップであり、技術領域を問わず総合的な強さを見せています。

一方、米国は2020年をピークに出願件数が減少傾向にありますが、企業による知財戦略の「クローズ化(秘匿化)」が進んでいる可能性も考えられます。

AIコア技術の権利者ランキングをみると、米国のIBMがトップですが、上位は中国勢が占めています。
6-10年前は、日本企業(富士通、NEC)がTOP10に入り、IBMを筆頭に米国企業がリードしていましたが、直近5年間をみると、テンセントを筆頭とした中国勢が上位をほぼ独占しています。

●営業秘密侵害に関する相談件数が過去最多(警察庁)
警察庁は「令和6年における生活経済事犯の検挙状況等について」を公表しました。
これは商標権侵害、著作権侵害、不正競争防止法違反等の知的財産権侵害を含む生活経済事犯全体の検挙状況をまとめたものです。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)

それによると、令和6年中の営業秘密侵害事犯の検挙事件数は22事件と、前年より4件減少しました。
令和4年をピークに営業秘密侵害事犯の検挙事件数は減少傾向にありますが、相談受理件数をみると、過去最多の79件で、この10年間で3倍超となっています。

商標権侵害事犯及び著作権侵害事犯の検挙事件数は近年、減少傾向にありますが、いずれも80.0%以上がインターネットを利用した事件でした。

●「模倣品・海賊版対策の相談業務に関する年次報告書」を公表(特許庁)
特許庁は、政府窓口に寄せられた模倣品・海賊版対策の相談状況などをまとめた「模倣品・海賊版対策総合窓口年次報告書2025年版」を公表しました。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)

報告書によると、2024年の相談・情報提供の受付件数は1007件。このうち情報提供は798件、相談件数は209件でした。

通販サイト、オークション、フリマアプリやSNSを介した個人間取引に関する相談が増加したほか、違法アップロード・ダウンロードに関する情報提供が最多を占めています。

 また、国内外における権利行使の方法や輸入差止申立に関する相談も増加しています。

 このほか、報告書では、国内外での一般的な模倣品対策として、中国における模倣品対策の相談事例や、商品の形態が国内競合他社に模倣されてしまった場合の対応方法なども紹介しています。

<編集後記>
【今月の一冊】『別冊ジュリスト No.272著作権判例百選[第7版]』(有斐閣発行)。
実務の進展が著しい著作権分野で今年7月25日に発行された最新版です。

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発行元 藤川IP特許事務所
弁理士 藤川敬知
〒468-0026 名古屋市天白区土原4-157
TEL:052-888-1635 FAX:052-805-9480
E-mail:fujikawa@fujikawa-ip.com

<名駅サテライトオフィス>
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