藤川IP特許事務所メールマガジン 2026年8月号


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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
                        2026年8月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
┃ 
┃ ☆知財講座☆
┃(55)特許権の均等論

┃ ☆ニューストピックス☆

┃ ■特許行政年次報告書2026年版を公表(特許庁)
┃ ■特許審査でAI活用の基本方針を策定(特許庁)
┃ ■先端技術分野へ官民で370兆円を投資(政府)
┃ ■「Zoom」のロゴ使用めぐり米企業に賠償命令(東京地裁)
┃ ■ソフトバンクグループ、生成AIの特許公開件数で世界1位
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 特許庁は、知的財産制度を取り巻く現状や国内外の動向、直近の統計情報などを取りまとめた「特許行政年次報告書2026」を公表しました。

今号では、報告書の中から、特許、意匠、商標の出願状況、審査の現状についてポイントを抜粋して紹介します。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(55)特許権の均等論
【質問】
市場で発見した競合会社の製品は当社の特許発明と比較した時に多少相違しているところがありますが、当社発明の本質的部分はそっくりで、特許権侵害品に当たるのではないかと思われます。多少相違していますから特許権に基づく権利行使はできないのでしょうか?

【回答】
競合会社の製品(被疑侵害品)が特許権侵害品に当たるかどうかは、オールエレメントルールで判断されます。オールエレメントルールでは、被疑侵害品が特許発明の構成要件の中のどれか一つでも備えていなければ、原則として、特許権侵害にならない、とされ、被疑侵害品が特許発明の構成要件のすべてを備えている時に、特許請求の範囲の記載の通りに実施されているということで、文言侵害と評される特許権侵害になります。

 オールエレメントルールでは特許請求の範囲の記載を文言の通りに解釈することが尊重されます。そこで「多少相違している」というご質問の場合は特許権侵害にならない可能性があります。

 しかし、この原則を貫くと発明者・特許出願人に酷で衡平性を欠くと考えられ、ご質問のような場合であっても所定の条件が満たされているならば、特許請求の範囲の記載の文言解釈を超えて、特許請求の範囲の記載と均等と評価される技術的構成まで特許権の効力範囲に含まれると考えて、特許権侵害が認められる取り扱いがされます。

特許庁のHPで特許権の均等論として紹介されているものです。

▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

<オールエレメントルールでの特許権侵害の考え方>
 特許権に基づく権利行使を検討している特許権者の特許発明が「断面が六角形の木製の軸を有し、当該軸の表面に油性塗料が塗られている鉛筆。」であるとします。

 発明特定事項(構成要件)に分けて記載すると次のようになります。

 「断面が六角形(構成要件A)の
  木製の軸(構成要件B)を有し、
  当該軸の表面に油性塗料が塗られている(構成要件C)
  鉛筆(構成要件D)。」

 一方、競合会社が市場で販売している製品(被疑侵害品)は「断面が六角形の木製の軸を有し、当該軸の表面に水性塗料が塗られている鉛筆。」であるとします。

 被疑侵害品は、構成要件A、B、Dを備えていますが、構成要件Cを備えていません。「構成要件C」は「軸の表面に油性塗料が塗られている」ですが、被疑侵害品では「軸の表面に水性塗料が塗られている」からです。

 そこで、特許請求の範囲の記載の文言解釈であるところのオールエレメントルールによれば、被疑侵害品は、特許発明の構成要件の中の一つ(構成要件C)を備えていないので、原則として、特許権侵害品になりません。

<均等論侵害の考え方>
 均等論は、古くから米国で認められてきた考え方です。日本では平成10年(1998年)になって初めて最高裁により認められました(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決「ボールスプライン事件」)。今日では、このボールスプライン事件判決を基準として特許権侵害が考えられています。

 ボールスプライン事件判決では、特許出願の際に将来のあらゆる侵害態様を予想して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難であり、特許請求の範囲に記載された構成の一部を特許出願後に明らかとなった物質や技術などに被疑侵害者が置き換えることによって、特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば、社会一般の発明への意欲を減殺することとなり、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するばかりでなく、社会正義に反し、衡平の理念にもとる結果となることから、特許発明の実質的価値は第三者が特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することのできる技術に及び、第三者はこれを予期すべきものと解するのが相当であるとされました。

 ボールスプライン事件判決で示された均等論侵害が認められるための5つの要件は以下の通りです。

 特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品と異なる部分が存在する場合であっても、

(第一要件)
 対象製品と異なる部分が特許発明の本質的部分でなく(非本質的部分)、

(第二要件)
 対象製品と異なる部分を対象製品におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏するものであって(置換可能性、作用効果の同一性)、

(第三要件)
 対象製品と異なる部分を対象製品におけるものと置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品の製造等の時点において容易に想到することができたものであり(置換容易性)、

(第四要件)
 対象製品が特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれら右出願時に容易に推考できるものではなく、

(第五要件)
 対象製品が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものにあたるなどの特段の事情もない

 ときには、対象製品は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものとするのが相当である。

 上記5要件の中で、第一要件~第三要件の立証責任は特許権者、第四、第五要件の立証責任は被疑侵害者で、第三要件の判断時期は「実施時」、第四要件の判断時期は「出願時」とされています。

<被疑侵害品は均等論侵害の5つの要件を満たすか?>
 上述した事例では、上述した特許権に係る特許出願の出願当時、断面が円形の木製の軸の表面に油性塗料あるいは、水性塗料が塗られている鉛筆は公知であった。また、特許出願の当時、断面が円形の木製の軸を備えている鉛筆しか知られておらず、上述した特許発明における「断面が六角形(構成要件A)」という構成が、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分にあたるとします。

 また、出願時の明細書などに「『木製の軸の表面に水性塗料が塗られている鉛筆』は特許権の効力範囲外である」とする記載は存在しておらず、特許出願の当時、断面が円形の木製の軸を備えている鉛筆しか知られていなかったことから、「傾いている机の上に置いても転がりにくい鉛筆を提供する」という目的を達成するため、構成要件A~Dのすべて、特に、従来知られていなかった構成要件Aを具備することで「傾いている机の上に置いても転がりにくい」という特有の効果を発揮できるようにした発明は、特許庁での審査の過程で拒絶理由を受けることなく特許成立したとして、上述の被疑侵害品が均等論侵害の5つの要件を満たすかを検討します。

<特許請求の範囲に記載された構成中に存在する対象製品と異なる部分>
 特許発明では「軸の表面に油性塗料が塗られている」(構成要件C)ところ、被疑侵害品では「軸の表面に水性塗料が塗られている」ですから、この部分が「特許請求の範囲に記載された構成中に存在する対象製品と異なる部分」(以下「相違点」といいます。)になります。

<第一要件~第五要件の検討>
<第一要件>
 第一要件は「対象製品と異なる部分が特許発明の本質的部分でない」です。上述した事例では、その特許出願当時、断面が円形の木製の軸の表面に油性塗料や水性塗料が塗られている鉛筆は公知でした。また、「断面が六角形(構成要件A)」が従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると考えられています。そこで、上述した事例では、相違点は特許発明の本質的部分ではなく、均等論侵害の第一要件は満たされると考えられます。

<第二要件>
 第二要件は「対象製品と異なる部分を対象製品におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏する」です。上述した事例では、特許発明の構成要件C「軸の表面に油性塗料が塗られている」を、被疑侵害品におけるものである「軸の表面に水性塗料が塗られている」に置き換えても、特許発明の目的(傾いている机の上に置いても転がりにくい鉛筆を提供する)を達成でき、同一の作用効果が奏されます。そこで均等論侵害の第二要件(置換可能性、作用効果の同一性)は満たされると考えられます。

<第三要件>
 第三要件は「対象製品と異なる部分を対象製品におけるものと置き換えることに、当業者が、対象製品の製造等の時点において容易に想到することができたものである」です。

 上述した事例では、「特許出願の当時、断面が円形の木製の軸の表面に油性塗料や水性塗料が塗られている鉛筆は公知」でした。そこで、被疑侵害品の製造時において特許発明の構成要件C「軸の表面に油性塗料が塗られている」を、被疑侵害品における「軸の表面に水性塗料が塗られている」に変更することは、当業者が容易に想到することができたもので、均等論侵害の第三要件(置換容易性)は満たされると考えられます。

<第四要件>
 第四要件は「対象製品が特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者が出願時に容易に推考できるものではない」です。
 上述の事例の場合、構成要件A~Dの中の構成要件C「軸の表面に油性塗料が塗られている」に関しては「特許出願の当時、断面が円形の木製の軸の表面に油性塗料や水性塗料が塗られている鉛筆は公知」でした。

 その一方、構成要件A「断面が六角形」を含む、構成要件A~Dからなる鉛筆は、従来技術に比較して新規であり、また、従来技術から出願時に当業者が容易に想到できたものではなく進歩性を有するとして特許成立しています。

 そうしますと、特許発明の構成要件C「軸の表面に油性塗料が塗られている」が特許発明の新規性、進歩性を判断する考慮要素になったとは思われません。そこで、特許発明の構成要件C「軸の表面に油性塗料が塗られている」を従来公知の「軸の表面に水性塗料が塗られている」に変更している被疑侵害品も、その特許出願の当時、新規性、進歩性を有していたものであると認めることが相当です。そこで、均等論侵害の第四要件は満たされると考えられます。

<第五要件>
 第五要件は「対象製品が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものにあたるなどの特段の事情もない」です。

 上述の事例の場合、出願時の明細書などに「『木製の軸の表面に水性塗料が塗られている鉛筆』は特許権の効力範囲外である」とする記載は存在しておらず、特許成立するまでの審査の過程で拒絶理由の通知を受けていませんから、「軸の表面に水性塗料が塗られている」構成を、特許出願人が、特許請求の範囲から意識的に除外したという事情は存在しません。そこで均等論侵害の第五要件は満たされると考えられます。

<均等論侵害検討の結論>
 上述の事例では、均等論侵害の第一~第五要件のすべてが満たされていると考えられます。そこで、文言侵害が認められない場合であっても、均等論侵害が認められて、特許権者は、差止請求、損害賠償請求することが可能になると思われます。

<特許権侵害が疑われるものを発見した場合>
 上述したように、保有している特許権に係る特許発明と多少相違している競合品であっても、均等論侵害であるとして特許権に基づく権利行使に乗り出せる場合があります。このような競合品を発見した場合には専門家である弁理士に相談することをお勧めします。

■ニューストピックス■
●特許行政年次報告書2026年版を公表(特許庁)

 特許庁は、知的財産をめぐる国内外の動向などをまとめた「特許行政年次報告書2026年版」を公表しました。

▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

【出願件数】
報告書によると、日本国特許庁への特許出願件数は、2020年以降横ばい傾向でしたが、2025年は前年比16.8%増の358,317件でした。意匠登録出願件数は31,853件であり、商標登録出願件数は2025年に増加へ転じ、168,114件でした。

【査定率】
2025年の特許審査における特許査定率は76.5%、意匠審査における登録査定率は88.0%、商標審査における登録査定率は87.5%でした。

【FA期間と権利化までの期間】
2025年度における特許審査の審査請求から一次審査通知までの期間(FA期間)と審査請求から権利化までの期間は、それぞれ9.4月、13.2月でした。
2025年度における意匠審査の出願から一次審査通知までの期間(FA期間)は5.9月、出願から権利化までの期間は6.6月となり、いずれも2024年度より短縮しました。
2025年度における商標審査の出願から一次審査通知までの期間(FA期間)は6.6月、出願から権利化までの期間は7.5月となり、いずれも2024年度より短縮しました。

●特許審査でAI活用の基本方針を策定(特許庁)
特許庁は特許審査でのAI活用についての基本指針「JPO AIビジョン」を策定、公表しました。

▷詳細はこちら(PDFが開きます)

指針では、積極的にAIを活用して審査などの業務の効率化とスピードアップを目指すとしています。

一方でAI活用は、あくまで「審査官の支援ツール」にとどめ、最終的な特許査定・拒絶査定等の判断は、引き続き審査官が実施するとしています。

現在、先行技術調査や外国語文献の翻訳などの業務でAIが活用されていますが、近年、技術の高度化・複合化により、先行技術調査の範囲も拡大しており、審査官一人あたりの処理負担は年々増大しています。そのため指針では、最新の技術動向を把握し、審査官の判断を支援するツールとしてAIを効率的に活用するとしています。また、業務の中でどこにAIを使ったのかといった情報を開示し、透明性を向上させる方針です。

●先端技術分野へ官民で370兆円を投資(政府の「骨太の方針」)
政府は、我が国の重要政策を示す「経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太の方針)」を閣議決定しました。

▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

基本方針では、日本の潜在成長率は、主要先進国と比べて低迷しているが、技術革新力などの数値は遜色がなく、圧倒的に足りないのは国内投資だと指摘しています。

そのうえで、先端技術をリードする「成長投資」を徹底するため、AI・半導体や造船、防衛産業など、17の戦略分野の中から選定された62の製品や技術について、官民が連携して投資する規模を2040年度までに「総額370兆円超」とする計画が盛り込まれました。

具体的には、AI・半導体分野では、ロボットなどを動かす「フィジカルAI」に10.5兆円を投資。大容量データの高速処理に必要な半導体の開発などに68兆円の投資を想定。AIロボット市場で40年までに米中に並ぶ世界シェア3割超を目指しています。

●「Zoom」のロゴ使用めぐり米企業に賠償命令(東京地裁)
ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」のロゴが自社のロゴと類似しており商標権を侵害されたとして、日本の音楽用電子機器メーカー「ズーム」が、米ズーム・コミュニケーションズ社などにロゴ使用差し止めや損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁はこのほど、米ズーム社側に約1億6千万円、販売代理店に約1600万円の支払いを命じました。ロゴの使用を差し止める請求は棄却しました。

▷詳細はこちら(PDFが開きます)

ウェブ会議サービス「Zoom」のロゴ(ウェブサイトから)音楽用電子機器会社「ズーム」が商標登録しているロゴ(特許情報プラットフォームから)裁判では、双方のロゴに混同の恐れがあるかどうかが争われました。東京地裁は判決理由で「いずれもアルファベット4文字をデザイン化し、呼び方も同じことから、全体的に考察すれば、一応類似している」と指摘。誤認の恐れがあったとして、商標権侵害を認定しました。

一方で、2020年7月以降は、新型コロナウイルス禍でウェブ会議サービスの需要が急増し、利用者も識別できるようになったと指摘。
そのため、支払額は同年6月末までロゴを使ったライセンス料相当額と算定しました。

使用差し止めの訴えについては、現時点では商標権侵害が認められないため「請求に理由がない」と退けました。米ズームは東京地裁判決を不服として控訴しました。

●ソフトバンクグループ、生成AIの特許公開件数で世界1位
世界知的所有権機関(WIPO)は、生成型人工知能(GenAI)の最新動向をまとめた「GenAIにおける特許動向の最新情報(Patent TrendsUpdate in GenAI)」を公表しました。

▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

それによると、2024〜2025年に公開された世界全体の生成AI関連特許は5万6000件を超えました。14〜23年の10年間の累積公開件数をわずか2年間で追い抜いています。

2014〜25年の特許公開件数の上位企業をみると、ソフトバンクグループ(SBG)が2985件で世界1位となりました。そのほとんどが2025年に公開されたものです。上位10社のうち、6社が騰訊控股(テンセント)や百度(バイドゥ)など、中国企業が占めています。

ソフトバンクグループは、グループ全社員を対象にした「生成AI活用コンテスト」を毎年実施して、社員からの提案数は累計26万件以上、特許出願数は1万件を超えています。また、25年には社員のAI利用を義務化し、AIが自律的に業務をこなす「AIエージェント」を1人当たり100個開発するよう求めるなどAI利用を進めています。

<編集後記>
【今月の一冊】『AI/IoT特許入門4~生成AI、AIエージェント特許対応版~』(河野英仁著、一般社団法人発明推進協会発行)AI/IoT関連発明の事例が多数紹介されるとともに、特許出願時のポイントや注意点などが解説されています。


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発行元 藤川IP特許事務所
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TEL:052-888-1635 FAX:052-805-9480
E-mail:fujikawa@fujikawa-ip.com

<名駅サテライトオフィス>
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名駅ダイヤメイテツビル11階エキスパートオフィス名古屋内
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