藤川IP特許事務所メールマガジン 2023年9月号

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◇◆◇ 藤川IP特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
                       2023年9月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
┃ 
┃ ☆知財講座☆
┃(20)拡大先願

┃ ☆ニューストピックス☆

┃ ■「特許行政年次報告書2023年版」を公表(特許庁)
┃ ■「GUZZILLA」(ガジラ)の商標無効(知財高裁)
┃ ■「トップ10%論文」、中国が1位(科学技術指標2023)
┃ ■「ファスト映画」訴訟、所在不明者にも賠償命令(東京地裁)
┃ ■「2023年度知的財産権制度入門テキスト」公表(特許庁)
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特許庁は「特許行政年次報告書2023年版」を公表しました。
同報告書には、国内外の出願・登録状況や審査・審判の現状、国際的な知的財産制度の動向をはじめ、特許庁の取り組みなどが詳しく報告されています。
今後の知財戦略を検討する際の参考としてご参照ください。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(20)拡大先願
【質 問】
特許出願を行って審査を受けたところ他社が行っていた先行する特許出願の特許出願公開公報に記載されている発明と同一発明だから特許を認めることができないという拒絶理由を受けました。

拒絶理由に引用された他社の特許出願公開公報が特許庁から発行された日は当社が特許出願を行った日より後です。また、他社の特許出願公開公報の特許請求の範囲に記載されている発明と、当社特許出願で特許請求している発明は明らかに相違しています。

当社が特許出願を行った時点ではまだ特許出願公開公報が発行されておらず秘密状態にあって、特許請求している発明が別異である他社の特許出願が拒絶理由に引用されるのはなぜなのでしょうか?

【回 答】
同一の発明を特許請求している複数の特許出願が特許庁に提出された場合、一日でも先に特許出願を行っていた者でなければ特許取得は認められません。これを先願主義(特許法第39条)といいます。

ご質問の場合、特許請求している発明は異なっていて、しかも後からの特許出願が行われた時点では秘密状態にあった(=特許出願公開されていなかった)先行の特許出願が、後からの特許出願に対して「特許を認めることができない」とする拒絶理由に引用されたもので「拡大先願」と呼ばれるケースです。これについて説明します。

<先願主義(特許法第39条)>
同じ発明を特許請求している複数の特許出願が特許庁に提出された場合、一日でも先に特許出願を行っていた者でなければ特許取得は認められないという先願主義(特許法第39条)が世界のどの国の特許庁でも採用されています。

同一発明について複数の特許出願が競合したときに、当該複数の特許出願で特許請求されている同一の発明を最も先に完成させたのは誰であるかという基準(先発明主義)で特許の付与を判断しようとすると、発明が完成した時点の立証は簡単でなく、また、特許庁の審査も困難になることなどを考慮して世界の各国特許庁で先願主義が採用されています。

<拡大先願という問題が発生する一例>
次のような場合などに「拡大先願」の規定(特許法第29条の2)によって後からの特許出願に対して「特許付与を認めることができない」という拒絶理由が通知されます。

2020年10月11日
特許出願人甲が特許出願Xを行った(発明者乙)

特許請求している発明:木製の軸の後端に消しゴムが付いている鉛筆
特許出願の際の明細書及び図面に記載されている発明
・断面が丸の木製の軸の後端に消しゴムが付いている鉛筆
・断面が六角形の木製の軸の後端に消しゴムが付いている鉛筆

発明の効果
鉛筆の軸の後端に消しゴムが付いているので間違ったときに消しゴムですぐに消すことができる。

2021年2月13日
特許出願人丙が特許出願Yを行った(発明者丁)

特許請求している発明:断面が六角形の木製の軸の鉛筆
特許出願の際の明細書及び図面に記載されている発明
・断面が六角形の木製の軸の鉛筆

発明の効果
従来の断面が丸の軸の鉛筆だと転がりやすいが、断面が六角形になったことで転がりにくくなった。

2022年4月18日
特許出願Xが特許出願公開された(特許出願公開公報Z)

上述の事例の場合、特許出願Xで特許請求されている発明と、特許出願Yで特許請求されている発明とは異なります。このため、後願の特許出願Yが先願主義の規定(特許法第39条)で拒絶されることはありません。

また、後願の特許出願Yが行われた時点では、先願の特許出願公開公報Zは発行されていません。そこで「新規性欠如(特許出願の日より前に発行されていた特許出願公開公報に記載されている発明と同一であるから特許を認めることができない)」(特許法第29条第1項第3号)の規定で後願の特許出願Yが拒絶されることもありません。

しかし、上述の事例で後願の特許出願Yの出願人である丙が審査請求して審査を受けると、拡大先願の規定(特許法第29条の2)で特許を認めることができない、という拒絶理由を受けることになります。

後願の特許出願Yで特許請求されている発明「断面が六角形の木製の軸の鉛筆」は、先願の特許出願Xの明細書、図面に記載されている発明と同一だからです。

<拡大先願で拒絶されてしまう理由>
特許制度の趣旨は「新規発明公開の代償としての特許権付与」です。新規な発明を一日でも早く社会に公表してもらうことで、技術の累積的な進歩、産業の発達を図ることができます。

そこで、発明者に、一日でも先を争って特許出願してもらい、同一発明については、一日でも先に特許出願を行っていた者を保護することにしています(先願主義)。

上述の事例の場合、後願(2021年2月13日提出)の特許出願Yで特許請求されている発明「断面が六角形の木製の軸の鉛筆」は、先願(2020年10月11日提出)の特許出願Xの明細書及び図面に記載されています。

特許出願Xの明細書及び図面に記載されている発明は「断面が六角形の木製の軸の後端に消しゴムが付いている鉛筆」ですが、発明は「技術的思想の創作」であって概念的なものですから、「断面が六角形の木製の軸の鉛筆」という発明概念も、特許出願Xの明細書及び図面に記載されていると認めることができます。

先願の特許出願Xの明細書及び図面は、後願の特許出願Yが特許庁に提出された2021年2月13日の時点では社会に公表されていません。すなわち、特許出願公開されていません。

しかし、2022年4月18日に特許出願公開公報Zが発行されて、先願の特許出願Xの明細書、図面が公表されると「断面が六角形の木製の軸の鉛筆」という発明概念も社会に公表されることになります。

したがって「断面が六角形の木製の軸の鉛筆」という発明概念を、特許出願によって、最も先に、社会に公表しようとしていた者は、先願の特許出願Xを行った特許出願人甲ということになります。

このような場合に、「新規発明公開の代償としての特許権付与」という特許制度の趣旨から、後願の特許出願で特許請求されている発明「断面が六角形の木製の軸の鉛筆」には特許を与えることができない、という拡大先願の規定(特許法第29条の2)が設けられたものです。

<拡大先願の効果>
拡大先願の規定によって、特許出願を行うことで、特許請求している発明だけでなく、特許請求する発明を説明する目的などで明細書、図面の中だけに記載していた発明概念についても、当該特許出願の日より後に特許庁へ提出される特許出願に特許成立することを防止できます。

すなわち、先願主義の規定によって、自社が行った特許出願で特許請求している発明と同一の発明についての他社による後願特許出願での特許成立を防ぐだけでなく、自社が行った特許出願で特許請求している発明の周囲の、バッファーゾーンというべき領域で、他社による後願特許出願による特許成立を防ぐことが可能になる、というのも特許出願の効果であるということになります。

<発明者・出願人同一の場合は非適用>
同一の発明者が、一回目の特許出願(先願)で特許請求する発明を説明する目的で先願の明細書、図面の中にだけ記載していた発明を、二回目の特許出願(後願)で特許請求することがあり得ます。

また、一回目の特許出願(先願)の特許出願人が、先願の明細書、図面の中にだけ記載していて特許請求していなかった発明を、二回目の特許出願(後願)を行って特許請求しようとすることがあり得ます。

そこで、上述の事例で、先願Xの発明者と後願Yの発明者とが同一である場合には後願Yが拡大先願の規定で拒絶されることはありません。また、後願Yが行われた際に、後願Yの特許出願人と、先願Xの特許出願人とが同一である場合にも後願Yが拡大先願の規定で拒絶されることはありません。

<まとめ>
特許出願で審査を受けた際に最終的に「特許付与は認められない」となるときの拒絶理由の多くは進歩性欠如(特許出願前に知られていた発明に基づいて簡単・容易に発明できた)です。拒絶理由通知を受けて意見書・補正書提出という回答手続を行ったにもかかわらず新規性欠如(特許出願前に知られていた発明と同一である)という拒絶理由で最終的に特許成立が認められれなかった、となることはあまり多くありません。

これと同様に、後願特許出願を行った時点でまだ出願公開されていなかった先願特許出願の明細書・図面だけに記載されていた発明と同一発明を特許請求しているので特許を認めることができないとする「拡大先願」の規定で最終的に特許成立が認められれなかった、となることもあまり多くはありません。

しかし、特許成立の障壁に利用されるこのような拒絶理由がありますので、発明が完成したときには一日も早い特許出願を行うことが肝要です。専門家である弁理士にご相談ください。

<次号の予定>
特許出願では、特許出願の際に提出した、特許請求する発明を説明している文章(明細書)、図面を、特許出願後に補充、訂正することが許されています。

しかし、特許出願の際に明細書、図面に記載していなかった新規な技術的事項を追加する補充、訂正は許されません。この新規事項を追加する補正の禁止ですが、どのようなものが新規事項追加とみなされ、どのような補充、訂正であれば新規事項追加の補正にならずに許容されるのか?次号ではこれらの点について説明します。

■ニューストピックス■

●「特許行政年次報告書2023年版」を公表(特許庁)
特許庁は「特許行政年次報告書2023年版」を公表しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

報告書によると、2022年の特許出願件数は、前年比330件増の28万9530件と、僅かながら増加しました。この数年、出願件数は横ばい状態が続いていますが、大学と民間企業の共同研究実施件数は緩やかに増加しているという実情も明らかになりました。

日本国特許庁を受理官庁とした特許協力条約に基づく国際出願(PCT国際出願)の件数は、2022年は4万8719件となり、依然として高い水準を維持しています。

一方、商標登録出願件数は、近年増加傾向にあり、2022年は17万275件と高い水準を維持。2022年の商標登録件数は前年比5.6%増の18万3804件となり、2021年の商標登録件数(17万4098件)を大きく上回りました。

商標登録件数が増加している背景としては、審査期間の短縮があげられます。特許庁では、審査に関する調査の一部を外部委託したり、任期付審査官の採用を増やすなど、審査体制を強化しています。

また、商標登録出願の願書における「指定商品又は指定役務」の記載が、省令別表(商標法施行規則第6条)及び類似商品・役務審査基準に例示列挙されている商品又は役務の表示とおりである商標登録出願については、商標法第6条第1項、第2項に基づく拒絶理由を起案する必要がなくなることから審査を促進できるとしています。

2022年度の商標登録までの期間は、平均で前年より3カ月ほど短い6.9カ月。平均FA期間(初めての審査結果の通知までの期間)をみると、2021年は8.0カ月でしたが、2022年は5.4カ月と大幅に短縮されています。

●「GUZZILLA」の商標無効、「ゴジラ」と類似(知財高裁)
商標登録を無効とした特許庁審決の取消を建機部品メーカーが求めていた訴訟で、知的財産高等裁判所は「GUZZILLA」(ガジラ)の商標を無効とした特許庁の判断を支持しました。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)

建機部品メーカー「タグチ工業」は建物解体用カッターを「ガジラシリーズ」などと称して販売、2012年に「GUZZILLA」を商標登録しました。これに対し「GODZILLA」(ゴジラ)を商標登録している東宝が特許庁に商標無効を訴え、特許庁は2019年に登録無効と審決しました。

知財高裁は、ゴジラには街や建造物を破壊する力強いイメージがあると分析し、顧客が誘引される可能性があることや両者で2、3文字目は異なるものの、デザイン上見誤るおそれがあり、読み方も「ジラ」が共通していて紛らわしく、混同を生じるおそれがあるとした特許庁の審決を支持しました。

(商標登録第6143667号)

●「トップ10%論文」、中国が2年連続1位(文部科学省)
文部科学省は、世界各国の科学技術の動向を調べた「科学技術指標2023」を公表しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

「科学技術指標2023」は、文部科学省の科学技術・学術政策研究所が各国の2019~21年の科学論文の総数や国際的に注目度の高い論文などを分析した報告書です。

自然科学分野における「注目度の高い論文」をみると、他の論文に引用された回数が上位10%に入る「トップ10%論文」では、中国が2年連続1位(5万4405本)だったことが分かりました。

2位は米国(3万6208本)、3位は英国(8878本)で、米中両国が他国を大きく引き離しています。日本は前回より順位を落として13位(3767本)に後退しました。中国は論文数と極めて注目度の高い「トップ1%論文」でも世界1位となりました。

日本は、論文の本数では、7万775本と、前回調査の6万7688本より4.6%伸びているものの、被引用数の高い論文数では低迷しています。

被引用数は論文の注目度と質を表す指標として用いられます。論文の質と数は、その国や大学の「研究力」を表す指標と考えられています。日本は、2000年代半ばから順位が低下しています。前回調査では、スペインと韓国に抜かれて12位になり、今回、イラン(3770本)に抜かれて13位に後退しました。

一方、パテントファミリー(2カ国以上への特許出願)数をみると、日本は世界シェア26.0%と首位を保っています。パテントファミリーの技術分類では、「織物および抄紙機」「光学」「表面技術、コーティング」のシェアが高いことがわかりました。

●「ファスト映画」訴訟、所在不明者にも賠償命令(東京地裁)
映画会社などが「ファスト映画」と呼ばれる動画の投稿者3人に賠償を求めた裁判で、東京地裁は、このうち所在がわからず当初、裁判の手続きを進められていなかった男性についても、あわせて5億円の賠償を命じました。

裁判は、映画のあらすじが分かるように10分程度に編集した「ファスト映画」と呼ばれる動画をネット上に投稿され、著作権を侵害されたとして映画会社とテレビ局13社が投稿者3人を提訴したものです。

東京地裁は去年、このうち2人に対しては請求通り、あわせて5億円を支払うよう命じていましたが、残る1人の男性は海外にいるとみられ、訴状などを送ることができず、裁判の手続が進められない状態でした。

しかし、原告側が東京地裁に提出した「公示送達申立書」により「公示送達」という制度が採用され、関係書面が裁判所の掲示板に一定期間張り出されることで、訴状が当事者に届いたとみなされました。これを受け、東京地裁は、この男性についても、あわせて5億円の支払いを命じる判決を下しました。

●「2023年度知的財産権制度入門テキスト」公表(特許庁)
特許庁は、「2023年度知的財産権制度入門テキスト」を公表しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

入門テキストでは、産業財産権の概要、特許、実用新案、意匠、商標、不正競争防止法、著作権、育成者権、地理的表示保護などをはじめ、出願書類の様式や知財総合支援窓口の紹介など、幅広い内容を取り上げています。

テキストは、これから知的財産権を学びたい方、企業等において知財部門に配属された方などの初心者を対象に作成されたものですが、社内研修などの目的でも利用が可能です。利用の際は、サイトのガイドラインを読み、出典を明記する必要があります。

 <編集後記>
【今月の一冊】『メディア・広報・WEB制作で働く人のための実例で学ぶ著作権の基礎と実務 永田由美著 ヴァオラ・パブリッシャーズ発行』(Kindle版)著作権について平易な言葉でとても分かりやすく書かれています。

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発行元 藤川IP特許事務所
弁理士 藤川敬知
〒468-0026 名古屋市天白区土原4-157
TEL:052-888-1635 FAX:052-805-9480
E-mail:fujikawa@fujikawa-ip.com

<名駅サテライトオフィス>
〒451-0045 名古屋市西区名駅1-1-17
名駅ダイヤメイテツビル11階エキスパートオフィス名古屋内

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