藤川IP特許事務所メールマガジン 2024年2月号

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◇◆◇ 藤川IP特許事務所 メールマガジン ◇◆◇
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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
                       2024年2月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
┃ 
┃ ☆知財講座☆
┃(25)審査請求をするタイミング

┃ ☆ニューストピックス☆

┃ ■「他人の氏名を含む商標」の登録要件を緩和へ(特許庁)
┃ ■「類似商品・役務審査基準」を改訂(特許庁)
┃ ■「はま寿司」が「かっぱ寿司」を提訴(東京地裁)
┃ ■ユニクロ、中国発通販サイト「SHEIN」を提訴(東京地裁)
┃ ■「特許出願非公開制度」の解説動画を公開(INPIT)
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「不正競争防止法等の一部を改正する法律」(知財一括法)により、「他人の氏名を含む商標」の登録要件が緩和されます。施行日(令和6年4月1日)以後にした出願について適用されることとなります。
創業者やデザイナーの氏名など、これまで登録が困難だった商標について大きく要件が緩和されます。今号では、「他人の氏名を含む商標」の登録要件の緩和について取り上げます。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(25)審査請求をするタイミング
【質 問】
特許出願では出願手続と別個に審査請求という手続を行わないと特許庁での審査が開始されないと聞いています。審査請求をいつ行えばよいのか、審査請求するタイミングの検討にあたって考慮すべき要素としてどのようなものがあるか教えてください。

【回 答】
審査請求するタイミングを検討する際のいくつかの考慮要素について説明します。

審査請求のタイミングを検討する考慮要素

<審査請求を行える期間>
特許出願日から3年以内のいつでも審査請求できます。そこで、特許出願と同時に審査請求することができますし、特許出願日から3年目ぎりぎりの日に審査請求することもできます。そして、出願日から3年以内に審査請求しなければ特許出願は消滅し、その後に復活させて審査を受ける状態に戻すことはできません。

どのタイミングで審査請求するか、なによりも、この審査請求を行うことのできる期間を考慮していなければなりません。

<特許出願した発明についての改良>
特許出願した発明については出願後にも様々な改良、改善が加えられます。特許出願後に研究・技術開発を続けて改良発明が完成した場合であって、改良発明の完成が特許出願後1年以内であるならば、1年以内前の先の特許出願の内容に改良発明を追加した新たな特許出願(「優先権主張出願」といいます)に乗り換えることが可能です。

優先権主張出願の中には優先権主張の基礎にしている先の特許出願の内容が全部取り込まれます。そして、優先権主張出願について審査を受けるときに、優先権主張出願で追加した改良発明については、優先権主張出願の日を基準にして特許性(新規性、進歩性など)が判断されます。

一方、優先権主張の基礎にしていた先の特許出願に記載されていた発明については、優先権主張出願の日ではなく、優先権主張の基礎にした先の特許出願の日を基準にして特許性(新規性、進歩性など)が判断されるという優先的な取扱いを受けます。

このため、優先権主張の基礎にした先の特許出願を残しておく意義はなく、優先権主張出願を行いますと優先権主張の基礎になった先の特許出願は「取り下げたものと見なされ」消滅します。優先権主張出願を行うことができるのは最初の特許出願の日から1年以内に限られています。1年を経過した後は、その改良発明について、独自に特許出願を行う意義があるかどうかを検討することになります。

最初の特許出願の日から1年以内であれば、その後に誕生した改良発明を含めた優先権主張出願に乗り換えることが可能で、優先権主張出願を行うと優先権主張の基礎になった先の特許出願は上述したように消滅します。そこで、最初の特許出願から1年間程度は、特許出願した発明についての改良、改善の進展具合が、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

<審査請求後、審査結果が確定するまでの期間>
特許庁から審査結果を受け取ることができるのは、一般的には、審査請求後11か月程度経過した頃です。
審査の結果、拒絶理由通知を受けると60日以内であれば意見書・補正書を提出して反論し、審査官に再考を求めることができます。

意見書・補正書提出で「拒絶理由は解消し、その他の拒絶理由も発見できない」あるいは、「拒絶理由は解消していない」と、直ちに、審査官が判断できる場合には、意見書・補正書提出後1~2カ月で「特許査定」あるいは、「拒絶査定」という審査官の最終判断を受けます。

なお、意見書・補正書提出により、「拒絶理由は解消しているように思われるので直ちに拒絶査定にすることはできないと思われるが、はたして、その判断でよいのだろうか」と、審査官が更なる調査、審査に進むようになった場合、上述した「特許査定」、「拒絶査定」、あるいは、2度目の「拒絶理由」通知を受けるのは、意見書・補正書提出してから1年程度後になることがあります。

<早期審査>
審査請求と同時に「早期審査の事情説明書」を提出すれば、審査請求後3~4か月程度経過した頃に審査結果(拒絶理由通知あるいは、特許査定)を受け取ることができます。
審査請求してからどの程度の期間で審査結果を特許庁から受け取ることができるかは、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

<特許出願の内容が特許庁から公表される時期>
特許庁は特許出願を受け付けると直ちに特許出願番号と特許出願日を付与します。これによって、同一の発明については最も先に特許出願を行っていた者が特許を受け得るという先願の地位(特許法第39条)を確保できます。

その後、特許庁は、受け付けた特許出願の内容を秘密に保持してくれます。この時点では、だれも特許出願の内容を見ることができません。

一方、特許出願日から18カ月が経過しますと、特許出願の内容が、発明者、特許出願人に関する情報も含めて、特許庁から発行される特許出願公開公報に掲載され、同時に、特許庁のウェブサイトJ-Plat Patで世界中に公表されます。

このため、特許出願後18カ月経過するまでは、特許出願した発明の実施品に「特許出願済」、「特許出願中」という表示を付けていても、どのような技術内容について特許取得が目指されているのか、同業他社は知ることができません。

一方、特許出願日から18カ月経過して上述したように出願公開が行われますと特許出願の内容が同業他社に知られることになります。

そこで、この出願公開の時期は、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

<第三者による特許庁への刊行物提出>
特許出願公開によって特許出願の内容が社会に公表されると、「その発明について特許成立しては困る」等と考える同業他社などが、「この特許出願について審査を行う際に、特許出願前に世の中に公表されていたこれらの文献、等に記載されている情報を利用してください」ということで、特許庁に対して、匿名で、刊行物提出することがあります。

刊行物提出が行われたことは、直ちに、特許庁から特許出願人に通知され、特許出願人は、提出された刊行物の内容を入手・確認できます。
そこで、特許出願公開が行われた後の自社の特許出願に対して「刊行物提出」があるかどうかは、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

<特許出願した発明を製品(商品)として市場に投入する時期>

先願主義(特許法第39条)の下、一日でも先を争って特許出しますから、特許出願した発明を、製品(商品)化して市場に投入できるかどうか、特許出願の時点では未定であることがあります。結果的に、出願日から3年経過する時点でも製品(商品)化のめどが立たず、審査請求しないで特許出願を消滅させることが起こり得ます。

なお、審査請求を行わずに特許出願を消滅させても、特許出願が行われていたという事実と、その出願内容が上述した特許出願公開によって世界中に公表されているという事実は残ります。

特許出願した発明が実施化されている商品を市場に提供する際に特許成立していれば「特許第〇〇〇号」という特許表示を付けることが可能になります。また、審査の結果、特許成立しない場合であっても、進歩性欠如という理由で特許成立しないならば、特許出願した発明を実施化した商品を市場に提供したときに第三者の特許権を侵害する可能性は大きくないことを確認できます。

そこで、特許出願した発明を実施化した商品を市場に提供する時期は、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

<同業他社による実施の動向>
自社の特許出願に成立した特許権に基づいて同業他社の行為に対して権利行使できるのは、特許庁での審査を受けて特許権が成立した後になります。

そこで、自社で特許出願済の発明を実施化したと思われる商品や、自社で特許出願済の発明に特許権が成立したならば「特許権侵害品になりますから製造・販売を中止してください」と権利行使できるのではないかと思われるような商品が同業他社から市場に投入された場合であって、まだ審査請求していないならば審査請求することがあります。

特許権成立するものであるかどうか、特許権成立する場合に特許権に基づく権利行使が可能になるかどうか特許庁の判断を受けるべく審査請求するものです。

このように、同業他社による実施の動向は、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

<次号の予定>
特許庁から審査結果の「拒絶理由通知書」を受け取ったときに、その文面中に「拒絶の理由を発見しない請求項」ということでの記載が存在することがあります。次回は、このような「拒絶理由通知書」を受け取った場合の対応について説明します。

■ニューストピックス■
●「他人の氏名を含む商標」の登録要件を緩和へ(特許庁)
「不正競争防止法等の一部を改正する法律」(知財一括法)により、「他人の氏名を含む商標」の登録要件が緩和されます。施行日(令和6年4月1日)以後にした出願について適用されることとなります。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

創業者やデザイナーの氏名をブランド名として利用するケースは多いと思われます。ただし、現行の商標法においては、他人の氏名を含む商標は、その他人の承諾を得なければ、たとえ自分の氏名であったとしても登録することはできません。

現時点でご自身の氏名の商標を出願したとしても、同じ氏名を持つ人全員の承諾を得ることができる場合や、同じ氏名の人が他にいないといった特殊な場合を除いて拒絶されてしまうため、その登録は極めて困難といえます。

現行法では、創業者やデザイナーの氏名を今後ブランド名として採用する場合だけでなく、既に周知・著名となっているブランドまでも同じ氏名の他人が存在すれば、商標権による保護を受けられないこととなり、その点が問題視されていました。

今回の改正では、「他人の氏名」に一定の知名度の要件と、出願人側の事情を考慮する要件(政令要件)を課し、他人の氏名を含む商標の登録要件を緩和します。

具体的には、次の2つの条件を満たした場合、他人の承諾なしに商標登録できることになります。

1.氏名に一定の知名度を有する他人が存在しない
2.商標構成中の氏名と、出願人との間に「相当の関連性」があり、

商標登録を受けることに「不正の目的」がない「相当の関連性」とは、例えば、出願人の自己氏名、創業者や代表者の氏名、出願前から継続的に使用している店名などです。

また、「不正な目的」とは、例えば、他人への嫌がらせの目的や先取りして商標を買い取らせる目的などです。

●「類似商品・役務審査基準」を改訂(特許庁)
特許庁は、「類似商品・役務審査基準(国際分類第12-2024版対応)」を公表しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

「類似商品・役務審査基準」は、類似関係と推定する商品または役務をグループ分けし、各グループ検索のために特定コードを付与したものです。主に他人の先行商標登録との関係審査に際し、特許庁審査官の統一的基準として使用されています。

商標登録出願の際には、願書の「指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分」の欄に、出願する商標を使用する商品名又は役務名を指定して記載しなくてはなりません。そのため、一般的に出願を行う際は、この「類似商品・役務審査基準」に基づいて具体的な商品名又は役務名を願書に記載しています。

今回公表された改訂版は、令和6年1月1日以降の出願に適用されます。出願の際には最新の「類似商品・役務審査基準」をご参照することをお勧めします。この「類似商品・役務審査基準」は、過去のものを含め、特許庁の公式サイトからダウンロード可能です。

●「はま寿司」が「かっぱ寿司」を提訴(東京地裁)
回転ずし大手「かっぱ寿司」を運営する「カッパ・クリエイト」の前社長が、ライバル会社「はま寿司」の営業秘密を不正に入手して利用した事件をめぐり、はま寿司の親会社のゼンショーホールディングス(HD)は、前社長やカッパ社などに対し、営業秘密の使用禁止や廃棄、5億円の損害賠償などを求めて東京地裁に提訴したと発表しました。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)

ゼンショーHDからカッパ社に転職した前社長は、2020年、はま寿司の原価データなどを不正に持ち出したなどとして、不正競争防止法違反(営業秘密領得)の罪で起訴され、東京地裁で有罪が確定しています。

ゼンショーHDによると、事件の捜査や裁判の過程で、はま寿司各店舗の損益計算書や売上高なども不正取得され、カッパ社内で開示されていたことを確認したとしています。63億円以上の損害が出たと推計した上で、カッパ社や前社長にその一部として5億円を請求し、情報の廃棄なども求めました。

●ユニクロ、中国発通販サイト「SHEIN」を提訴(東京地裁)
衣料品大手のユニクロは、中国発のファッション通販サイト「SHEIN(シーイン)」でショルダーバッグの模倣品が販売されているとして、運営会社など3社を東京地方裁判所に提訴したと発表しました。ユニクロは3社の行為が不正競争防止法に違反するとして、販売停止と約1億6000万円の損害賠償を求めています。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

ユニクロによりますと、「SHEIN」で販売されている商品は、ユニクロが販売する人気商品「ラウンドミニショルダーバッグ」と色や柄が異なった場合でも本体やベルトなどの形状が酷似しているとしています。

ユニクロは、去年9月までに該当する「SHEIN」の商品を把握し、ホームページ上で消費者向けに模倣品・類似品について注意喚起していましたが、今回、企業ブランドと商品の品質に対する信頼を大きく損ねているとして、提訴に踏み切りました。賠償額は、模倣品による自社商品の販売減少分などとしています。

●「特許出願非公開制度」の解説動画を公開(INPIT)
INPIT「(独)工業所有権情報・研修館」は、知的財産e-ラーニングサイト「IP ePlat」において、本年5月1日に施行される「特許出願非公開制度」に関する解説動画を公開しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

特許出願非公開制度は、公にすることにより国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が記載されている特許出願につき、出願公開等の手続を留保するとともに、その間、必要な情報保全措置を講ずることで、特許手続を通じた機微な技術の公開や情報流出を防止する制度です。

解説動画では、制度概要、手続の流れ、外国出願に関する留意事項等について解説しています。特に、特定技術分野に属する発明については、日本へ出願せずに外国出願(PCT出願を含む)をすることが禁止される場合がある等、留意が必要です。

<編集後記>
【今月の一冊】
『それってパクリじゃないですか?~新米知的財産部員のお仕事~2』
『それってパクリじゃないですか?~新米知的財産部員のお仕事~3』
昨年3月号で紹介した同作品の第1作に続き、第2作、第3作が発行されています。特許庁審査官との面接審査など、知財実務で身近な場面が登場します。

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発行元 藤川IP特許事務所
弁理士 藤川敬知
〒468-0026 名古屋市天白区土原4-157
TEL:052-888-1635 FAX:052-805-9480
E-mail:fujikawa@fujikawa-ip.com

<名駅サテライトオフィス>
〒451-0045 名古屋市西区名駅1-1-17
名駅ダイヤメイテツビル11階エキスパートオフィス名古屋内

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