藤川IP特許事務所メールマガジン 2024年3月号

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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
                       2024年3月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
┃ 
┃ ☆知財講座☆
┃(26)拒絶の理由を発見しない請求項
┃ 
┃ ☆ニューストピックス☆

┃ ■商標の「コンセント制度」を導入(特許庁)
┃ ■審査請求料の減免制度を改正(特許庁)
┃ ■AIの安全性評価の研究機関を設立(経済産業省)
┃ ■J-PlatPatの機能改善(特許庁)
┃ ■「不正競争防止法テキスト」の最新版を公表(経済産業省)
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本年4月1日より商標の「コンセント制度」が導入されます。 
「コンセント制度」とは、他人の先行登録商標と同一又は類似の商標が出願された場合であっても、先行登録商標の権利者による同意があり、なおかつ、先行登録商標との間で混同を生じるおそれがないならば、両商標の併存登録を認める制度(留保型の併存合意制度)です。

今号では、「コンセント制度」の概要を取り上げます。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(26)拒絶の理由を発見しない請求項
【質問】
特許庁で審査を受けて拒絶理由通知書を受けました。最後に<拒絶の理由を発見しない請求項>という項での記載があります。これは何なのでしょうか?

【回答】
特許出願に審査を受けて特許庁審査官から受ける拒絶理由通知書の最後に<拒絶の理由を発見しない請求項>という欄が設けられていて、例えば、「請求項2に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。」のように記載されていることがあります。このようなときの対応について説明します。

<特許請求の範囲には複数の発明を記載できる>
特許出願では、特許請求の範囲に特許権取得を希望する発明を記載し、明細書に(必要な場合には図面を利用して)特許権取得を希望する発明を、当業者が実施、再現できるように明確かつ十分に記載します。
特許請求の範囲には複数の請求項を設けて複数の発明について審査を受けることができます。

特許庁がホームページで公表している「2023年度 知的財産権制度入門テキスト」の第2章 産業財産権の概要 第1節 特許制度の概要には「鉛筆」の発明を用いて特許権の効力、特許発明の技術的範囲を説明している項があります。

▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

ここでの説明を参照した特許請求の範囲の記載としては次のようなものが考えられます。
【特許請求の範囲】
【請求項1】断面が六角形の木製の軸を有し、当該軸の表面に塗料を塗ったことを特徴とする鉛筆。
【請求項2】消しゴム付きであることを特徴とする請求項1記載の鉛筆。

請求項1の発明で特許成立すれば、「断面が六角形」の「木製の軸」で「軸の表面に塗料を塗った」鉛筆であれば、すべて特許権の効力範囲に入って、第三者による実施(製造、販売)行為を、特許権侵害として排除可能になります。

一方、請求項1の発明では特許成立せず、請求項2の発明のみで特許成立した場合には、「断面が六角形」の「木製の軸」で「軸の表面に塗料を塗った」ものであって、なおかつ「消しゴム付き」の鉛筆だけが特許権の効力範囲に入ることになります。第三者が「断面が六角形」の「木製の軸」で「軸の表面に塗料を塗った」鉛筆を製造、販売していてもそれを「特許権侵害」として排除することはできません。

上述の例では、請求項1の発明の方が請求項2の発明よりも効力範囲が広いわけですから、請求項1の発明のみを特許請求の範囲に記載しておいて審査を受けることもできます。
しかし、「進歩性欠如で特許を認めることができない」等の拒絶理由を受けて解消を目指す際に、明細書、図面の記載に基づいて特許権の効力が及ぶ範囲をどこまで狭めれば拒絶理由解消可能になるのか判断するのは簡単ではありません。

そこで、特許請求の範囲の請求項1に最も上位概念の発明、すなわち、他社の実施行為に対して「特許権侵害です」と追及できる効力範囲が最も広い発明を記載し、請求項1を引用する形式の請求項2に請求項1よりも下位概念で請求項1よりも効力範囲が狭い発明を記載する等して、特許請求の範囲に複数の発明(請求項)を記載して特許出願するのが一般的です。

<「拒絶理由を発見しない」との指摘を受ける場合>
特許請求の範囲に記載されている複数の発明が「発明の単一性」等の要件を満たしていれば、特許請求の範囲に記載されている複数の発明それぞれについて審査が行われ、特許請求の範囲に記載しているすべての請求項に係る発明についての審査結果が拒絶理由通知書で通知されてきます。

この際、より効力範囲が広い請求項1記載の発明の方が、効力範囲が狭い請求項2記載の発明よりも「進歩性欠如」を指摘する拒絶理由を受ける可能性が大きくなるのが一般的です。

例えば、上述の例で、特許庁の審査における調査で「断面が六角形の木製の軸を有する鉛筆」の発明が記載されている先行技術文献1と、「断面が円形の木製の軸を有し、その断面円形の軸の表面に塗料が塗られている鉛筆」の発明が記載されている先行技術文献2とが発見されたが、鉛筆に消しゴムを付属することが記載されている先行技術文献や、鉛筆に消しゴムを付属させることを発想するきっかけになると思われる記載が存在している先行技術文献を発見することはできなかったとします。

この場合、請求項1記載の発明については、先行技術文献1、2に記載されている発明を組み合わせることで、当業者が、簡単、容易に発明できたという論理付けで進歩性欠如の拒絶理由が成立するが、請求項2記載の発明については拒絶理由を発見できない、ということになります。

このような場合に拒絶理由通知書の最後に<拒絶の理由を発見しない請求項>という項が設けられて上述した記載が行われます。

<特許出願人の取り得る対応>
このような場合には次のような対応が可能です。

(1)補正を行わないで意見書のみ提出する
上記で説明した事例のような場合には難しいですが、請求項1の発明に対する「進歩性欠如」を指摘する拒絶理由の論理付けが妥当性を欠いていると思われることがあります。このようなときには、より広い効力範囲での特許取得を目指して、審査を受けていた請求項1、2の状態のままで特許請求の範囲を補正せず、意見書を提出して、拒絶理由の論理付けが妥当性を欠いていることを具体的に指摘し、審査官に再考を求める対応が可能です。

(2)請求項2の発明のみに補正し、請求項1の発明を分割出願する
上記(1)のように対応した場合であって、審査官が意見書での主張内容によっても「拒絶理由は解消していない」と考えるときには、審査官の最終判断たる拒絶査定が下されてしまいます。この場合、拒絶理由通知書で「拒絶理由を発見できない」とされていた請求項2記載の発明について特許権取得するためには拒絶査定不服審判を請求する必要が生じます。

そこで、請求項1の発明に対する「進歩性欠如」を指摘する拒絶理由の論理付けは妥当性を欠いているように思われるが、意見書提出で審査官に再考を求めたときに確実に拒絶理由を解消できるか不明の時には、「拒絶理由を発見しない」とされた請求項2の発明のみに補正して早期に特許成立を目指し、一方、効力範囲の広い請求項1の発明については、本件特許出願から分割し、新たな特許出願にしてもう一度審査を受ける対応が可能です。

本件特許出願から分割した新たな特許出願で、再度、同一内容の拒絶理由を受け、それに対して意見書を提出し、拒絶理由の論理付けが妥当性を欠いていることを具体的に指摘して審査官に再考を求め、請求項2の効力範囲での特許権だけでなく、より広い効力範囲の請求項1発明での特許権取得を目指すものです。

なお、分割出願は、拒絶理由通知書で指定された応答期間(拒絶理由通知書発送日から60日以内)に行うことができますが、上述のように、本願発明の特許請求の範囲を請求項2の発明のみにする補正を行って「特許を認める」という「特許査定」を審査官から受けてから30日以内(ただし、特許査定に応じて特許権を成立させるための1~3年分の特許料を特許庁に納付する前)に行うことも可能です。

(3)請求項2のみに補正する
より広い効力範囲の請求項1発明での特許権取得を断念し、請求項2発明の効力範囲で特許権成立するだけで十分であるならば、上述の拒絶理由通知書に対して、請求項1を削除して特許請求の範囲記載の発明を請求項2だけにする補正を行い、このように補正したことで特許請求の範囲に記載されている発明は「拒絶理由を発見しない」とされた発明のみになったことを意見書で説明することで直ちに「特許査定」を受けることが可能になります。 

いずれにしても、上位概念の発明に対して「進歩性欠如」を指摘する拒絶理由の妥当性、成立する特許権の効力範囲などについて専門家である弁理士によく相談してから対応することをお勧めします。

■ニューストピックス■
●商標の「コンセント制度」を導入(特許庁)
「不正競争防止法等の一部を改正する法律」(知財一括法)により、本年4月1日から商標の「コンセント制度」が導入されることとなりました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

「コンセント(consent:同意)制度」とは、他人の先行登録商標と同一又は類似の商標が出願された場合であっても、先行登録商標の権利者による同意があり、なおかつ、先行登録商標との間で混同を生じるおそれがないならば、両商標の併存登録を認める制度(留保型の併存合意制度)です。コンセント制度に係る改正商標法の規定は、令和6年4月1日から施行されます。

これまで日本では、単に当事者間で合意がなされただけでは併存する類似の商標に関して需要者が商品又は役務の出所について誤認・混同するおそれが排除できない等の理由から導入が見送られてきました。一方、海外においては既に多くの国や地域で、コンセント制度が導入されています。

また、日本ではコンセント制度に代わり、「アサインバック」(出願人と先行登録商標権者の名義を一時的に一致させる手法)制度が利用されていましたが、アサインバックは、一時的に名義を一致させて拒絶理由を解消させた後、名義を元に戻す名義変更をもう一度行う必要があることから、手続が煩雑となり、時間的・費用的負担も課題となっていました。

そこで、中小企業等のブランド選択の幅を広げる必要性や、国際的な制度調和の観点から、本年4月1日よりコンセント制度が導入されることになりました。

日本のコンセント制度は、先行登録商標の権利者の同意があれば、両商標の併存登録を認める制度を採用しつつ、他方で、同意があっても、なお出所混同のおそれがある場合には登録を認めない「留保型」となっています。

改正商標法が施行される令和6年4月1日以降に出願が行われたものについては、先行登録商標権者の承諾を得ており、かつ、先行登録商標と出願商標(両商標)との間で混同を生ずるおそれがないものについては、登録が認められることとなります。また、同日に2つ以上の商標登録出願があった場合にも、コンセント制度の利用が可能となります。

コンセント制度が導入されると、商標や商品・役務が同一・類似の先行登録商標と後行登録商標の2つが併存するケースが想定されます。そのため、併存登録された商標については、登録後の混同防止を担保するため、一方の権利者の使用により他の権利者の業務上の利益が害されるおそれのあるときに、当該使用について両商標間における混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを他の権利者が請求できる「混同防止表示請求」(第24条の4第1号及び第2号)の規定や、一方の権利者が不正競争の目的で他の権利者の業務に係る商品又は役務と混同を生ずる使用をしたときに、何人もその商標登録を取り消すことについて審判請求できる「不正使用取消審判」(第52条の2第1項)の規定が設けられました。

なお、上述した混同防止表示請求及び不正使用取消審判の規定は、設定登録前のアサインバックにより、改正法施行時点で併存登録されている商標に対して、改正法施行日である令和6年4月1日から適用されることになっています。

●審査請求料の減免制度を改正(特許庁)
特許庁は、中小企業等が利用できる特許出願の審査請求料の減免制度について、件数制限を設けると発表しました。本年4月1日以降に審査請求した出願における審査請求料の減免申請に対して、本制度が適用されます。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

改正後は、中小企業等に対する審査請求料の減免制度の適用件数の上限が、一年度(毎年4月1日から翌年3月31日)あたり180件となります。

特許出願の審査請求料は、減免措置の適用を受けることによって、その費用が半額以下となりますが、近年、一部の企業が審査請求料の減免を、制度の趣旨にそぐわない形で利用している実態があり、件数制限を設けることにしました。ただし、小規模・中小スタートアップ企業、大学・研究機関等には、この上限は適用されません。

●AIの安全性評価の研究機関を設立(経済産業省)
経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、AIの安全性の評価手法などを研究する専門機関を設立しました。
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

新たな研究機関「AIセーフティ・インスティテュート(AISI)」は、AI開発や著作権侵害、偽情報の拡散などといったリスクに対する安全性の評価や指標を調査・研究し、国際連携を行うことを目指しています。所長には、元日本IBMのAI研究者で、現在は損保ジャパンCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)で京都大学防災研究所客員講師の村上明子氏が就任しました。

今後、国内外のネットワークを活用して、安全性評価に関する調査や基準の検討、実施手法に関する検討、および他国の関係機関との国際連携などを進める方針です。

●J-PlatPatの機能改善(特許庁)
特許庁と(独)工業所有権情報・研修館(INPIT)は、特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」の機能を改善したと発表しました。

<改善された主な機能>
・商標検索及び審決検索における人名検索を完全一致検索から部分一致検索に変更
・検索条件を5件まで保存
・文献固定アドレスの簡素化(短縮)
・「分割出願情報」タブへの表示追加

機能の詳細は、工業所有権情報・研修館(INPIT)のHP
▷詳細はこちら(別サイトが開きます)

●「不正競争防止法テキスト」の最新版を公表(経済産業省)
経済産業省は「不正競争防止法テキスト」の最新版を公表しました。
▷詳細はこちら(PDFが開きます)

テキストは、不正競争防止法の概要や各行為の類型が掲載されており、全体的に不正競争防止法を知りたい方向けの冊子になります。改訂版では、本年4月1日に施行される改正不正競争防止法の項目を盛り込んだ最新の内容となっています。

<アップデートされた主な項目>
・形態模倣品の提供行為に係る不正競争行為に電気通信回線を通じて提供する行為を追加
・営業秘密・限定提供データの保護の拡充(限定提供データの定義の見直し、損害賠償額の算定規定・使用等の推定規定の拡充、国際的な営業秘密侵害に係る手続(裁判管轄・適用範囲)
・外国公務員贈賄罪に係る規律の強化(法定刑の引上げ、場所的適用範囲の拡大)

<編集後記>
【今月の一冊】『こうして知財は炎上する ビジネスに役立つ13の基礎知識(稲穂健市 NHK出版新書)』ニュースなどで聞き覚えのある身近な事例をもとに知的財産権の現状がわかりやすく解説された本。

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発行元 藤川IP特許事務所
弁理士 藤川敬知
〒468-0026 名古屋市天白区土原4-157
TEL:052-888-1635 FAX:052-805-9480
E-mail:fujikawa@fujikawa-ip.com

<名駅サテライトオフィス>
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